魔力がなくても戦えますか?

桜羽 遼

第1話 追放

 木剣を構える二人。


 一人は四十代前後の男。柔和な顔つきをしているが、幾多の戦場を潜り抜けた凄みがある。


 もう一人は金髪碧眼の少年。真剣な表情を浮かべて目の前の男を真っ直ぐ見つめる。


 少年が男に切り掛かる。初撃は軽く受け止められる。


 少年は連続で木剣を叩けつける。その一撃一撃に全力を込める。男は一つ一つを丁寧に木剣で受ける。


 少年は息を荒げながら木剣をひたすらに叩き続ける。対して男は悲しげな表情を浮かべながら攻撃を捌く。


 男が少年の剣を受け流す。少年は体勢を崩された。少年の首を狙う横薙ぎの一撃が男から放たれる。


 少年は崩された体勢のまま体を低くすることで攻撃を避ける。少年の頭上をブンと勢いよく木剣が通り過ぎる。


 男の空いた銅に一撃を加えるため、身を低くしたまま詰め寄る少年。


 しかし、少年が詰め寄るよりも男の次の攻撃の方が早かった。


 下から掬い上げるように迫る木剣を咄嗟に木剣を盾にして防ぐ。が、少年は勢いよく吹き飛ばされた。勢いが止まるまで地面を転がり続ける。止まった時には男と少年の距離は五m以上開いていた。


 少年は服についた土を払いながら立ちあがる。


 男は少年に近づいていく。


「アルバート様。あなたの剣技は素晴らしいと思います。しかし、魔力のないあなたがどれだけ磨いたところで意味はないのです。あなたでは十歳の子供にも勝てません。もう……やめませんか? 」


 男は心痛な面持ちで語る。


「無意味だとしてもアーノスノット家の跡取りとして魔物達から領民を守る力が欲しいんです。だから諦めるわけにはいかないんです」


 少年――アルバートは木剣を構える。


「……私はあなたに魔力があればと毎日のように思います」


 男もまた木剣を構え直した。




 午前の訓練を終えて、アルバートは父の元へと向かっていた。父から話があるから来いと呼び出されていたのだ。


 大人が十人並んで歩いても余裕があるほどの廊下を一人で歩くいていると、数m先の扉が開きそこから白髪碧眼の少女と黒髪黒目のメイドが現れた。


 少女はアルバートを見つけるとパァっと笑顔を浮かべて走り出した。


「お兄様! 」


 アルバートは走ってくる少女に向けて腕を広げる。少女は勢いよくアルバートに抱きついた。アルバートは少女を優しく抱きとめた。


「廊下を走ってはいけないよ」


 アルバートは少女を離した後優しく注意する。


「お兄様を見つけたら抑えられませんでした。申し訳ありません」


 しゅんとした顔をする少女。アルバートは少女の頭を優しく撫でた。


 アルバートの手の感触に安心した顔を見せる少女。


「アナスタシア様、走ってはお体に触りますよ」


 メイドが少女――アナスタシアに優しく声をかけた。


「このくらいの距離なら大丈夫ですよ」


 アナスタシアは胸を張って自分の元気をアピールした。


 メイドはまだ何か言いたそうだったが、諦めたようなため息を一つ吐いた。


「お兄様聞いてください。デイジーがいつも小言ばかりを言うんです。この間なんか……」


 アナスタシアが話始めようとした声に被せるようにメイド――デイジーが話し始めた。

 

「アナスタシア様、授業の時間が迫っております。アルバート様とお話したい気持ちは分かりますが、家庭教師の方を待たせているので急ぎましょう」


 アナスタシアはアルバートとデイジーを交互にチラチラと見る。アルバートは「行っておいで」と声をかけた。


「……分かりました」


 デイジーはぺこりと頭を下げてから、アナスタシアの手を引き、歩いていった。アナスタシアは名残惜しそうにアルバートに手を振って去っていく。アルバートは優しい笑みを浮かべて手を振り返した。



 アルバートは父が待つ部屋の前に着いた。縦横目一杯に大きい両開きの扉があり、複雑な模様が描いてある。アーノスノット家に仕えている騎士が二人隣に控えていた。


 アルバートが騎士に父から呼ばれたことを伝える。二人は扉に手をくっつけた。二人の手が触れた模様から光が伝染して全ての模様が光った時、扉が一人でに開き始めた。


 外開きかつ扉が大きい為、十m以上扉から離れた。扉が完全に開き切るまでに三十秒かかった。


「失礼します」


 広く大きい部屋のどこにいても聞こえるような大きい声を出して部屋の中に入っていく。


 この部屋は領地経営における会議や年に数回ある都市周辺の魔物討伐等の重要な話をする時に使われる部屋であった。


 部屋の中心部にある長机をアルバートとアナスタシアを除くアーノスノット家の面々が囲っていた。


 アルバートは膝をつき、頭を下げる。


「待っていたぞ、アルバート」


 アルバートから見て正面にいる恰幅のいい男が話し出した。左手にはアーノスノット家に代々受け継がれる魔道具の指輪をつけている。


「早速本題から入る。アルバート、貴様を我が家から追放する」


 アルバートは父の言葉をすぐに飲み込めなかった。反論しようとするも声が出ない。思考がまとまらない。


「貴様には魔力がない。アーノスノット家創設以来の恥だ。社交場にも出せぬ。貴様は跡取りになるためと何かと努力をしているようだが、無駄だ。次の当主はロバートになった」


 ロバートはアルバートの年下の従兄弟であった。彼もこの場にいてアルバートに蔑みの視線を向けていた。


「多少の金はくれてやる。今日のうちにここを立ち去れ」


「……はい」


 アルバートは返事をするので精一杯だった。

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