解答1 出題2

RGW@R ZG3zWHQ@XE


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「これ、一見なんの意味も持たない文字の羅列に見えるけど、そういう手合いは逆にわかりやすいんだ。つまり、こういうのは換字式暗号と相場が決まってる――ああ、換字式暗号というのは、特定の文字を特定の文字に入れ替える暗号のことだ。有名なシーザー暗号や二銭銅貨、それからポケベル暗号なんかもこれにあたる」


「ああ、なんだかどれも聞いたことがあるような、ないような……石椛先輩?」


 石椛先輩はそれを言ったきり黙り込んでしまって、なかなか続けようとしない。しばらく待っていると、彼は「はあ」と、また例の色気たっぷりの溜息を吐いて、ノロノロとした口調で言葉を綴った。


「あまりにも馬鹿馬鹿しくて真面目に解説する気になれない……難しい説明は省くか――要は復号に必要な対応表さえわかれば、この暗号を解くには難しくない。そして、その対応表がこれ」


 緩慢な動きでポケットからスマホが取り出される。スリープが解除されると、そこにはパソコンのキーボードの画像が映っていた。


「キーボードに書かれたアルファベットとひらがなを対応させれば復号できる。例えば、『R』は『す』に、『G』は『き』に、『W』は『て』に、という風にね。ああ、『@』は濁点だ。それから小文字の『z』は、おそらく促音を表しているんだろうね。で、それを踏まえて以下の暗号を復号すると、『すきです つきあってください』となる――文言がベタ過ぎて、これも暗号なのかと一瞬だけ思ったよ」


 石椛先輩はなんでもないことのように言うが、私はすっかり感心していた。


「すごいです! ひと睨みでわかってしまうなんて!」


「どうも。お世辞として受け取っておくよ」


 黄色い歓声を上げてみるが、石椛先輩はやはりつれない。

 彼は一仕事終えた感じで首をコキコキ鳴らす。


「さ、もう帰った帰った。僕は眠たいんだ。お帰りは同じ扉からどうぞ。入ってきた扉を覚えてるならね。僕は少し寝るから、退室は静かにお願いするよ」


「学校で寝ないでください」


「放課後なんだ。僕がどこでなにをしようと僕の自由だろう」


 言って、本当に眠たげに欠伸をする石椛先輩。彼の顔つきは最高に精悍だけど、瞳がトロンとすると途端にキュートだ。母性、開眼!


「――って……あ、あ、ホントに寝ようとしないでください。暗号解読の依頼があるんです」


 船を漕ぎ始めた石椛先輩の肩を揺する。


「暗号? それなら、たった今解いただろう?」


「それとはまた別の暗号があるんですよ」


「……僕はその手紙の暗号を解読すればいいのか、と確かめたはずだけど?」


「はい、たしかに。けど、私その質問に答えましたっけ?」


 あたしー、首を竦めただけなんですけどー。

 きゅるるんとした目を石椛先輩に向ける。彼は眠たげな目に鋭い眼光を宿して、私を強く睨み付けた。やだー、センパイこわーい。


「ちっ、小癪なことを」


「あんっ……暗号のことは嫌いでも、私のことは嫌いにならないでくださいね?」


「無理な相談だね――いいよ。一杯食わされたことは認めよう。それで? 僕に解いてほしい暗号っていうのは?」


「これです」


 通学鞄の中から、預かった手紙を取り出す。

 石椛先輩はそれを受け取ると、面倒くさそうに目を通した。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


26 27 28 29 31 42 44 45 46 58 59 60 61 63

十六夜くんへ


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※


「数字か……」


 石椛先輩が低い声で言った。


「どうです? わかりそうですか?」


「……この時点じゃなんとも」


「さすがにですか」


「末尾に宛名が書いてあるということは、これも手紙なのか。なんで手紙を暗号にするかな……誰からの手紙かはわかってるのかい?」


「小春ちゃんです」


 小春ちゃん――星野小春。川原くんの綴った暗号ラブレターを受け取った娘の名前だ。


「実は石椛先輩がさっき解読した暗号なんですけどね、受け取った小春ちゃんも自力で解読できたんですよ。二日ほどかかったらしいですけど」


「なんだ、解けてたのか。なら、なんでわざわざ僕に解かせたんだ?」


「ふ、そんなのは決まっているでしょう。噂に名高い石椛先輩の推理力が本物かどうかテストするためです」


「なかなか生意気じゃないか」


「石椛先輩」


「……なんだい?」


「合格」


「黙れ」


 白い肌に青筋を浮かべる石椛先輩。や~い、紙耐久~。


「で、見事川原くんの暗号を解読して自分が告白されていることを知った小春ちゃんなんですけど、なんとそのお返事を手紙に認めたわけなんです。暗号で」


「それがこれだと」


「はい。それを受け取った川原くんは三日三晩悩んだあと、どうしても解けなくて私に泣きついてきたんですよ」


「君に?」


「はい。この江ノ島ほのかに」


「その川原という男は、よほど人を見る目がないようだね」


 ははは、またこの先輩ったら憎まれ口を叩いちゃって。このこのー。


「でも、川原くんに泣きつかれたはいいものの、私も一晩考えても解けなかったんですよね。だから今朝、小春ちゃんに訊いてみたんです」


「暗号の解読法を? 作った本人に?」


「はい」


「すごいことをするね。で、答えてもらえたのかな?」


「いえ。でもヒントは貰えました。『特別棟に行くといいかも』と。私にはすぐにぴんと来ましたね。石椛先輩に頼れと言っているのだと。私、噂には耳聡いんですよ。アンテナの感度がビンビンなので」


「ああそう」


「きゃっ。感度ビンビンなんて、センパイのえっち……」


「言ったのは君だよ」


 疲れたようにツッコミながら、石椛先輩は暗号文を睨み付ける。


「しかしまあ、これほど徒爾な解読作業は初めてだ」


「徒爾?」


「無意味という意味だよ」


「いえ、言葉の意味は知ってます。どうしてこの暗号の解読が無意味なのかがわからなかったんです」


「そりゃあ君、この暗号文がなにを示してるかなんて、解くまでもなくわかるからさ」


 石椛先輩は当たり前の道理を説くみたいに言った。


「いや、そんな当然の常識みたいに言われても……」


「だってこの手紙はラブレターに対する返信なんだろ? なら、内容はイエスかノーかの二択に決まってるじゃないか」


「あ、そうですね」


「そして……まあこれは自分の身になって考えてみればわかると思うけど、わざわざ断りの返事を入れるために手紙なんて書くだろうか? それも暗号化までして」


「………」


 まあ、そう言われてみるとたしかにその通りだ。告白を断るために、わざわざ手紙を書いたりなんかしない。返事が手紙だったということは、もうその時点でイエスと言っているようなものだ。


「ま、そういう先入観を利用して気を持たせるだけ持たせておいて、暗号を解いてびっくり、お断りの手紙でしたってオチなら、満点大笑いなんだけどね」


「小春ちゃんはそこまで性格悪くないですよ」


「どうかな」


 まあ冗談だろうけど、割合本気で小春ちゃんの悪戯を疑っているようなので、友人の名誉のためにそこは否定しておく。


「小春ちゃんはまさしく、貞淑って言葉が服を着て歩いているような女の子ですよ。相手がどんな人でも、たとえ年下だったとしても、誰に対しても平等にさん付けで呼ぶような女の子です」


「ん?」


 と。

 石椛先輩はその言葉に反応した。


「どうしました?」


「その星野小春って女は、誰のこともさん付けで呼ぶのかい?」


「女って……まあ、はい。そうですよ。私のことも『江ノ島さん』と余所余所しく呼ぶんです。『ほのか』で良いと何度も言ってるんですけど」


「川原十六夜のことは?」


「はい?」


「だから、川原十六夜のことは、星野小春はなんて呼んでるんだい?」


「……『川原さん』ですけど?」


 答えると、石椛先輩は目を細めて、「ふぅ」と細く息を吐いた。どうも呆れたような表情だ。が、これに関しては本当に心当たりがないので、首を傾げるよりない。


「君ね、そういう重要なことはもっと早く言ってくれないか。時間を無駄にしてしまったじゃないか」


「え」


 なんだ?

 その口ぶりはなんだ? 

 まるで……まるで、謎が解けた探偵かのようじゃないか。


「解けたんですか?」


「ん?」


「その暗号、解けたんですか?」


「……君、意外と人心に聡いんだね――ああ、その通りだよ。ちょっと待ってね……ああ、やっぱりだ」


 石椛先輩は小春ちゃんの手紙にもう一度目を通すと、小さく鼻を鳴らした。


「復号完了。悪くない暗号だった」


 

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