第2話 意味はねーだろ

――1週間前――



「――ちゃん……! い……ちゃん――」


 安眠を謳歌している俺に、誰かが慌てた様子で声を掛ける。


 目をつぶったまま、俺は言う。


「なんだよ……もうちょっと寝かせてくれよ……」


 体内時計的には、まだまだ朝早い時間だ。

 俺が目覚めるには、もう少し時間がかかる。


 なのだけれど、


「ケイちゃん……! 起きてよ。緊急事態!」


 言われて、俺はようやく目を開ける。


 窓から差し込む光を見ると、予想通りまだ早朝だ。

 時間としては6時にもなっていないのではないか。

 そんな時間に緊急事態とは。


 俺に緊急事態の知らせを告げに来たのは、小さな子供だった。

 この貧民街に住む少年だ。


 俺は起き上がってあくびをしてから、


「……なにがあったんだよ」

「ケンカだよケンカ……!」

「この貧民街でケンカなんて珍しくねーだろ」


 ケンカどころか殺し合いだって日常的である。

 今更その程度で緊急事態とは。


 だがその少年は相当焦っているようで、


「友達が巻き込まれちゃったんだよ! 大人3人に袋叩きにされてて……」

「大人も子供もないだろ。この場所じゃあ生き残るために暴力的なことだって行われるんだ。俺がそれを助ける義理はねーよ」


 俺がそう言うと、少年はさらに怒り狂った様子で、


「もういいよ! ケイちゃんには頼まないから! 見損なったよ!」

「どうぞご自由に。ていうかお前、部屋の鍵どうやって開けた?」


 鍵はかけていたはずである。


「知らないの? この街で生きてる子供は鍵開けくらい余裕なんだよ」

「物騒な街だねぇ……」

 

 子供すら強盗まがいのことをするのか。


「とにかく! もうケイちゃんなんて知らない! カジノで大負けして身ぐるみ剥がれちゃえばいいのに!」


 そう言い残して、少年は去っていった。

 

「扉くらい閉めていってくれよ」


 俺のその言葉が少年に届くことはなく、扉は開け放たれたままだった。


 まったく困った少年だ。

 だが友のためにあれほど怒りという感情が湧き上がるというのは、少し羨ましくもある。


 俺にはそんな友はいないから。


 ……


 まぁ別に助ける義理はないんだが。


 散歩の途中で現場に出くわすんならしょうがないよな。





 ボロっちい木造の部屋。

 それが俺の家。

 アパートの一室で、狭くて汚い。


 ちょっとしたテーブルと寝床があるだけの部屋。


 貧民街の部屋なんてそんなものだ。

 雨風しのげる場所があるだけで恵まれているほうである。


 俺はあくびをしてから外出の準備を整え、部屋を出た。


 武器であるムチを体に隠して、朝の散歩を開始する。


「やっぱりまだ早朝じゃねぇか……」


 思っていたよりも朝が早かった。

 やはり6時にもなっていない。

 俺みたいにグータラ生活している人間からすれば、こんな時間に起きるなんて異常事態だ。


 貧民街の街を歩く。


 路上で寝ている人間も多くいて、貴族様から言えば【汚くて治安が悪くて危険で汚らわしい場所】らしい。


 その総評は間違っていないと思う。

 実際に汚いし危険で汚らわしい場所であることは確実だ。


 だが俺はこの街のそんな空気を気に入っている。


 誰だって望んで貧乏になったわけじゃないし、なにより彼らは生きるためにここにいる。

 一生懸命生きようとしているのだ。

 それが世間から見てカッコ悪くて、汚いものだったとしても、一生懸命生きている人たちなのだ。


 俺にはその人たちをバカにする権利などない。


 何より彼らは来るものを拒まない。

 この場所に来る人間は様々な事情を抱えているが、過去なんて誰も気にしない。


 今のこの場所で一生懸命生きようとしていること。

 それだけがこの場所のルールである。


 ……


 だからこそ弱肉強食。

 自分が生きるために他人の命を奪っても文句は言わない。

 ここはそんな場所だ。


 ……


 やっぱり危険な場所であることに変わりはないな。


 さて俺が散歩を続けていると、ケンカに遭遇。


 大人3人がひとりの子供を袋叩きにしていた。


 ……


 この場所は弱肉強食だ。

 だから助ける義理なんて本当にない。


 だが、朝からこんな物を見せられては気分が悪い。


「そのへんにしとけよ。別に殺したって意味はねーだろ」

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【カジノの武器強すぎワロタwwwww―伝説の武具より強いカジノの武器で最強無双―】って話だよ。 嬉野K @orange-peel

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