第3話 幸運は、俺の近くで働く

瓦礫の下から救出されたのは、

運が良かったからだと思う。


少なくとも、

俺はそう言われた。


「ツイてたな」

「もう少しズレてたら即死だぞ」


笑いながら言う声を、

俺は曖昧に聞いていた。


ツイてた?


――本当に?


応急処置の後、

俺は一時的な避難所に運ばれた。


体育館。

毛布。

簡易ベッド。


生きている人間の匂いがする。


それだけで、

少し安心した。


しばらくして、

また警報が鳴った。


「追加の侵入を確認!」


「近隣区域、戦闘可能者は対応を!」


逃げ切ったはずの恐怖が、

また戻ってくる。


俺は、

動けなかった。


身体のあちこちが痛む。

走れない。

戦えない。


でも――

逃げる必要もなかった。


避難所の入り口付近で、

戦闘が始まった。


能力者たちが前に出る。


炎。

氷。

銃声。


俺は、

ただ横になって見ていた。


「当たらねえ!」


誰かが叫ぶ。


敵の動きが、

妙に鈍い。


弾が、

紙一重で避けられない。


炎が、

ちょうど足元に広がる。


「今だ!」


誰かが突っ込む。


――その瞬間。


天井が、

落ちた。


崩落。


支柱が折れ、

瓦礫が降ってくる。


「伏せろ!」


遅かった。


俺のいたベッドの、

すぐ隣。


そこに落ちた瓦礫が、

人を押し潰した。


鈍い音。


悲鳴は、

一度だけだった。


俺は、

無傷だった。


破片は、

俺を避けるように落ちている。


偶然だ。

そう言い切れる配置。


「……なんで」


喉から、

声が漏れた。


助かった。

また。


でも――

助かったのは、俺だけだ。


「救護班!」


誰かが叫ぶ。


血が広がる。


さっきまで、

俺の隣で話していた人間。


名前も知らない。


でも、

生きていた。


胸が、

嫌な音を立てた。


これは、

偶然じゃない。


次の瞬間、

敵が倒れた。


戦闘は、

あっけなく終わる。


「運が良かったな!」


誰かが言った。


違う。


俺の近くが、運が良かっただけだ。


視界の端で、

数字が一瞬だけ揺れた。


【スキルポイント:101】


――え?


見間違いかと思った。


さっきまで、

100だったはずだ。


「……気のせいか」


確認する余裕は、

なかった。


次の負傷者が運ばれてくる。


血。

呻き声。


助かる人。

助からない人。


俺は、

動けないまま考える。


もし、

俺がここにいなかったら。


もし、

俺が生き残っていなかったら。


この瓦礫は、

誰を潰した?


この偶然は、

誰の代わりだった?


答えは、

出ない。


ただ一つだけ、

分かることがある。


幸運は、

俺を中心に働く。


だから、

俺が生きる分だけ――


周りが、削れる。


視線を逸らした先で、

誰かが俺を見ていた。


怪我をした能力者。


痛みを堪えながら、

不思議そうな顔で。


「……お前、さ」


言いかけて、

言葉を飲み込む。


俺は、

その先を聞きたくなかった。


この能力は、

使い続けたら――


俺は、

一人になる。


そんな予感だけが、

確かに残った。

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