第7話 調査と値段と、最初の仕事

三日後。


ギルドの宿で待機している間、街には慣れなかった。

音が多すぎる。

人が多すぎる。

視線が、常にどこかから飛んでくる。


山では、敵は前にしかいなかった。

ここでは、どこから来るか分からない。


昼前、宿の扉が叩かれた。


「ガルドだな」


低く、よく通る声。


扉を開けると、男が立っていた。

背筋が真っ直ぐで、装飾の少ない外套。

剣は下げていない。

だが、戦える人間の立ち方をしている。


「私は王国調査団団長、カルディアスだ」


名乗りと同時に、視線が俺を貫いた。

値踏みじゃない。

確認だ。


「あなたが、灰皮の主を討伐した剣士か?」


「ああ」


それだけ答えた。


「では、いくつか質問させてもらう」


部屋に通し、椅子に座る。

セラは少し離れた場所に立った。

カルディアスは一瞬だけセラを見たが、何も言わない。


「戦闘状況を、最初から最後まで」


俺は話した。

主が現れた時。

地形。

攻撃の重さ。

刃が通らなかったこと。

継ぎ目を狙ったこと。


祈りの話だけは、しなかった。


カルディアスは途中で遮らない。

質問もしない。

ただ、最後まで聞いた。


「……なるほど」


一拍置いて、言う。


「間違いなく、あなたが倒したようだ」


そう言ってから、視線が鋭くなる。


「だが、一点だけ腑に落ちません」


来た。


「最後の一撃です。

 あの主が、あの状況で“隙”を与えるとは考えにくい」


死体を見ただけで、そこまで読むか。

相当だ。


「何か、ありましたか?」


俺は少しだけ考えた。

嘘はつかない。

だが、全部は言わない。


「知らない」


カルディアスの眉が、わずかに動く。


「隙ができたから刺した。

 それだけだ」


沈黙。


数秒後、カルディアスは小さく息を吐いた。


「……そうですか」


深追いはしなかった。


「事実として、討伐は成立しています。

 後はギルドと手続きを進めてください」


立ち上がる。


「あなたは、危うい剣士だ」


最後に、それだけ言った。


「良い意味で、ですが」


カルディアスは去った。


扉が閉まった後、セラが小さく息を吐く。


「……怖かった」


「俺もだ」


それは本音だった。


***


ギルドでの手続きは、ロイが主導した。


冒険者登録。

身分証の発行。

討伐報酬の受領。


本来は登録前だと報酬がなかったが、話がデカいため特例措置だそうだ。


袋は、ずしりと重かった。


「一千万ルクだ」


ロイが言う。


「人生変わる額だぜ」


「まだ足りない」


俺は答えた。


「それもそうだな」


ロイは笑った。


「さて。じゃあ次だ」


俺とセラを見て、言う。


「学校の手続き、行くぞ」


***


祈堂学舎は、街の中でも静かな場所にあった。

石造りの建物。

無駄な装飾はないが、手入れが行き届いている。


受付の女が、セラを見た。


「セラさんですね」


頷く。


「明日から通えます。

 まず、入学金が三百万ルクです」


俺は袋を出した。


「それ以外に、月額四十万ルク。

 三年間です」


「制服や学用品は、入学金に含まれています。

 私物は、寝間着程度で構いません」


「外出は?」


「基本不可です。

 届けを出せば、月に一度だけ」


セラは黙って聞いていた。


「……わかりました」


ロイが、軽く肩を叩く。


「不安だろうが、頑張れよ。

 三年だ」


俺は金を差し出した。


「これで、三百万ルクだ」


受付は確認し、頷いた。


「確かに。

 それでは、明日からよろしくお願いします」


セラは小さく頭を下げた。


「よろしく、お願いします」


***


ギルドへ戻る。


「さて、ガルド」


ロイが言う。


「悪い知らせだ」


「なんだ」


「ランク、上がらなかった」


即答だった。


「ユニーク討伐でも、最初は最初だ」


「そうか」


「その代わりな」


ロイが紙を一枚差し出す。


「一番良さそうなの取っといた」


俺は紙を見る。


「……学校?」


「そうだ」


「何をする」


「行ってからのお楽しみだ」


セラが、くすっと笑った。


ロイは俺に近づき、低い声で言う。


「世話になったな。

 ここからは、お前の番だ」


俺は袋から金を取り出す。


「五十万ルクだ」


ロイが目を見開いた。


「おいおい、太っ腹だな」


「助かった」


それだけ言った。


セラも頭を下げる。


「ありがとうございました」


ロイは笑った。


「いいってことよ。

 困ったら、ギルドか酒場に来い」


背中を向け、手を振る。


「あばよ」


***


翌朝。


セラは制服に身を包み、二人で学校まで歩いた。

門の前で一度だけ立ち止まり、

何か言いかけて、やめた。


そして、門の中へ消えていった。


俺は、反対方向へ歩く。


手には、依頼書。


学校の敷地管理。

草むしり。


「……なんでだ」


灰皮の主を倒した剣士が、

やる仕事じゃない。


俺は空を見上げ、息を吐いた。


世界は、相変わらず俺を通す気がない。


だから――

今日も、剣じゃなく草を抜く。

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