(3)バスルームの愉悦

 ショウゴはあわてて、近くにあったウエットティッシュを取る。

 数枚重ねたウエットティッシュで、ナオキの手のひらをぬぐう。

 ナオキの手を取ると、バスルームに連れて行く。

 トロンとした目で、おとなしくついてくるナオキ。


 (やっぱり、酔ってるんだ。ボクは、そんなナオキに……)


 「風呂に入れてくれんの?」

 「うん。キレイにしないと」

 「ありがと」


 微妙に舌足らずに話すナオキが、かわいく見える。

 ナオキの服を手早く脱がすと、風呂椅子に座らせる。

 ボディソープを泡立てて、スポンジで体を洗おうとすると止められる。


 「やだ。手で洗って」

 「えぇ? 手で? さわっていいの?」


 コクンと、うなずくナオキが、ますますかわいい。

 泡立てたボディソープを手のひらですくって、ナオキの体にのせる。

 首を洗うと、くすぐったいのか、ふふふとナオキから笑い声がもれる。

 胸のほうに泡を持っていく。

 ナオキの突起がピンと張り詰めている。

 さっきのナオキの指を思い出して、ついさわってしまう。


 「んっ……」

 「ごめん! さわっちゃって」

 「……いいよ。さわって」


 張り詰めた突起を指で転がす。

 ぷっくりと膨らんだそれは、ショウゴを待っている気がした。

 考える前に、ショウゴの唇が突起を覆っていた。


 「んんっ、あっ……」


 小さく漏らされるナオキの声。

 その声は、ショウゴを止めるどころか、よりあおる。

 その突起から唇を離せなくなる。

 しばらくすると、ナオキが口を開いた。


 「ショウゴ……、ショウゴのことも洗うよ」

 「ボク? ボクは、いいよ。さっき、シャワー浴びたし」

 「いいから。洗いたい」

 「う、うん」


 ボディソープを器用に泡立てると、ナオキはショウゴの体に泡をのせる。

 泡を転がすように、ショウゴの肌を滑るナオキの手のひら。

 その動きは繊細で、気持ちいい。

 なのに、なんだかもどかしい。


 「背中洗うから、ここに座って」

 「そこ? 無理でしょ」

 「無理じゃない。早く。向かい合うようにね」


 ナオキが座れと言っているのは、ひざの上。

 しかも、向かい合わせに。


 (これって、抱き合ってるのと同じじゃ……)


 ショウゴが考えようとするのを阻止するように、ナオキの手が引っ張る。

 泡だらけのショウゴの体は、あっさりとナオキのひざの上に収まってしまう。

 ヌルヌル滑るひざの上で、バランスを取ろうとする。

 どうやっても、ナオキと密着するしか方法はない。


 「そうそう。そうしてて」


 ナオキは、楽しそうにショウゴの背中を泡で包み込む。

 背中を手のひらが滑るたびに、ショウゴの胸の突起はナオキの肌にこすれる。


 (……気持ちいい……。あ、マズい。また……)


 ショウゴ自身が、再び、持ち上がるのを感じる。


 (どうしよう。ナオキのお腹に当たる)


 どうにか鎮めようと、素数でも数えようかと考えた矢先。

 ツプリ。

 感じたことのない刺激が、ショウゴを襲う。


 「え? ナオキ……?」

 「ショウゴは、オレの背中洗ってくんないの?」

 「あっ、うん。洗うよ」


 偶然当たっただけかな、そう思ってナオキの背中に集中しようとする。

 ツプリ、ツプリ、ツプリ。

 今度は、何度も刺激される。


 「そっ、そこは、洗わなくても……」

 「ダメだよ。全部、キレイにしなくちゃ」


 見えないけれど、ナオキのあのスラリと美しい指が。

 自分の後ろの窪みに、何度も入っていく。

 その光景を想像してしまう。

 もう耐えられるものではなかった。

 ショウゴ自身が、再び、力を取り戻して、ナオキの腹を押す。


 「こっちも洗って欲しそうにしてる」

 「あの、ごめん。落ち着かせるから……」

 「ふふ。いいよ。オレのと一緒に洗おう」


 そう言われて、下を見る。

 いつの間にか、ナオキ自身もショウゴと同じように立ち上がっている。

 ナオキが両手で、ふたりをまとめて包み込む。

 優しく上下に動かされる手のひら。

 さっき達したばかりで敏感になっているショウゴ自身。

 あっという間に、絶頂の予感がやってくる。


 「ナ、オキ。……ごめん、もう」

 「一緒に、いこう」


 学校に行こう、みたいに軽く言うナオキの顔が紅潮している。

 その顔が、少しだけ苦しそうで、なのに、やっぱり美しくて。

 ショウゴは、あっさりと達してしまった。


 「ごめん……、洗いにきたのに、また汚して」

 「汚れてなんかいないよ、ほら」


 手のひらを見せようとしてくるナオキの手を押さえる。

 そんなものを見せられたら、恥ずかしくて死んでしまう。

 ナオキのひざに乗っていることを、急に不自然に感じる。

 あわてて、ナオキのひざからおりると、シャワーですべてを洗い流す。


 ナオキの手を引いて、バスルームから出るとバスタオルでナオキを包む。

 ふわふわのバスタオルに包まれて、ふわりと笑うナオキの顔。

 それを見たら、またショウゴは、お腹がきゅっとするのを感じる。


 (マズい、マズい。別のことを考えろ)


 自分の体は、ザッとふいて、Tシャツを着る。

 ナオキは、とりあえずバスタオルに包んだまま、部屋に連れて行く。


 「ナオキ、Tシャツ、どこ?」

 「ん……? そこ」


 クローゼットを開くと、すぐに見つかる。

 隣りにあったボクサーパンツも取り出して、ナオキに履かせる。

 素直にされるがままになっているナオキの姿は、子どものように見える。

 それを、かわいいと思いつつも、罪悪感も感じる。

 ドライヤーでナオキの髪を乾かしながら、ショウゴは念じる。


 (明日になったら、ナオキが全部、忘れていますように!)



 *****


 次の朝。

 恐る恐る、自室を出たショウゴが見たのは、いつも通りのナオキの姿。


 「おはよう。お腹空いた」

 「……おはよう、ナオキ。すぐ、ご飯にするよ」


 トーストにサラダ、コーヒーのいつもの朝食。

 向かい合って食べるいつもの光景。

 ショウゴの内心だけが、昨日とは違っていた。

 それとなく、ナオキに問いかける。


 「あの、さ。昨日のことって、覚えてる?」

 「あ、オレも聞こうと思ってた」


 その言葉に、ショウゴの全身にピリッと緊張が走る。


 「な、何を?」

 「なんか、コーヒー飲んだあたりから記憶が曖昧でさぁ」

 「う、うん」

 「でも、風呂は入ってるみたいだし。着替えてるし?」

 「あ、そ、そう。あの、ナオキって、酒、めっちゃ弱い?」

 「うん。そうかも」

 「昨日、洋酒入りのチョコを食べたらさ……」

 「あ、そういうこと。じゃあ、オレ、自分で風呂入ってた?」

 「う、うん。そうかな……」

 「ごめん。迷惑かけてない?」

 「も、もちろん。全然! ちなみに迷惑って、どういうの……?」

 「ん〜、高校の時は、キスしたがったらしい」

 「へ、へぇ。き、昨日は、大丈夫だったよ?」

 「そっか。良かった。ショウゴに嫌われるようなことしてなくて」

 「ボクは、ナオキを嫌ったりなんかしないよっ!」

 「まぢで? サンキュ。もし、酒入りを食べちゃったら、放置して」

 「で、でも。危なくない?」

 「うん。だけど、迷惑かけたくないから」


 とりあえず、昨夜のことは、ナオキにはバレていないようだった。

 胸を撫でおろしながらも、罪悪感は募る。


 (気分的には、襲っちゃったみたいな感じ……)

 (記憶がないほうがいいと思ったけど、それはそれでマズいのか)


 ショウゴには、急いで考えなければならないことがふたつできていた。

 ひとつは、ナオキの酒対策。

 あんなに弱いなら、酒の席さえ危うい。

 酔ったナオキなら、簡単に誰かにさらわれてしまいそうだ。

 もうひとつは、自分の気持ち。

 昨日は、ナオキの色香にあっさりと陥落してしまった。

 けれど。

 それは、ただの性欲なのか。それとも。


 「ショウゴ? ショウゴ! 1限、遅れるぞ」

 「え? あ、うん。急ぐ。ごめん」


 ぼんやり考えていたせいで、いつもの時間を過ぎてしまう。


 「オレ、先に下に行ってるわ」

 「うん、すぐ行くよ」


 アパートを出ると、いつもとは違うナオキの姿がそこにはあった。

 真っ青なフレームの自転車にまたがるナオキ。

 その自転車には、見覚えがあった。


 (あれって、確か……)


 考えようとしたショウゴの思考を遮って、ナオキの声が聞こえる。


 「今日は、チャリで行こう。遅れちゃうからさ」

 「うん。チャリ、持ってたんだね」

 「まぁ」

 「でも、ふたり乗り、大丈夫?」

 「大丈夫だって。裏から行くから」


 いつも通る大きな道路を避けて、川沿いの道を行く。

 ショウゴは、初めて通る道だったが、ナオキは、スイスイと進んで行く。

 前から吹いてくる風に、ナオキの匂いが混じる。

 初夏の気温は、朝だというのに、それなりに上がっていて。

 接しているわけでもないのに、じわりとナオキの熱が伝わってくる。

 その熱と匂いが、昨夜を思い出させる。

 ぎゅっと、ボクサーパンツにショウゴ自身が締めつけられる。


 (マズい。昨日から、何度目だよ。落ち着け、ボク!)


 歩いて行くよりも楽だったはずなのに、普段よりも疲れた気がした。

 学校の駐輪場からは、少し歩いて校舎に向かう。


 「おはようっ! ふたりとも!」

 「あ、おはようございます。1限からって珍しいですね」

 「どうせ再履だよ〜。必修だから、取れるまで再履地獄……」

 「いや、取りましょ!」

 「今年は取る! ってか、ショウゴ、昨日、なんで来なかったんだよ?」

 「すいません、色々あって」

 「ナオキも帰っちゃうしよ〜」

 「ははっ。オレも用事思い出して」

 「今日は、来いよ!」

 「はい」


 後ろから声をかけてきたのは、サークルの先輩のひとり。

 ナオキよりもさらに背が高く、ナオキの肩に腕をまわす癖がある人だった。

 いつも見ている光景なのに、ショウゴは無性にイラッとする。


 「ボクたち、急ぐので、お先に失礼します!」


 そう言って、ショウゴは、ナオキの服を引っ張って連れ出す。


 「なんか急ぎだったっけ?」

 「えっと、あ、そう! コンビニ寄りたい。喉渇いて」

 「ああ、チャリのせいかな?」

 「ん? あ、そうかも? とりあえず、早く」


 喉なんか、1ミリも渇いてはいなかった。

 けれど、ナオキに絡まる先輩を見ていたくはなかった。

 なんで、急にそんなことを思うのか、ショウゴは自分でも分からなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ルームシェア【BL】 クリヤ @sakuriya

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ