第2話 爆発
アルバートは日が傾き夕暮れに染まる街の中から、自分が生まれ育った家を外から初めて見ていた。
家は周りのどの建物のよりも大きく、雲を突き破り天に届くほど高かった。まるでアーノスノット家の権威を現しているようだ。本で見た城と言うものに近いかもしれない。
周りよりもかなり高い場所にあり、あの家からは壁に囲まれた都市が一望できた。
アルバートは家で過ごした日々を思い返していた。生まれつき魔力がなかったアルバートの扱いはあまりいいものではなかった。
アルバートの父は彼を元からいない者として扱われた。アルバートの記憶で父とまともに会話したことなど数えるほどしかない。
外に出ることを許されず、家の者以外に会うことすら許されなかった。常にあの家で過ごすことを強要されていた。
幼少期は従兄弟達から虐められることが多かった。魔力を発源させる方法と称して無意味に魔法を叩きつけられたり、魔力を増やす効果があるからとその辺の雑草を食わされたり、自作の薬品の実験体になったことがあった。
その度にアルバートの剣の師であるにバーナードに守られてきた。
従兄弟達が成長するにつれて嫌がらせや虐めは次第になくなっていった。会うこともなくなった。
アルバートは家族からどんな扱いを受けようと跡取りなのだからと勉学に励み、魔力を使えなくても領民を守る力をつけるために剣の修行を続けた。
今にしても思えば自分の存在価値を証明したかったのだと思った。ただどれも父にとっては無意味だった。なんの価値も示せなかったことが悔しかった。
しかし、アルバートは父を憎むことはなかった。思うところはあれ殺さず生かしてくれたのだ。家族から家の恥と罵られていても父は家の中では不自由しない程度の暮らしをくれた。恨み憎む理由などアルバートにはなかった。
――それがたとえ、ただ子供を殺すことのできない小心者ゆえの行動であったとしても。
辛く苦しい日々の中でもアルバートには味方がいた。剣を教えてくれたバーナード。無関心を貫く従者たちの中で唯一分け隔てなく接してくれたデイジー。そして、妹のアナスタシア。
特にアナスタシアは、アルバートの心の癒しであった。
彼女は病弱で魔力は多いが扱えるほどの肉体を有していないと言われていた。アルバートほどではないにしろ家族の中では蔑ろにされていた。
だからこそ、存在を許されることのないアルバートでも会話することのできる唯一の家族だった。
アナスタシアの未来は安泰というわけではない。しかし、アルバートと同じように追放されることはない。アルバートと違い、父はアナスタシアを愛していた。
多忙でも毎日必ず会っていたのがその証拠であった。きっと大丈夫、そう言い聞かせてアルバートは自分の生まれ育った家に背を向けた。
アルバートはこれからのことを考えた。父に持たされた金はしばらくは暮らせるほどあり、剣も持たされていた。
まずは都市の散策をすることにした。見たことのないもの、味わったことのないもの、知らないものが沢山ある。それらに期待を膨らませた。
時間はある。何日もかけて周ろう。ここを知り尽くしたら今度は旅に出よう。それなら冒険者がいい。外には魔物が多く棲息するらしいが、剣があるなら大丈夫。魔力がなくても戦える。アルバートは自分にそう言い聞かせた。胸に残る寂しさや虚しさを忘れるように考え続けた。
宿を探していると、突如轟音が鼓膜を貫いた。音と共にきた衝撃波がアルバートの体を強く押した。周囲の建物の窓が割られ、周りにいた人達は衝撃に耐えきれずに転がされた。
腹の底に響く轟音、街を破壊する衝撃波、肌を突き刺すような熱気、風に乗せられてきた焦げ臭い匂い。それらは大きな爆発が起きたことをアルバートに知らせていた。
衝撃がやってきた方向に振り返る。すると、家があった場所には黒煙が立ち上っていた。
呆然と見つめていると、煙の中が赤く何度も光った。そのすぐ後に煙が大きく膨らんだ。
アルバートは音と衝撃に備えて両耳を塞ぎ身を低くする。直後、重く低い体の芯にまで響く衝撃が周囲を蹴散らしていった。
「一体何が起きてるんだ……」
アルバートは家の方向を見る。先程の爆発で作られた白煙の輪の中を濃く黒い煙が貫くように立ち上っていた。
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