第6話 軽い縛りは、軽くなかった
指揮所の片隅で、
俺は一人、画面を見ていた。
【スキル編集】
【制約を追加しますか?】
昨日までは、
こんな項目、存在しなかった。
あるいは、
俺が見ようとしていなかっただけか。
「……軽く、でいい」
独り言みたいに呟く。
重い制約は無理だ。
命に関わるとか、
常時痛覚とか、
そんな覚悟は、まだない。
だから――
軽い縛り。
最初に選んだのは、幸運だった。
常時発動。
俺の近くで、都合のいいことが起きる。
その代わり、
周りが削れる。
なら。
【制約案】
・発動範囲を縮小
・効果量を低減
・発動条件を限定
俺は、
一番無難そうなものを選んだ。
【幸運:制約追加】
発動範囲を“半径3メートル以内”に限定
「……これなら」
誰かが巻き込まれる距離を、
減らせる。
俺が動かなければ、
影響も小さい。
そう考えた。
【制約の重さ:軽】
【還元スキルポイント:+1】
画面の数字が、
一つだけ増える。
【スキルポイント:102】
「……たった1か」
正直、
拍子抜けだった。
でも、
軽い制約だから当然だ。
そのとき、
外が騒がしくなった。
「追加侵入!」
「今度は小型だ!」
考える暇は、
なかった。
避難所の外。
瓦礫の間を、
素早く動く影。
前より小さい。
でも、数が多い。
能力者たちが迎撃に出る。
俺は、
後方に残されたままだ。
――大丈夫だ。
幸運は、
半径3メートルだけ。
俺は、
誰にも近づかない。
最初は、
うまくいっているように見えた。
敵の一体が、
足を滑らせる。
別の一体が、
仲間にぶつかる。
「よし……」
小さく、息を吐いた。
次の瞬間。
避難所の入り口で、
銃声がした。
弾が、
俺のすぐ横を通り過ぎた。
「――っ!」
反射的に身を縮める。
気づく。
半径3メートル。
俺を中心に、円がある。
その円の“内側”で、
運が働く。
でも――
外側は、完全に切り捨てられている。
銃を撃った能力者が、
叫ぶ。
「弾が逸れた!
なんで――」
次の瞬間、
敵の攻撃が直撃した。
倒れる。
「……あ」
声が、出なかった。
幸運は、
弱くなっていない。
狭くなっただけだ。
だから――
円の外で起きる不運は、
以前より露骨になる。
結果は、
一目で分かった。
俺の近く:
事故が起きない
少し離れた場所:
被害が集中する
「下がれ!」
幼馴染の声が飛ぶ。
遅れて、
俺の異変に気づいたらしい。
戦闘は、
すぐに終わった。
小型だったからだ。
でも、
負傷者は増えた。
指揮所に戻る途中、
誰かが俺を見た。
責める目じゃない。
でも、
理解してしまった目。
俺は、
画面を開く。
【幸運:制約中】
【発動範囲:半径3m】
その下に、
小さく警告が出ていた。
【注意:範囲外への影響は保証されません】
「……そういうことか」
呟いた声は、
震えていた。
軽い制約は、
軽い責任だと思っていた。
違う。
制約は、
“世界の歪み方を指定する”だけだ。
俺は、
ポイントを1つ得た。
その代わりに、
被害の形を、
より分かりやすくした。
「……失敗だな」
自分に言い聞かせる。
でも、
画面の数字は変わらない。
【スキルポイント:102】
戻らない。
軽く縛ったつもりで、
軽く失敗した。
この制度は――
試行錯誤に向いていない。
俺は、
深く息を吸った。
次に制約を付けるなら、
もっと重く。
もっと覚悟を持って。
そして、
多分――
俺自身を削る形になる。
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