第5話 代償は、選べるらしい

後方の指揮所は、

奇妙な静けさに包まれていた。


怒号も悲鳴もない。

あるのは、

キーボードの音と、低い声だけだ。


俺は、簡易ベッドに座らされていた。


「……動くなよ」


医療班に言われ、

毛布をかけられる。


動く気も、

正直なかった。


「お前」


背後から声がした。


振り向くと、

幼馴染が立っていた。


顔に血。

拳は、まだ震えている。


「前線、どうなった」


「持ち直してる」


短い返事。


その言い方で、

代償が出ていると分かる。


幼馴染は、

俺の横に腰を下ろした。


「聞いといた方がいいことがある」


「……なに」


「スキルの話だ」


俺は、

無意識に視線を逸らした。


今は、

あまり聞きたくない。


でも――

逃げられない空気だった。


「能力にはな」


幼馴染は、

自分の手のひらを見る。


「制限を後付けできる」


「制限?」


「デメリットだ」


短く、はっきり。


俺は、

首を傾げた。


「……弱くなるってことか」


「違う」


即答。


「重くする」


幼馴染は、

自分の能力を例に出した。


「俺のは、

 身体能力を限界まで上げる」


「知ってる」


「最初は、

 常時発動だった」


嫌な予感がした。


「結果、どうなったと思う」


「……身体、壊れるだろ」


「壊れた」


即答だった。


「だから、

 制限を付けた」


幼馴染は、

淡々と続ける。


「戦闘中だけ発動」


「それ以外の時間は、

 完全に切る」


「その代わり――」


一拍。


「スキルポイントが戻った」


俺は、

思わず画面を開いた。


【スキルポイント:101】


第3話から、

増えていない。


でも、

減ってもいない。


「……俺のも?」


「可能性は高い」


幼馴染は、

断定しなかった。


「お前の能力、

 明らかに常時影響出てる」


「だから、

 何か制限を付ければ――」


「やめろ」


俺は、

思わず遮った。


「デメリットって、

 ろくなもんじゃないだろ」


幼馴染は、

少しだけ笑った。


「当たり前だ」


「でもな」


声が、低くなる。


「タダで力を使ってる方が、

 よっぽどヤバい」


その言葉が、

胸に刺さった。


確かに。


俺は、

何も払っていない。


払っているのは、

周りだ。


「……ポイント、

 いくら戻るんだ」


「重さ次第だ」


幼馴染は、

肩をすくめる。


「軽い制限なら、

 雀の涙」


「命に関わるレベルなら、

 それなりに」


俺は、

画面を閉じた。


考える。


もし、

幸運に制限を付けたら?


もし、

悪運に制限を付けたら?


――考えるだけで、

胃が痛くなる。


「すぐ決めなくていい」


幼馴染が言う。


「だが」


視線が、

鋭くなる。


「このままだと、

 お前は前線に出られない」


それは、

脅しじゃない。


事実だった。


「……分かった」


俺は、

小さく頷いた。


「考える」


幼馴染は、

立ち上がる。


「それでいい」


背を向ける前に、

一言だけ付け足した。


「制限を付けるってのはな、

 逃げじゃねえ」


「覚悟だ」


一人になる。


指揮所の音が、

遠くなる。


俺は、

もう一度画面を開いた。


【スキル編集】


そこに、

見慣れない項目があった。


【制約を追加しますか?】


喉が、

鳴る。


この先、

俺は――


自分で、自分を縛ることになる。


それでも。


何もせずに、

周りが削れるよりは。


指が、

震えた。


押すかどうかは、

まだ決めていない。

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