第三幕 満員御礼


「じゃ、バイバイ~。」


ネリッサは、とぼとぼと歩いて街の夜に消えていった。


「ネリッサ・・・。」


「先ほど消えていったのが悪い魔女なのか、ネリッサ本人が悪い魔女だったのか・・・。」


「どっちも違う可能性もあると思う。」

「とにかく、あれは本来のネリッサだとは俺は思わない。」

「彼女のフォルからも、あそこまでの悪さは感じられなかったよ。」


「そうか。」


「・・・明日、また考えよう。」


「承知した、また明日だ。」



_____



翌朝



「イリス、役所の人からメールが来てたんだ、凄く厳重な圧縮をされたものがね。」


「ほう。」


「見て、この部分から。」


_____


イタクさんのフォルが、忽然と姿を消しました。


それと、フォリアーとはいえ役所に勤めた経験があるならご存じだと思いますが、役所に届けられていない 打ち捨てられたフォルを集めている団体が複数あります。

それらの団体が保持しているフォルも、過去にいくつかが突如消えたことを確認しています。


うちの一つの団体が、個人的に知り合いでして、そこの長がヒルさんと会いたいそうです。

現状においてお互い利がありそうなので、よければ引き合わせますが、いかがでしょうか。


_____



それから、聖都の端にあるとある建物。その地下へ。


「フィリーと申します。」


質素な洋服ではあるが、装飾と意匠から医学に通ずる人物であることが分かる。


「はじめまして、フィリーさん。」


「イリスさん、名前だけ存じてます。」


「・・・なぜですか。」


「私も、開拓騎士でしたから・・・といっても、いわゆる衛生兵ですけど。」


「そうでしたか、周りの人間や、部下も世話になったかもな。」


ヒルの目線はずっと、一点を見つめていた。


「ふふ、それは気になりますよね、お手にとってもいいですよ。」


フィリーは、長杖を差し出す。


「す、凄い・・・手に触れなくても癒しの力に溢れているのが分かる。」


「これは、私の親友だったものです。」


「・・・そこの話は、聞いて大丈夫なんですか?」


「お話しますよ。」


「彼女は、私と同じ志を持つ治癒術師でした。」

「私はいつも彼女と一緒に行動していて、息を合わせて騎士達や現地の民を癒してきました。」

「でもある時、とある村で問題が起きました。」

「先に言っておくと、どこに悪意の元があったかはわからない出来事だったんです。」

「ただ・・・彼女と私は、村で暴力を受けることになりました。」

「彼女と私は、暇ができると互いに癒し合いました。」

「暴力は終わらず、繰り返されました、そして、彼女はフォルを落としました。」

「もちろん、この杖です。」

「その後、いくらかの時が経ち、村に戻った騎士達によって、暴力と、その村の問題は収まりました。」

「彼女はフォルを落とした後も、しばらく暴力を受けていましたから、心身共に病んでしまって、以来ずっと入院中です。」

「私は、彼女のためにもと、このフォルを持ち、旅に出ようかとも思ったのですが。」

「あまりにも強い力を内包するこのフォルというものに魅入られて、今の団体を作りました。」

「少し話が飛びますが、時にフォルは忽然と消えてなくなります。」

「そして感じました、彼の者の存在と、その意思を。」


「彼の者、ですか」


「仮にそう呼んでいるだけですが、彼の者はフォルを簡単に回収していくんです。」

「手も触れず、顔も見せず、食べたいおやつを選ぶように、あまりにも安易にです。」

「どのように選んでいるのかは不明です、武器としての能力なのか、落とした記憶の中身なのか・・・。」

「これもまた直感の話ですが、私はこう感じます。」

「そのフォルを奪うことが、愉快なのかどうか、そういう基準なのだと。」


「つまり、なにか楽しみにしている連中がいるってことですか。」


「はい、そして一つ疑問が生まれました。」

「なぜ彼らは、この杖を持っていかないのか、ということです。」

「お二人にも簡単に伝わるほど、この杖の慈愛の力は強力です。」

「彼らの目に留まらない訳がないんです。」

「彼らは癒すという行為を、不幸のエサにできるから、これを回収しないんじゃないかと思いました。」


「エサ、ですか。」


「お二人の経験からも、彼の者達が不幸を求めているというのは、可能性として意識しているはずです。」

「不幸は何もないところからは生まれません、幸福とまではいかなくても、傷の癒える何かがある所にこそ、不幸は降りかかってくるものです。」

「私の友人が食い物にされるとなったら、その憎しみは筆舌しがたいもの。」

「だから、この癒しの力を使う事を辞めた方がいいのかとも思ってます。」

「すみません、さっきから飛躍した憶測ばかりで・・・。」


ヒルは熱の入ったフィリーをなだめる。


「いえ、可能性の話はいくらでも価値がありますよ。」

「それに、ご友人さんを大事にすればこその・・・。」

「いや本当に、すごい慈愛がここにあるのを感じますよ。」

「もちろん、あなたからも。」


「ありがとうございます。」


「・・・フィリーさん、俺と、イリスと共に、フォルとフォリアーを癒す旅に出ましょう。」


「ちょっと待ってください、今の話を聞いてましたか?」


「もちろんです。」

「でも、あなたがその癒しの力を振るわないと決めてしまったら、彼の者達はそのフォルを回収してしまう可能性があるんじゃないでしょうか、今の話の通りなら、エサとして働かなくなるわけですからね。」


「それは・・・。」


「フィリーさんの話や、いくつかの想像の中に在る、この世界を操る存在。」

「そう、俺たちを役者に仕立てて絶対的な決定力を持つ存在がいるのなら・・・。」

「それに抗うために、俺たちは歌舞いて見せる必要があるんじゃないかな。」

「愚直にも、フォルとフォリアーを癒す旅を続ける愚かなパーティ。」

「上等じゃないか、愚かでも、それが俺たちを本懐なのだから。」

「根本的な解決方法は裏で探しつつ、かけがえのない絆を紡いでいく。」

「いつか、壁を壊すその瞬間を、虎視眈々と狙いながらね。」


「ネリッサが望んだように、か。」


「そう、ネリッサも、僅かながら希望があるしね。」


「そうなのか?」


「線は細いけどね、ネリプロちゃんの中に、直前の記憶が同期されているはずだ。」

「敵の狡猾さを考えると、とっくに上書きされていそうだけど。」

「上書きされたら取り戻せない、とは限らない。」

「ネリッサ、とっても頭良さそうだったし、彼女が自分を諦めていなかったのなら、きっとなんとかなる気がするんだ。」

「また、あのネリッサと会えるよ。」


「・・・頼もしいな。」


「あぁ、ちょっと脱線しちゃったね ごめんフィリーさん。」


「いえ、大丈夫です。」


「フィリーさんの人を癒したい気持ちが、どこにも向かわないことが単純にもったいない。」

「そう思うところもあります。」

「フィリーさん自身は、どうなんですか」


「それは、言うまでもなく・・・。」


「前向きに、素直に、やっていきましょう。」


「私からも頼むよ、フィリーさん。」


「・・・分かりました、よろしくお願いします。」


「そうこなくちゃ。」


「まずは、フィリーさん達の集めていたフォルを見せてもらうとするか。」


「あぁそっか、そうだね、構いませんか?」


「はい、もちろんです ご案内します。」





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーフォルとはawajw]@pjg4pogavbbnapbwpr:武器のことで:aifhwignv4:gk

そっちのほうが面白いーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

再生しますか---------------

はい---------------



「あれ、どうして・・・。」


フィリーは、見慣れない光景に驚いた。


「全部光ってますね。」


そこに置かれていた、フォルの数々が、どれも光を放っている。

次第にその光は束ねられ、ヒルの体にまとわりついた。


「うおっ。」


「ヒル!、これは、一体・・・。」


ヒルは何かを確かめるように、集中した。


「・・・、ごめんイリス、フィリー。」

「急ごう、禁域B22、あの結界のあった廃村へ。」

「フォル達が教えてくれた。」


「・・・分かった。」


「信じられない、こんなことがあるなんて。」

「見知らぬはずのフォルが、何かを伝えた・・・と。」


______


「結界がなくなってる。」


「そのようだな。」


「とにかく、入ってみよう。」


3人は廃村をゆっくりと散策する。

風の音が響くこともなく、完全なる静寂だった。


「この村は、かなり昔に朽ちたように思えるが。」


「うん、でも・・・なんか・・・。」


何かを感じるヒル、フィリーも何かを感じ取る


「直前までここで、何かが育まれていたような温もりがある気がします。」


-----【そりゃあね】-----


「なんだ!?」


3人の前、空中に、映像を映すスクリーンが現れた。

写っているのは。


「ネリッサ・・・。」


「おやおや、仲間が一人増えたみたいだね、感心だ。」


「あなたが、ネリッサさん・・・。」


「ネリッサ、俺たちがここに来るのが分かっていたのか。」


「いや、多分来るかな~ぐらい、でも・・・。」

「ちょっと遅かったね。」


「なに?」


「ほらそこ。」


ネリッサが指さす方を見る、そして近づくと。


「さっきまで人がいたんだな。」


「んふふ~分かるよねぇ、そりゃあアツアツだったから。」


「あの短剣の二人か?」


「・・・そうだなぁ、せっかくだからちょ~っとだけ見せてあげるよ。」

「二人の物語を少しだけね。」

「ポチっとな。」


______


「ねぇ、聖都に移らない?」

「エヴァがいるなら辿り着けるでしょ。」


「お前もちゃんと働く気があるならいつでもいいよ。」

「向こうの金がどうなってるのか知らないけど。」


「うっ・・・って、一応働いてはいるもん。」


「ふざけた奴。」


「・・・今日も仕事行くの?」


「あぁ、まぁお得意さんのとこだけどね。」


「またぁ?」

「開拓騎士さんも来てるんでしょ?」


「悪かったな、見りゃ分かんだろ、男受け良くないんだよわたしは。」

「客は限られる。」


「ううううう、エヴァが汚されるぅぅぅぅ。」


「今更だな、私は小さい時から【外れてる】んで。」

「当たり前の道を、当たり前に生きている。」

「お前も少しは目の前の現実ってものを受け入れろよ、ミーナちゃん?」


「でもさぁ・・・。」


「なんなら二人で一緒にやるか?、お前がいれば簡単に捉まるだろ。」


「一緒にかぁ・・・はぁ・・・でもそんなエヴァを見たくないなぁ。」

「むぅ、金を稼げばいいんでしょ。」

「・・・・・。」


「ま~た変な事考えてるな、ムショに入るようなことはやめろよ。」

「私は昔に散々入ったけど、今はごめんだね。」

「それに、女二人で暮らしてるのはバレてるし、あんま良く思われてないから。」

「私が一緒に居てやってるのを感謝して欲しいよ。」


「えぇ!?エヴァは私と一緒に居たいんじゃないの?」


「全然。」


「ええええぇ・・・・。」


「金かかるし、かわいいだけでなんにもならねぇ。」


「ひ、ひどい。」


「はぁ、鬱だ、今日も明るい。」



「エヴァさんこんにちは、今日は良い天気ですね。」


「最低の天気だ、誰だお前。」


「見れば分かるでしょ、またやってきた騎士ですよ。」


「邪魔だ、これから仕事でな。」


「う~ん、献身的で素晴らしい事ですね。」

「聞いたんですよ、ミーナさんという方と、とても仲良しだそうで。」

「でも、仕事ってあれでしょ、聖都ではとても認められませんね。」


「知るか、ここはここだろ。」


「そうでもないです。」


「はぁ?」


「村長さんとも話が付きまして、聖都の管理に入ってくれるそうですから。」


「・・・・・。」


騎士はエヴァとの距離を詰めた。


「さ、行きましょう。」


「どこにだよ。」


「もっと良い仕事ですよ。」


騎士はエヴァの腕を掴む。


「やめろ!」


「別に拒否してもいいが、その場合は代わりにミーナさんに働いてもらいますよ。」


「・・・・・。」



_____



街は、悲鳴に包まれていた。

ミーナは喧騒に気づいて外へ出た。


「な、なに。」


付近の住民が遠くへと逃げていく中、彼女が目の前に現れた。


「エヴァ、エヴァ!?」


エヴァ、彼女の手には短剣が握られており、血が滴っている。


「エヴァ、何をしてるの?なんで、そんなもの・・・。」


「お前、誰だ。」


「えっ・・・。」


「私は待たせてる相手がいるんだ、消えろ。」


「エヴァ、そんな、どうして・・・。」


ミーナは膝をつき涙を落とした。

そしてそのまま、フォルも落とした。


______


突如、投影されて見せられていた二人の物語はここで途切れ、またネリッサの声が支配する。


「この後もいろいろあったけど・・・。」

「お互いに何度も記憶を失いながらも、ふたりはくっついたみたいだね。」

「そして最後は、村を滅ぼし結界を作るに至った。」

「ここでの最後の時までは二人で幸せに時を歩んでいたよ、何も食べず、何も飲まず、歳もとらなかった。」

「私の知識でも説明できない、まさに愛のなせる業なんだろうねぇ!」


「それで、その二人をどこへやったんだ。」


「二人は君たちの言う、彼の者達の世界に送られた。」

「やっと、この世界から解放されたんだよ、おめでたいねぇ。」


「どういうことだ。」


「【来場者に抽選プレゼント、応募者から2名に、それぞれエヴァ、ミーナをプレゼント】」

「だってさ。」


「・・・・・・・は?」


「これじゃあ二人揃えるのは厳しいね、まぁ当選者が二人セットで飼ってみたいか、片方の方が楽しいかは、その人の趣味によるだろうけど。」


「ふざけるなよ。」


「う~ん?どうしたのかな?」

「あ、そうだ あとこれ。」


画面越しのネリッサは、二つの短剣を取り出して、宙に浮かせる。


「もう複写・編集して上映中だからさ、最終章も終わりだから・・・。」

「彼女たちと同じく、マスターデータも必要ないね。」


--------バリッ--------バリッ---------ガリッ------------


ネリッサの前の前で、対の短剣は砕けていった。


「ひ、ひどい。」


イリアが剣を抜き、画面越しのネリッサに向ける。


「なぜ、そんなことを、なぜ・・・。」


「ん?私がプロデュースしたわけじゃないからね、知らないよ。」

「外のことなんてぇ、しらなぁい。」

「でも、君たちに分かりやすく現実を見せてあげたつもりだから感謝してよね。」

「ヒントにはなったでしょ?ふふっ、答えには絶対に届かないからカワイソだけどね。」


「ネリッサ、もうやめろ、やめてくれ。」


「まだまだ【弾】は残ってるけど、このままだといつか弾切れしちゃうみたいだねぇ。」

「だからほらほら3人とも、もっと頑張って!」

「いっぱい助けて、いっぱい作って、いっぱい癒して、満たしてみせてよ。」


そこまでいうと、スクリーンは消えてしまった。


「やはり、邪悪に塗れているのですね。」


フィリーが言うと、ヒルは片手を上げた。


「ちょっと待って。」


「ヒル?どうした・・・。」


「・・・・・かろうじてだけど、感じる。」


「・・・何を?」


「ネリッサが、あの短剣を壊したからなのかな・・・これは・・・。」

「確信は持てないけど、これは隷神の気配だと思う。」


「隷神の気配・・・、あのフォルと繋がっていた隷神が、役目から解放されたということか。」


「・・・あ~ダメだ、なんとなくあるのは分かるけど、それだけ。」

「それに、役目から解放されたってことは、浄化しきれていない状態で不幸が飛散したと考えられるから、悪い影響が飛んでる可能性もある。」


「なるほど、隷神のことを考えると、フォルが壊されるのも避けるべきことになりそうですね。」

「機械神が、彼の者たちと、我々との間で、どういった立場を取っているのかが、気がかりになってきました。」

「機械神が与えるものの多くは、確かに私たちに必要なものだと言えると思います。」


「ヒルは以前、隷神から人生相談らしきことをされていたはずだが・・・。」

「今は、向こうから連絡が来ない当たり、やはり対策されているのだろうか。」


「多分・・・、でも。」

「今度はいつか、こっちでもから隷神にコンタクトが取れるようになれればいい。」


「ヒルがフォルから感じ取れる内容の精度が急激に高まっているようだから、それも有りうるか。」


「本当に、ヒルさんって凄いんですね。」

「・・・先ほどの二人、彼の者たちの世界へ行き、フォルも壊されてしまいましたが。」

「なにか、なにか少しでも救われる道があって欲しいです。」


「情報として抜けている部分がまだ多いけど、あの結界を作り出していただけの愛情があったのだから、そう簡単に全てが消えることはないだろう。」

「何もしてあげられなかったけど、いつか・・・。」


「そうだな、いつかは・・・。」







-----昔-----昔-----


「結婚だぁ?」


「うん、ツガサと結婚する。」


「勝手なこと言いやがって、なんで俺がお前と・・・。」


「なんで、嫌なの?」


「嫌っていうか、そういうのはもっと色々とだなぁ。」


「その通りだぞミヤコ。」


「あっ、お師!お土産は?」


「まったくこの娘は、花も団子もと、強欲で困ったものだ。」


そう、風が強かった。

何か起こる日は、風が強い日だった。




第三幕 満員御礼  終

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機械聖都の夜 -悲劇の記録と癒しの旅- @kouyou8989

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