二人星

こころもち

二人星

 「はい、あ~~~ん」


 彼女が俺の方に手を伸ばしてきたので、あ~ん と言いながら摘ままれていたポテトを咥えた。


 周りの視線が気になったが、目の前の彼女の笑顔を見た途端どうでも良くなった。


  【二人だけの世界】


 ファーストフード店のこのテーブルだけ別世界。


 周りからは見た俺達はきっとピンク色のモヤが覆って、花がフワフワと浮いているに違いない。だって俺の視界には彼女がはっきりと見えて、他がぼやけて見えているのだから。


 俺達が出会ったのは一昨年の7月に入って間もない頃、テレビでアナウンサーが『明日の七夕は晴れ。そして今日の夜は新月なので場所によっては天の川が見れるかもしれません』


 そんな事を言っていたのを今でも覚えている。


 運命だとかいうセリフが当てはまる展開に関わった事が無かったからか、こういう事を気にしてしまう質なんだなと初めて自分の事に気付いた。改めてとても幸せだと感じている。


 「今夜楽しみだね」


 彼女の楽しみにしている顔を見て俺も楽しみにしている気持ちを抑えずにいた。


 「そうだね、天気予報は晴れだからよく見えると思うよ」


 彼女と出会って二年経った今夜、天の川を見る計画を立てていた。


 「そろそろ行こうか」


 俺達はファーストフード店を出て、郊外の山へ車を走らせた。その間も会話は途切れず、楽しい時間が続いた。目的地まではそれなりに時間が掛かると思っていたが短く思えた。


 車を降りると周りは真っ暗、同じ道に間隔を開けて数台の車と人影が見える。遠くで小さく輝いている街灯りが目に入った。


 「綺麗~」


 彼女の歓声で空を見上げると、視界の真ん中に天の川と大小の星明りを散りばめた満天の星空が視界に入り切らない程広がっていた。俺と彼女は黙って見惚れていた。


 しばらくして、俺は彼女をここへ連れて来た目的を果たす為にポケットから取り出した指輪ケースを開いて彼女に向けた。驚いている彼女へ俺は告げた。


 「俺の織姫になって下さい」

 「えっ、イヤです」




 可能性は限りなくゼロに近いと思っていた現状に、胸に穴が開いた様な、そこから色んな感情が流れ出て心が空になっていく感覚が強くなってきた。


 「・・・な、んで?」


 ショックの中、言葉を絞り出した俺に彼女は笑った。


 「私が織姫って事はあなたが彦星って事よね?七夕の話は知ってる?」


 「働き者の彦星と織姫が結婚するけど、イチャイチャして働く事を怠ったから、織姫の父親に引き離されて一年に一回会う事になる話」


 俺は彼女の問いにそんなに詳しくはないけど答えた。


 「一年に一回会うような生活で良いの?」


 七夕に掛けたプロポーズを真面目に返された。


 「えっ、嫌です」

 「でしょ?やり直し」


 ぐぬぬぬ。唸って口説き文句を考えていると、彼女は星を指で追いながら


 「わし座のアルタイルが彦星、こと座のベガが織姫、その二人の距離は約15光年。光の速さで15年ちょっと掛かる計算になるから、あと13年待ってあげる」


 「そんなに待ってくれるの?」


 そんなに待たせるつもりはないけど、これだという言葉が思い付かないでいた。


 「それまでに精々気の利いた台詞を考えてくるのだなぁ。フハハハハハ」


 夜空を見上げていた彼女が振り返り両手を広げた。彼女は劇団員として役者をしている。


 「今度はそういう役なの?」


 「私は悪役の子分Bだけどね」


 暗闇でも頬を赤らめているのが分かった。


 「子分Bでその迫力なら親玉はすんごいんだろうね」


 二人手を繋いで星空に想いを馳せる事にした。

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