#4 星を探して

その夜も、ルカは丘に登った。

 湿った夜風が草を揺らし、星のように光る虫たちが舞っている。空には雲ひとつなく、幾億もの星が瞬いていた。


 星を探して、もう七年になる。

 あの声を聞いてから。


 「また、会いにきてね。探してくれるなら、ちゃんと光るから」


 それは、ルカが六歳のときのことだった。

 村の裏手の森に迷い込み、泣きじゃくりながら空を見上げたとき、ひときわ強く輝いた星が、彼に話しかけてきた。

 空耳だと言われても構わない。あれは確かに、本当に、話しかけてきたのだ。


 村の人たちは笑った。星が話すはずがないと。

 母親だけは、「まあまあ、きれいな夢ね」と言って優しく頭を撫でてくれた。

 それでもルカは、あの星の言葉を忘れなかった。


 あの声をもう一度聞きたい。ただ、それだけだった。

 けれど星は、空に無数にある。どれが“あの星”なのか、見分ける術などない。

 それでも、夜になるたびに丘に通い続けた。手製の星図を作り、光の動きと季節の巡りを記録し、やがてルカは村一番の“星読み”と呼ばれるようになった。

 だけど、あの星の声は、もう一度も聞こえなかった。


     *


 「あんた、何を見てるの?」


 突然、声がした。振り向くと、いつの間にか隣に少女が立っていた。見知らぬ顔だった。薄青いマントを羽織り、目だけが星のように光っていた。

 ルカは少し言葉に詰まりながらも、正直に言った。


 「星を探してる。昔、声をかけてくれた星を」


 少女は目を細めた。「声を聞いたんだ」

 まるで、それが珍しいことではないみたいに言った。

 「その星は、たぶん君を選んだんだよ」


 「選んだ?」

 「そう。星は気まぐれに見えて、実はとても寂しがり屋なんだ。何百年も、何千年も、ただ光っているだけなんだから。話しかける相手を選ぶのにも、勇気がいる」


 「じゃあ……あのときの声は、本当に……?」


 少女は小さくうなずいた。そして言った。

 「その星は、ずっと待ってると思うよ。君がまた声を聞くその日を」


     *


 その日から、ルカは星の探し方を変えた。

 光の強さや位置ではなく、感じる“気配”を頼りにするようになった。

 あの少女の言葉が、なぜだか胸に残って離れなかったから。


 夜が深まり、空が一層澄んでくる。

 そのとき、不意に――小さく、優しい声がした。


 「ルカ」


 風の音に紛れるほど小さな声。けれど、ルカの心にははっきり届いた。

 瞬間、視界の奥でひときわ強く光る星があった。

 記憶の中にある、あの輝き。――あの声だ。


 「ずっと待ってたんだ」

 「ぼくも……ずっと、探してた」


 胸の奥が熱くなる。涙があふれそうだった。

 星は、ゆっくりと瞬いた。そして語りかけるように言った。


 「一緒に来てくれる?」


     *


 翌朝、村の人々はルカの姿が消えていることに気づいた。

 寝床も整ったままで、足跡もない。ただ、枕元にはひとつの小さな星図が残されていた。

 そこには、奇妙な線と印が描かれていた。どれも夜空には存在しない星座ばかり。けれど、その図の端には、こう記されていた。


 「まだ知られていない星々の地図」


 ルカの旅は、ここから始まったのだ。

 地上に残した身体は、ただの器だったのかもしれない。

 彼の心と魂は、今も夜空のどこかを漂いながら、星と星の間を渡っているのだろう。


     *


 何年も、何十年も後――。

 また、ひとりの少年が丘に登った。彼の目は星を見つめ、ふと声を漏らす。


 「今、誰かが、話しかけたような……」


 夜空のどこかで、星が小さく微笑んだように光った。

 その声はきっと、また新しい旅のはじまりだった。


AIに出してもらった単語

「旅」

「星」

「声」

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AIと共作プロジェクト 三京大、 @Muneyama

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