第三章 生理学
【代謝】
基礎代謝率は体重あたりで人間の約一・三倍と高く、これが高い身体能力を支える一方、頻繁な食事を必要とする要因となっている。体温は平均三六・二度とやや低く、寒冷耐性は人間より低い。
特筆すべきは「代謝シフト」と呼ばれる能力である。食糧不足時に基礎代謝を最大四〇パーセント低下させ、休眠状態に近い省エネモードに移行できる。この状態では体温が三二度程度まで低下し、最長で三週間の絶食に耐えられる。この能力は、地下生活における食糧供給の不安定さへの適応と考えられている。
【消化器系】
胃のpHは人間(一・五から三・五)より低い〇・八から一・二で、腐肉や生肉に含まれる病原体への耐性が高い。動物の死骸を発見した場合、腐敗が進んでいても食糧として利用できる。
盲腸は人間より発達しており、植物繊維の発酵分解能力を保持している。木の根、樹皮、キノコなど、人間には消化困難な食物も栄養源にできる。この雑食性の消化器系が、多様な環境への適応を可能にした。
【免疫系】
創傷治癒速度は人間の約二倍で、軽度の裂傷は二四時間以内に閉鎖する。地下環境での外傷リスクに対する適応と考えられる。
一方、適応免疫系は人間ほど精緻ではなく、ウイルス性疾患への感受性が高いという弱点がある。歴史的に人間との接触で多くの感染症被害を受けてきた背景には、この免疫学的脆弱性があった。特に天然痘と麻疹は、何度もゴブリン社会に壊滅的な打撃を与えた。
【内分泌系と表現型可塑性】
ゴブリンの内分泌系は、人間と比較して極めて可塑性が高い。これが、後述する多様な「発達経路」を可能にしている。
特に重要なのは、成長ホルモン系と性ホルモン系の調節である。ゴブリンの下垂体は、環境刺激(栄養状態、社会的ストレス、集団密度など)に応じて、ホルモン分泌パターンを劇的に変化させることができる。
この「環境応答型内分泌調節」により、同じ遺伝子型を持つ個体でも、発達環境によってまったく異なる表現型(体格、能力、行動傾向)を示すことになる。これは社会性昆虫のカースト分化に類似したシステムであり、哺乳類では極めて珍しい。
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ゴブリン(Homo goblinus)――生物学的記載と人類史における位置づけ @hashito_
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