第15話 巨大デパートは、逃げ場を隠している
巨大デパートは、街の中央にあった。
正確に言えば、
「街だったものの中央」に、まだ立っていた。
周囲の建物は半壊か全壊で、道路は瓦礫に埋まり、かつての区画はもう判別できない。
それでも、この建物だけは、外観を保ったままそこにあった。
――だから、溜まる。
人も。
モンスターも。
そして、逃げ遅れたものも。
「内部、ほぼ空です」
通信越しに、オペレーターの声が響く。
「避難は完了。
生命反応は、モンスターのみ」
それを聞いて、俺は一度だけ深く息を吐いた。
人がいない。
それだけで、ここに来る意味は成立している。
入口は、三つ。
正面玄関。
地下駐車場。
搬入口。
どれも、
「入りやすく、出にくい」構造だ。
「行くのは、正面からだ」
俺はそう言って、崩れかけた自動ドアの前に立った。
ガラスは割れ、金属フレームが歪んでいる。
だが、内部はまだ暗く、奥行きが分からない。
深い。
それが第一印象だった。
一歩、足を踏み入れる。
空気が、変わる。
外よりも静かで、外よりも重い。
音が吸われる感覚がある。
天井が高く、通路が広い。
その分、視線の死角が多い。
「……典型的な、最悪だな」
誰に向けたでもない独り言が、床に落ちた。
エスカレーター。
吹き抜け。
無数の店舗。
人のために作られた空間は、
人がいなくなると、巨大な檻になる。
歩く。
足音が、妙に反響する。
それに合わせるように、
遠くで、何かが動いた気配がした。
最初のモンスターは、
三階の吹き抜けから現れた。
影が落ちる。
重い音。
一体。
いや、違う。
複数いる。
「……来たか」
俺は立ち止まり、逃げ道を確認する。
背後は入口。
左右は店舗。
上は吹き抜け。
どこも、
「逃げられるが、逃げ切れない」。
幸運は、もう俺を守らない。
それを、
身体が理解している。
今までなら、
足が勝手に動いた。
危険を避ける方向に。
だが今は、
何も起きない。
「……なるほど」
喉が、乾く。
これが、縛った後の世界か。
モンスターが、降りてくる。
一体、二体、三体。
動きは速くない。
だが、数が多い。
そして――
後ろからも、音がする。
振り向いた瞬間、
地下への階段付近から、別の影が現れた。
挟まれている。
「包囲、開始……か」
通信は、まだ繋がっている。
だが、
外からの介入はできない。
建物が、でかすぎる。
内部構造が、複雑すぎる。
「問題なし」
俺は、そう報告した。
声が、思ったより落ち着いていた。
「……まだ」
呟く。
モンスターたちは、
一気に来ない。
じわじわと、
距離を詰める。
逃げ道を潰す動きだ。
賢い。
俺は、吹き抜けの中央に立った。
敢えて、だ。
端に寄れば、
壁に追い詰められる。
中央なら、
まだ――
天井が、
軋んだ。
一瞬、
背筋が凍る。
上だ。
天井裏。
見えないが、
確実に何かがいる。
「……ああ」
理解する。
この建物は、
“縦”も使われている。
上下。
表と裏。
客用と、裏導線。
巨大デパートは、
戦場として完璧だった。
通信が、
一瞬だけノイズを帯びた。
「……内部、
反応増加……」
途切れる。
俺は、
深く息を吸った。
「……ここで」
小さく、
だがはっきり言う。
「天運、来るか」
まだ発動しない。
当然だ。
天運は、
“最悪に近い時”にしか来ない。
モンスターが、
一斉に動いた。
前から。
横から。
上から。
逃げ道は、
もうない。
その瞬間。
俺は、確信した。
ここは、
生きて出る場所じゃない。
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