第6話 覚悟
空に広がる無数の炎がいっせい一斉に放たれる。目にも止まらぬ速さで魔物達に向かっていく。
着弾。爆発。
ドーム型の炎が壁の向こうの至る所に見られた。
「すごい」
アルバートは驚きと感嘆、そしてほんの少しの恐怖が混じった声を出した。
「都市周辺の魔物は蹴散らした。しばらくは大丈夫だ」
魔法を放ったフェリックスは疲れた様子もなく淡々と告げる。
「結界は張り直さなくていいんですか? 」
「言ったはずだ。私には不可能だと。二、三日もすれば報告を受けた王国騎士団と教会の人間がやってくる。それまでは私の魔力の残滓が結界代わりとなる」
フェリックスはアルバートに向き直った。
「さて、どうする? 」
「どうするって……? 」
アルバートは困惑の声をあげた。
「妹のことだ。彼女は魔人となり肉体の崩壊が始まっている。今は私の魔法で活動を抑制して崩壊が一時的に止まっているが、そうだな。一年もてばいい方だろう。それに、騎士団に見つかったら確実に殺される」
アルバートはごくりと喉を鳴らした。そして、腕の中のアナスタシアを見る。
「助ける方法はあるんですか? 」
「ある。賢者の石で妹の魔力を安定させ、体に溜まった自然魔力を抜けば、人の体に戻せる」
賢者の石の存在は聞いたことがなかった。アルバートは勉学のため本を読むことを習慣としていたが、今まで読んだどの本にも賢者の石の存在は書かれていなかった。
それでも、今のアルバートはフェリックスを疑うことはなかった。
「賢者の石はどうすれば手に入るんですか? 」
「賢者の石は世界にただ一つだ。そしてそれは、クラウディア・ローゼンベルクが持っている」
クラウディア・ローゼンベルク。アルバートの記憶にその名前はなかった。
「クラウディアって誰ですか? どこにいるんですか? 」
フェリックスは眉間に皺を寄せて何かに耐えるような顔で話し出す。
「クラウディアは賢者の石を利用し魔物と魔人を生み出す女だ。今のところどこにいるかは分からない」
アルバートは衝撃を受けた。魔物は自然に発生する現象であり、意図的に作れるものでは無い。魔人もそうで、生まれつき魔人になる魔力を持つ者が時間をかけてなっていくものだ。
しかし、教会の人達に魔人の魔力を持たないと言われていたアナスタシアは魔人となった。つまり、人を魔人に変える方法があるということだった。
「探す当てはあるんですか? 」
「王国騎士団には魔人専門の部隊がある。そこにはクラウディアに関する情報が集まってくるかもしれない」
アルバートは考えた。クラウディアがどこにいるかは分からない。探さなければアナスタシアを救えない。探す方法は騎士団に入ること。この地からは離れないといけなくなる。
誰が治める? 代わりものが来るだろう。この現状を見られたら? アーノスノット家は滅びたことにされるだろう。しかし、アナスタシアさえいれば復興できる。アルバートと違い彼女は社交界に出ていた。顔を覚えている者がいるはずだ。
アルバートが残された意味はアナスタシアを救うこと。兄として支えること。そしてアーノスノット家を再興させること。
アルバートの覚悟が決まった。
「その部隊にはどうやったら入隊できますか? 」
「今の君では無理だ。試験を受けることすらできない」
アルバートはニヤリと笑った。
「しかし、私に着いてくれば入隊させてやる。どうする? 着いてくるか? 」
アルバートは躊躇いなく答えた。
「はい」
「よろしい。では行こうか」
フェリックスはアルバートとアナスタシアに触れる。次の瞬間、アルバートの視界は切り替わった。
「ここは……? 」
急な視界の変化に眩暈を感じながら、状況を把握するため、周囲に目を配る。
木造の小さい部屋の中にいるようだった。
「ここは私の隠れ家の一つだ。君にはこれから入隊試験に合格するための訓練を受けてもらう。覚悟はできているな? 」
「もちろんです」
アルバートにはフェリックスの訓練をこなせば確実に強くなれるという根拠のない、それでいて絶対的な自信が胸の中に芽生えていた。
魔力がなくても戦えますか? 桜羽 遼 @yuta0524
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