第3話 喪失と出会い
アルバートは走っていた。
爆発が起こり呆然としたが、突然何の理由もなく爆発するとは思えなかった。あそこまでの爆発を起こせるのは魔法以外にあり得ない。
――襲撃されている。
そう考えてからは一目散に走り出していた。自分に何ができるかは分からない。行ったとしても何もできないかもしれない。
それでも見過ごすことはできなかった。逃げ惑う人々の群れをかき分けて、アーノスノット家の邸宅へと走る。
アナスタシア、デイジー、バーナード、そして父。彼等の無事を願いながらアルバートはひたすら走った。
傾いていた日は沈み、夜の始まりを告げる中アルバートは家があった場所に着いた。
あれほど大きかった家は跡形もなく消え去り、瓦礫だけが残されていた。
アルバートは瓦礫をかき分けて生存者がいないか暗くなった空の下、星の光を頼りに探し回る。
「アナスタシア、デイジー、バーナードさん、父上」
肉が焼けた匂いを漂わせる空間の中、声が枯れるほどに大きい声を出して呼びかけ続ける。
「バーナードさん」
瓦礫の中、バーナードを見つけた。バーナードは上半身だけを覗かせていた。アルバートは彼が瓦礫に埋もれて身動きが取れないのだろうと思った。
「バーナードさん、しっかりしてください。今出しますから」
安堵と喜びが交じる声でバーナードに呼びかける。返事はなかった。
アルバートはバーナードに覆い被さる瓦礫を一つ一つ、どかしていく。
「バーナードさん。今助けますから」
アルバートは必死に瓦礫をどかしていく。それでも、どかしてもどかしても、一向にバーナードの下半分は出てこない。あの爆発と共に吹き飛んでしまったのだろう。バーナードの生気を失った虚な目がそれを物語っていた。
アルバートはそのことを認めることができずに瓦礫をどかし続ける。手から血が出ても必死にどかし続ける。
ふと、アルバートはアナスタシアのうめき声が聞こえた気がした。立ち上がり、ふらつく足取りで声のした方へ向かう。
不安定な足場をふらふらと歩いているせいで、アルバートは足を引っ掛け転倒した。
体に煤がつく。アルバートは気にした様子もなく立ち上がろうとした。が、目の前に見覚えのある指輪をつけた手があった。
黒く汚れてはいたが、間違いなくアーノスノット家に伝わる指輪であった。指輪を嵌めた手は酷く変形し、黒焦げとなっていた。
「父上。もう少し待っていてください。アナスタシアの無事を確認したらすぐに助けにきますから」
アルバートは父の手にそう告げて立ち上がり、またふらつく足取りでアナスタシアの声が聞こえた方へと歩き始めた。
何度も転倒を繰り返して、ようやくアナスタシアの元へと辿り着いた。
黒く汚れた瓦礫の上でアナスタシアは白い肌を惜しげもなく星空の元に晒していた。
「……アナスタシア」
アルバートは涙を流しながらゆっくり、ゆっくりと近づいた。彼女の肌には見たところ傷一つなく、呼吸も正常で、規則正しく胸を上下させていた。
近くに黒く焦げた手があった。恐らくデイジーの手だ。きっと彼女が守ってくれたのだろうとアルバートは思った。
アルバートはペタペタとアナスタシアの体を触り、怪我がどこにもないことを隅々まで確認した。
安堵と共にこのままでは風邪を引くだろうと自分の服をアナスタシアに着せていく。
一通り着せ終わり、アナスタシアを安静できる場所へ運ぼうと抱きかかえる。
「ほう。その少女、魔人になりかけているな」
背後から急に声がした。
アルバートはアナスタシアを抱き抱えたまますぐさま飛び退き、突如現れた得体の知れぬ者から距離をとった。
「いい反応だ」
――気づかなかった。何の気配も感じなかった。
アルバートは相手を注意深く観察する。性別は男。身長は180cmほど。血のように赤い瞳が特徴の二十代くらいに見える青年。上物の燕尾服を紳士のように着こなしている。
「貴方は誰ですか? 」
冷や汗がツーと頬を流れるのがわかった。
「人に名前を聞くなら、まずは自分から名乗るのが礼儀じゃないか? 」
男は静かで落ち着きのある声であった。ただどうしても威圧感を感じずにはいられなかった。
「俺はアルバート……ただのアルバートです」
アルバートはアルバート・アーノスノットと口にしたかったが、追放された身では口にする資格は無いと思った。
「では礼儀に答えてこちらも名乗ろう。私の名前はフェリックス・ウェンチェスター。以後お見知り置きを」
目の前の男は本で読んだ千年前の賢者の名前と同じ名前だった。千年前の人物が今も生きているとは思わなかったが、アルバートの頭の中には少し引っ掛かった。
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