面倒事は後回し

昼休みが終わる五分前。

教室の騒がしさは、急に方向性を失ったざわめきに変わる。

弁当箱を片付ける音、机の中を慌てて漁る音、誰かが「チャイム鳴るぞ」と叫ぶ声。

俺は空になったパンの袋を丸め、コンビニ袋にまとめる。


(……聞いてるだけなんだがな)


さっきの佐々木の言葉が、妙に引っかかっている。

相談役でもない。助言もしてない。

ただ、話を遮らずに聞いているだけだ。


「青木」


前の席から、別のクラスメイトが振り返る。


「今日の数学の宿題、どこまでやった?」

「全部やってるにきまってるだろ」

「サンキュー」

「見せないからな」

「なんだと!?」


それだけで会話は終わる。

特別なことは何もない。

チャイムが鳴り、生徒たちはそれぞれの席に戻る。

佐々木も「せーふ!」と言いながら授業開始ギリギリで戻ってきた。

コイツも絶対宿題やってないだろ……。


授業が始まり、ノートを取りながら、ふと考える。


(俺、変わったか?)


自分では分からない。

ただ最近、人の話を「途中で終わらせない」ようになった……気はする。


——七瀬さんの影響だろうな。


相談という名目で始まった、放課後の空き教室の時間。

答えを出さなくていい時間。

結論を急がなくていい距離。

それが俺には合っている気がする。



―――――――――――――――――――――――


授業が終わり残すはホームルームのみ。

授業中は寝てた佐々木が話かけてくる。


「青木!」

「何」

「妹がさ」


その一文で、嫌な予感がした。


「また何かやらかしたか」

「やらかしてねえ!」

「じゃあ何」

「いや……なんつーか」


少し間が空く。


「最近、様子おかしくて」


妹。

佐々木祭……だったっけ?

ちなみにいまさらだが、兄のコイツは大介。


妹は同じ高校の一年で、俺とは中学の頃から顔見知りではある。


「家で元気ないんだよ」

「お前、さては彼女の話でもしたんだろ」

「したけど?」


お前家でも惚気話してるのか。


「別に自慢したつもりもないし、普通に話しただけだぞ」

「普通がもうアウトなんだろ」

「……マジ?」


しばらく返事が来ない。


「放課後、ちょっと話聞いてやってくれねえ?」

「俺が?」

「お前、こういうの得意だろ」


得意じゃない。風評被害もいいところだ。


「今度ごはん奢るから」

「……考えとく」


そこで会話は途切れ俺はスマホを操作する。


(……またか)


相談でも、悩みでもない。

誰かの「ちょっと困ってる」に、たまたま居合わせるだけ。

それが最近、妙に増えている気がする。

放課後の予定欄は、相変わらず白紙だ。

なのに、周りから時間を埋められていく。


ホームルームも終わり、放課後。教室がいつものようにざわつき始めた。

俺は椅子から立ち上がり、鞄を手に取る。


(とりあえず、明日にしよう……)


面倒事は後回し、そう思いながらそそくさと教室をでた。

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恋愛相談に乗っていただけなのにいつの間にか本命になっていた件【連載ver】 はるさめ @haruharu77

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