第4話 どこぞの村の少年が勇者なのは王道です
小鳥のさえずりと優しい日差しが注ぐ。
「ふわゎぁぁああ。う~ん……もう朝か……」
トントントン。いつもの心地よい音が寝ぼけた僕の耳に届く。
漂ってくる出汁と焼けるパンの香り。
安らぐなぁ、母さんが朝食を作ってくれているんだ。
「いい~匂いだ。あぁーお腹空いたな……」
自然と着替えも速くなりいそいそと部屋をあとにする。
食欲そそる香りにつられれば、そこにはいつもの光景が広がる。
そして、いつもの朝の挨拶を交わすのだ。
「父さん母さん、おはよぉ~~」
「おう、おはよっ」
「おはようございます、勇者様」
「おはようアルディ。ほらもうすぐ朝ごはんよ。早く顔を洗ってらっしゃい」
「はーい、洗ってきまーす」
スープを温めている母さんの横を身を細くして抜ける。
お尻が大きいからな母さんは。
なんてのは言えないし、単に家が狭いだけだ。
戸口を開き外に出ると、オオプラヌスの木がお出迎え。枝には花を付け、時期春だと知らせている。
目の前の通りでは、顔なじみのおじいさんやおばさん達がもう散歩をしていた。
ここでも僕はいつもの挨拶をする。
「おはよぉーございまーーす」
「はいおはよーアルディちゃん」
「ふぉっふぉっ、おはようさん。今日も元気でよろしい」
「へへっ」
これもいつもの朝の光景だ。
『――いつもの?』
何かざわめきを覚えたが、ひとまず村の広場にある井戸へと向かった。
僕の家は村でも中央に位置する。この立地のお陰で、村唯一の井戸が近くて便利だと言うことだ。
すれ違う村のみんなに、いつもの挨拶をしながら歩みを進め。
ほどなくして井戸に着くと、はす向かいに住む仲良し兄妹が滑車の紐を引いていた。
僕に気付くと向こうから挨拶をしてくれる。
「あっ、アルディお兄ちゃんだ! おはよーー!」
「よっおはよ! アルディも使うだろ? 手伝ってやるよ」
「ラビト、ムラビちゃんおはよぉ。うんありがとう、助かるよ」
小さな村だから、こうして何かとみんなで手助けしながら生活してきた。
僕はこの村が好きだ。
なんの変哲もない村だけど、いつもと変わり映えしない朝だけど。
それがいいんだ。
父さんがいて、母さんが温かい料理を作ってくれて。
村のみんなが元気で、友達同士で助け合いができる。
そんないつもの光景が、僕は大好きだ。
「――――いつもの?」
なんの変哲もない? 変わり映えしない?
父さんがいて、母さんが料理を作ってくれて。
……あれ、さっきなにか違うものが混ざっていたような。
(――おはようございます、勇者様――)
「ナ ニ カ イ タ !」
桶に水を移してくれている兄妹に「ちょっとごめん!」と言い残し僕はその場をあとにする。
家に着くや否や扉を勢いよく押し開け、食卓には父さんと母さんが待つ。そして――
『見知らぬ少女』も待つ。
「キミ、だれッ!?」
そこには、平然と食卓を囲む一人の少女が座っていた。
しかも父さんと母さんと談笑までして。
まるで僕の日常ですよと言わんばかりに。
「父さん母さん! この子、だれなの!?」
当然の疑問を投げる。すると見知らぬ少女は静かに立ち上がり――
「初めまして勇者様。わたしは
綺麗に結われた左右の髪束を揺らしながら頭を下げる。
「こ、これはご丁寧にどうも。僕はアルディアン・ブレイブリッドです」
今度はおじぎから一転。
せすじをピンと伸ばし右肘をきゅっと畳ませて見せた。
目元を隠すように覆ったその腕をスッーと引き始め、開いた二本の指の隙間から淡紅ゆらぐ瞳が覗くと――少女は声高に叫ぶ。
「わたしは勇者様を導くために異世界からやって来た『魔法少女』ですッ!!」
腹からの力強い言葉が狭い家に響き渡る……。
「……イイ、イセカイィ? ……マホウショウジョ?」
変なヤツ来た。
朝から変なヤツ来た。
名乗ってもらったのにこの第一感想は申し訳ないと思うけど――変なヤツ来た。
そもそもマホウショウジョってなによ。魔法の少女? なら魔法使いって言えばいいのに。パーティでもいるし。
それにイセカイもそう。異なる世界ってこと? なにかの使者ですかあなたは。
だいたいさ、なんかさっきからずっと僕のことを勇者様勇者様って言ってるのが一番理解できない。怖いよこの子ちょっと。
いろいろ処理しきれないことでせわしなく食卓を動いてると「どうかしました?」みたいな表情でオウドウガという人が僕を追っている。
(その顔したいのは僕なんですけど……)
それになにが驚くって。
知らぬ単語や奇妙なキメ顔ポーズ。それらの言動もさることながら、何よりその格好に驚く。
まるで花でも咲いたかのような大きく膨らんだ桃色の裾まわり。中になにか入ってます?と聞きたくなるほどに。
どういった仕組みで広がったままなんだろうか。
次に上半身。
ヘソ、胸、肩。まぁヘソ出しくらいは王都ならいるらしいけど。でもまだ春前だよ?
それに胸をかろうじて覆っている薄紅の布。装飾ついてても寒さはしのげないでしょ。もう一度言おう、まだ春前だよ?
最後にその肩を包み込んでいる膨らみはまた何ですか!?
初対面の女の子をこんなマジマジと見るのは失礼だとは分かってる。分かってはいるけど……でも見ちゃうッ!
「こぉーら、アルディ。女の子をそんな上から下から、舐めるように見るもんじゃありませんよ」
母さんが軽く僕の頭をこずく。案の定叱られてしまった。
「で、でも、この子明らかに――」
「ごめんなさいね、チゼイちゃん。この村って女の子少ないからきっと珍しいのよ。この子も年頃になってきたって事かしらね。オホホ」
珍しいのは女の子じゃなくて、この子の妙ちくりんな格好だよっ!
どれだけこう叫びたかったか分からない。
「いえいえ、勇者の母アルナ様。英雄色を好むとも言いますから。勇者様にはそれくらいでいてもらいませんと」
「そ、そんなチゼイちゃん。勇者の母だなんて、オホホホホホ」
もおやだわぁ~。と夕方近所のおばさん達と談笑するような仕草をとっている。
勝手に盛り上がらないで! なんて僕の気持ちをよそにさらに父さんまで加わってきた。
「さすがは俺の息子だな。いつか大物になるとは思っていたが、まさか勇者とはな。父さんは鼻が高いぞッ!」
(なってませんけど……。まだ14歳のそこらにいる子供ですけど……)
「そうなんです、勇者の父ルデア様! ご子息様は選ばれた存在なのです!」
「勇者の父か……悪くない響きだな、うん」
腕組みをして椅子にもたれかかる父。
薄々分かってはいた。お人好しな両親がいとも簡単に丸め込まれていることなんて。
でも何だろう、見てるこっちが恥ずかしくなる。誇らしげにしてる両親を見てると、なんかもぞもぞする。
なかば呆れ気味にやり取りを眺めていたが――たまらず間に入った。
「え、えーそれでですね、オウドウガさん。オウドウガさんは、一体何のご用なのでしょうか?」
そう言うと、僕は今日初めて食卓に腰を下ろした。
不思議がありすぎて椅子に座るのさえ忘れていたからだ。
さて、オウドウガさんはどんなことを話してくれるのかな。
僕は真っすぐに彼女の大きな瞳を見つめながら答えを待つと――
「はい、わたしは勇者様を導くために異世界からやって来た『魔法少女』ですッ!!」
…………ダメだ、二度聞いても分からない。
というか、同じこと二回言う!?
動作もまた、珍妙な再現をしてるし。
僕は一呼吸してから。
「あ、あのねオウドウガさん。よく聞いて。僕は勇者なんかじゃないよ。いたって平凡な村の、いたって平凡な少年だよ?」
「その通りなのです!」
「え……?」
意外な反応に少し驚いてしまった。
あれほど僕をそう呼んでいたのに、やっぱり違うってことなのかな。
じゃぁなぜに……そう僕の頭がぐちゃぐちゃになりかけたとき彼女は言葉を続けた。
「勇者とは、とある村の……とある平凡な少年が……勇者になるのです! それが『王道』なのです!」
自信満々にうちの低い天井を指し示す彼女。
つられて僕も上を見てしまっていた。きっと両親もだろう。
すると靴音が一つ床で鳴る。
「ですが勇者様、あなたには多大な試練が待ち受けているやもしれません」
彼女は上げてた右手を、そっと胸にあて、瞳を閉じながら言う。
「そして苦悩するのです。旅先で運命の出会いを果たす勇者。そして築かれる仲間たちとの友情や絆。しかし、そんなかけがえのない友の悲しみの死。僕は本当に世界を救えるのだろうか……。葛藤、困難、苦悩、希望、愛……。この果てに待ち受ける物はいったい……」
なんだろうこれ。
まだ家なのに、朝食の時間なのに、もう旅に出ちゃってるし。仲間すらいないのに、勝手に友情芽生えて、既に死んでるんだけど。なにこれ。
それに、そんな未来冗談じゃない。
僕の思考が追いついていないことには一切構わず。今度は勢いよく目を見開いて、僕に言葉をぶつけた。
「ですが目覚めるのです! なぜなら勇者だから! それが王道だから!」
自身の桃色の髪と、僕の肩を激しく揺らす。眼前に映る彼女の血走った瞳が本気さを訴えてくる。
あー頭痛い……。
もしかしてこの子、あまり話しが通じない子なんじゃ……。
僕が少し危機感を覚えると、彼女の手にチカラが入る。
「さっ、勇者様。旅立ちの時です! 善は急げ。王様に会いに行きますよッ!」
彼女がそう宣言すると、僕の体は腰を下ろしたばかりの椅子から引き剝がされた。
「え、旅立ち? 王様? いやそもそもこの国は女王制なんだけど」
「そうでしたか、どちらでも構いません。村から出た勇者が会うのはまず君主です。はした金を貰いに行きますよ!」
戸惑う僕にはそっちのけで、彼女はくるりと向きを変え一礼する。
「それでは、勇者の父ルデア様。勇者の母アルナ様。王都へ向かいますね。どうぞご子息様の英雄譚が耳に入ること、楽しみに待っていてください!」
「オウッ! アルディ、立派な勇者になってくるんだぞ!」
「体にはくれぐれも気を付けるんだよアルディ。チゼイちゃんにご迷惑かけないようにね」
「えっ、いや、ちょっと!」
扉を開け放つ勢いそのままに、僕は外に連れ出された。
「ちょ、父さんも母さんも、これどういうことなの!?」
ほぼ拉致同然に引きずられ、生まれ育った家を後にする。
振り返れば、戸口の前で手を振る父さんと母さんの顔が見えた。嬉しそうに口角を上げながらも、どこか淋しさを滲ませた瞳で。
こうして僕の「いつもの朝」はあっさりと瓦解し『魔法少女』なる者と旅立つことになったのだった――――
たまには王道だっていいじゃない ~異世界からやって来た魔法少女が王道王道うるさいんだが~ 黒品おかか @kuroshinaokaka
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