第二幕 ヒル・サンクと悪い魔女


「で、お二人さん、次にすることはお決まり?」


「まだ決まってないんだ、他のフォルを探そうと思って。」


「その前にさ、この近くの機械神君に会いに行かない?」


「会って、どうするんだ?」


「そりゃあ、どういうつもりか聞くんだよ。」


「確かに、ヒルは特別視されていそうだったから、会話はできるかもしれないが・・・。」


「ヒル君とイリアちゃんが、フォルやフォリアーを助けたい気持ちはもちろん分かってるよ。」

「でも、根本的な知識に近づけるなら機械神を問いただすのが手っ取り早い。」

「私を連れて行くと、やば~いことが起こる可能性が高いけどね。」


「やばいこと?」


「そ、私もやばいしヒル君もやばい、だって絶対意識されてるもん。」


「それを分かっていて、飛び込むわけか。」


「ヤバイことが起こると思うけど、わたし、ヤバイくらい強くて賢いから安心して。」


「全然安心できないけど・・・。」


「この近くの機械神というと、機械神イサラか、ネッちゃん。」


イリアはネッちゃん呼びに抵抗がないらしい。


「だね、見た目もちっこい奴っぽいし、余裕っしょ。」


「ヒル、ネッちゃんと話しをして少し広がった見識もある。」

「もう一度、機械神と話してみるとしよう。」


「・・・多数決で、そういうことにしようか。」

「じゃあ予約を・・・。」


「予約とか!時間制限とか!いらないから!。」


「えっ。」


「真意の分からないままの存在なら、下手に出る必要ないんだよ。」

「満足するまでしゃべらせる!」


「これは、腹を決めた方がよさそうだぞ、ヒル。」


「そうみたいだね・・・。」



町はずれにある社にやってきた三人。



「たのもーー!!」


激しい轟音と共に、ネリッサの魔法が鍵のかかった扉を破る。


【自らやってくるか、ヒル】


「あの~私のこと目に入ってます?結構派手にやってみたつもりなんですけどね~。」


「俺達が、何を求めてやってきたのか分かりますが。」


【貴様の行いは目に余る、このイサラの権限でも十分だ、貴様の記憶を消させてもらおう】

【Deleteだ】


ヒルの体は光に包まれ、その光景、景色は、空間ごとブレていた。


「ヒル!」


「・・・・」


「ヒル、お前・・・。」


「何も、忘れていないが?」


【馬鹿な、そんなはずは・・・】


機械神は先ほどと同じ力を使い、またもヒルは光に包まれたが。


「だから、何も忘れていないが。」


【あり得ない、何がこの男を繋ぎとめている】

【まさか、こいつが関わってきたフォルの願いによるものか】


イリスはその言葉に疑問を持った。


「ヒルが関わったフォルの数など、イタクぐらいの話じゃないのか。」

「いや、もしや過去に・・・。」


「悪い、ちょっと思い出せはしないけどさ、この光のおかげでかえって頭が冴えてきた。」


【では、先に、そこの女たちに消えてもらおうか】


「待て、それはやめろ」


次は、イリスとネリッサが光に包まれた。


「イリス、ネリッサ。」


「な、なんだここは。」


「イリス。」


「なぜ、ヒルが・・・・。」


「あああ、ここはどこ~私は誰~。」


「ネリッサ・・・・。」


「なんてね、こんなこともあろうかと、準備はしておいたんだ。」

「ヒルちょっとどいて。」

「ポコンとな。」


ネリッサはイリスの頭を軽く杖で小突く。


「・・・・・ん、ネリッサ。」


「ネリッサ、記憶があるのか、それにイリスの記憶も。」


「これ、 機杖ネリプロに同期しておいたからさ。」


「自分の記憶はともかく、イリアの記憶まで、どうしてそんな器用なことが。」


「ネリプロちゃんは未知質で改造してるからね、機械神どもと同じ。」


「そういう訳だからさ、機械神君、吹っ飛べ。」


ネリッサのネリプロから放たれた衝撃波は機械神を木っ端微塵に吹き飛ばした。

まるで予備動作なく、呆気なく。


「ま、意味はないけどね、どうせ補完される形で新たな機械神がどこかで産まれてるし。」


「ネリッサ、さっきみたいに器用なことができるなら、フォルに宿った自分の記憶を戻すことも可能なんじゃないか。」

「できるかもね、でも怖くてできない、だって私が、悪い魔女だったかもしれないんだもの。」


「ちょっとフォルを触らせてもらってもいいか。」


「いいけど、触る前にあいさつして。」


「え、えっと、ネリプロさん、失礼します。」


ヒルはネリッサのフォルに手を触れ、気持ちを探る。


「違う、ネリッサは悪い魔女だったわけじゃないよ。」


「・・・・ありがとう、そうだといいな。」


ネリッサのフォル、ネリプロに触れたヒルが、本当に感じたこと。

そこには、【真っ黒】と無邪気な気持ちが同居していた。


「しかし、本格的にケンカを売る形になったな。」


「一度、聖都の妻に会いに行きたい、そうすべきだと感じるんだ。」


「そうか、では・・・。」


「二人も一緒に来て欲しい。」


「お前が言うなら、そうしよう。」


「え~、奥さん怒らない?」


「家のそばまで来てくれればいいよ。」


「お~、ヒル君、可愛げあるね~。」




聖都に戻り、二人とは街で一度分かれて、ヒルは一人、自宅へ向かった。

ヒルはその道すがら、ネリッサの力について振り返っていた。

記憶に関する器用な力や、フォルであるネリプロちゃんのことではなく。

単純な、彼女の魔術の力、その強大さに。

術者、魔術を扱える人間というものは、確かに稀有な存在である。

剣で戦う者、魔法で戦う者、或いはそれ以外の特殊な力・・・能力を持つフォルを扱う者。

仮に、この世界に【力のルール】や【力のバランス】があるのだとすれば

ネリッサの持つ力は、明らかに【ルール違反】だった。

そして、ネリッサという人物が抱える重量、データ、存在感。

ヒルにはそれが、異物だと感じられた。

人として絆を育みたいと思える人物としてのネリッサと、圧倒的な質量を抱える彼女の存在と。

どちらも真実としてそこに在った。




「おかえり。」


「あぁ、ただいま。」


「といっても、どうせすぐ出ていくんでしょ。」


「あ、ばれたか。」


「はい、これ。」


「これは?」


「あなたがまだ、フォルを落とす前に大事にしてたこと・・・そのメモリだと思う。」


「ちょっと待って、なんでアルファがそんなものを?」


「記憶を消した後も無意識に持ち歩いていたんじゃない?もう少しで洗濯する所だった。」


「中身、見た?」


「うん、よくわからなかったけど、でも。」

「あなたはずっと、あなたらしかったんだなって。」

「私はもういいから、またいってらっしゃい。」


「・・・また、戻るから。」


「ん、期待しないで待っておく。」


________



「お待たせ二人とも、さっそくだけど見なきゃいけないものが。」


「その記憶メモリー?」


「あぁ、今も使える端子だからすぐ見られる。」


メモリの中にはテキストデータが入っており、そこには何かのツールで会話していた記録がコピーされていた。


イリスとネリッサも覗き込む。

ネリッサは感嘆の声を上げた。


「はぇ~これは、人生相談じゃないですか!」


ヒルも、その事実に目を疑った


「なんの中身も実績のない人間の癖に人生相談受けてるとか、とんでもなく気持ち悪いな俺!」


「そうは思わないぞ、お前の人柄をそう悪く思ったことはない。」


「いやでも、これ・・・。」


恥ずかしながらも読み進めていくと、ある単語が現れた。


「れい・・・しん・・・。」


「まさか、機械神の言っていた隷神?」


「いや、意味が分からないだろ、なんで俺がその隷神と謎のツールで人生相談してるんだよ。」


「はい!ネッちゃん全部分かったぞ。」

「フォルの不幸を身に受けて時を生きる隷神が、暇を持て余してSOSしてたんだよきっと。」

「ヒル君がとっても優しいから、特別な方法でこっそり連絡してたんじゃないかな。」

「でも、どこかで機械神がその事実に気づいて、隷神やフォルから不幸が減るのを嫌った。」

「だから、ヒル君の記憶が消えるように何かの手を使ったんだよ。」

「その時はフォルを生み出すに至ってしまったけど、この前の機械神に記憶のデリートを喰らった時は、恩を感じてたフォルや隷神の願いが勝って、ヒル君の今の記憶を守れた。」

「そういうことじゃないかな?」


イリスは同調するように言う。


「元から分かっていたことではあるが、ヒル、君は自分が思っているよりずっと立派で大きな存在だよ。」

「まだ見ぬフォルや隷神が、君の優しさを感じて求めているんだろう。」

「そうして君を味方する。」

「君がそんな輝ける存在だからこそ、機械神は君を妬んでいるに違いないよ。」


「お、俺が・・・そんな・・・。」


「ヒル君、君のフォルを握ってごらんよ。」


「あ、あぁ・・・。」


ヒルが剣を握ると、輝かしい黄金の光が溢れる。

そして光は、竜の如く天に駆けていく。


「ヒル、これが、君の本質なんだな。」


「これが、ヒル君の本当の大きさだね。」


「俺の、大きさ・・・これが・・・。」


____


「ヒル、そろそろ剣をおろせ。」


「あぁ、なんか自分で見とれちゃっててさ、ごめんごめん。」


「・・・ヒル君さ。」


「ネリッサ?」


「一つ、約束しないか。」


「約束?」


「うん。」

「君はきっと、機械神や悪い魔女にどれだけ意地悪されても、戦える強さがある。」

「人を、助けてあげられる。」

「もし、この世界が救いようのない悪意に満たされた箱庭だったとしても・・・。」

「そう、どんなイタチごっこが続いても、あきらめずにいて欲しいんだ。」


「・・・約束するのはいいんだけど。」

「その約束守って、何か俺に得があるのかな、すっごく大変なのに見返りなし?」

「ネリッサは何かくれないの?」


「今しがた、君に自信と呼べるものを与える手助けをしてあげたでしょうが。」

「確かに、ネッちゃんのワガママには変わりないけど・・・。」

「とにかく、君が壁を破るところを見せて欲しいんだ。」


「壁って、何を指してそう言ってるんだ?」


「卑怯者は、すべからく壁の外から観劇するものさ。」

「いつかは、そいつらを引きずり降ろして、お灸をすえてやってくれ。」

「私はそう願う。」


「それって・・・。」


「私は強い魔女だからね、予想つくことは予想がつくのさ。」

「で、約束できるの?」


「うん、約束しよう。」



その次の日。夜が明けるころ。

宿で個別にとった部屋で、休んでいる3人。

ネリッサは、大好きな曲を聞きながら、目を瞑っていた。

しかし彼女は、ずっと起きていた。


-----ギリギリまで削ぎ落して、同期-----


・・・・・


-----睡眠がとれないことは、重篤な疾患への近道、できるだけ遅らせる-----


-----いや、私はとっくに至ってしまっているのかも知れない-----


-----それなら、こんな私でいられるのは喜ばしいことなのかも-----


-----夢の僅かな欠片でも、私の体は過去と対峙することを拒否する-----


-----そこまで拒絶する過去は一体何なのか、機械神の影響なのか-----


-----あの日生まれたフォル、でも、機械神の様子を見るに-----


-----別に悲劇なんて起こらなくても、その気になれば無理やりフォルを、記憶を落とさせる術を持っていると考えられるだろう-----


-----私は強い魔女だから分かる、私はずっと【便利な役者】として使われていること-----


-----力も知識も、与えられたフォルだって、私は自在に意味の変わる、創られた空箱-----


-----ただのプログラムでいさせてくれれば楽なのに、こんな暇と、思考を許すなんて-----


-----ふざけてやがる----


・・・・・


-----ヒル君もイリスちゃんも申し分ない資質がある-----


-----ヒル君の記憶は、フォル達がちゃんと補間してくれている、彼の者たちがフォルを扱う限りはきっと、ヒル君の剣も折れない-----


-----でも、今のままではずっと足りない-----




「もう朝か。」



______




「今までツッコミ入れなかったけどさ。」

「イリスちゃんの持ってる剣も・・・フォルじゃね?」


「俺も、なんとなく気づいてはいたんだけど、触れない方がいいのかと思って。」


「・・・実は、そうなんだ。」

「開拓騎士の回収物の一つでな、どこの誰のフォルかもわからないし、特別な力がある訳でもない。」

「少しだけ、手に馴染んだ、それだけの理由でこれを得物にしている。」


「ヒル君、一回持ってみれば?」


「イリス、いいのか?」


「そうだな、持ってみてくれ。」


「・・・・・・。」


しばらくすると、ヒルは腕を汲んで空を仰いだ。


「ヒル?」


「これは・・・困ったな。」


「どったの?」


「このフォル、自分を魔女だと言ってる気がする。」

「あ~でも、ネリッサが言っているような魔女とは別の意味だと思う。」

「イリスは、何か心当たりないか、魔女って言葉に。」


「騎士で魔女と言ったら、そう呼ばれた女が一人いたことは知っている。」


「どんな人?」


「名前は分からないが、女の騎士としては初めて最高位の指揮官の座に座ったそうだ。」


「それが、どうして魔女と?」


「ある時を境に、暴虐を働くようになったらしい。」

「エスカレートしていき、無差別に殺戮を行うようになったと。」


話を聞き、ヒルは、経験から推察する。


「あり得そうなこととすれば、フォルを落とし、落としたフォルを手に取って、欠けた記憶のまま修羅になってしまったパターンかな。」


と、ヒルが口にしていると、フォルが暗い光を放ち始めた。


「なっ・・・。」


-----私が、大好きだった彼より優秀な訳がなかった-----

----どうして私が、彼の上にいなければならなかったのか-----

-----私は恋がしたかったし、子どもも欲しかった-----

-----期待に応えなければならなかった、その通りに振舞ったけど、私は人形で、私の中身もお人形だった-----


そこまで言うと、剣は光を失った。

イリスは目を瞑り、フォルが発した少ない言葉を噛みしめた。

そして、イリスが再び剣を手に取る。


「あっ・・・。」


一瞬、剣は激しく明滅し、その後、徐々に元の状態へ戻った。


「イリスちゃん。」


「イリス、大丈夫か。」


「・・・・・うまく言えないんだが。」

「少しだけ、フォルと繋がったような、そんな気がする。」


「ネリッサ、その杖の力で、もっと知ることはできたりしないのか。」


「他のフォルの記憶を出す行為には、どういうリスクがあるのか分からないんだ。」

「それに、私は強い魔女だから、何かの影響を受けて暴走するとまずいでしょ。」


「強い魔女なのに影響を受けるものなのか?」


「直接私に影響を及ぼしに来る場合は、簡単に跳ね除けてみせるよ。」

「でもネリプロちゃんの力で何かするときは先にネリプロちゃんに影響が出る。」

「でもって、私はネリプロちゃんに記憶を同期してるでしょ、ネリプロちゃんの記録が先に上書きされてしまった場合って、規模によっては結構まずくて・・・。」


「・・・難しいが、なんとなく分かった。」

「無理言って悪い。」


「いえいえ~どういたしまして~♪」


「イリス、どうしたいとか、あるか?」


「この魔女の話は、もう大昔の出来事だからな。」

「都市伝説みたいなもので、明確な資料は一つも残っていない。」

「だが・・・。」

「このフォルと一緒にあれば、いずれ何かを知らせてくれるような気がするんだ。」

「だから、このことは一旦おいて、別のフォルのことを追うことにしよう。」








-----ネリッサちゃ~ん、夢から覚めるお時間でちゅよ~?-----


外から女の声が聞こえた。


「な、なんだ?」


「ネリッサって、言っていたな。」


ネリッサは、無言で走り、外へと出る。



「ネリッサちゃ~ん、いい子でちゅね~。」


「あんた誰。」


遅れてヒルとイリスも外へ出た。


「どうみても、魔女だな。」


月夜に照らされる、箒に跨った魔女。そうとしか見えなかった。


「う~ん、お話はいいから、はいっよく音を聞いて~!」


すると魔女の方から、暴風のような衝撃と共に、酷く歪んだ高音が耳を劈く。

魔女はすぐに空の彼方へと消えていった。


------------------【-----作れてこそ、だよ】-----------------------


ネリッサはヒルとイリアの顔を真剣に見たかと思うと、ひどく恍惚な表情を浮かべた。


「へへ・・・へへへ・・・ぐうぇ・・・。」


「お、おいネリッサ。」


「ふふふ、ふふふ。」


「一体、どうしたんだ。」


「わたしね、悪い魔女なの。」


「おい・・・ネリッサ・・・。」


「人の不幸が大好物、それはもう、さいっこ~に気持ち良くなって、昇天して神様にごあいさつ。」

「神様、わたしイって参りましたって報告して地上と神様の耳元を往ったり来たりよ。」

「特にそう!想い人と引き裂かれて、大嫌いな・・・ってあ、そうそう!あれ回収ね!」


ネリッサが指を鳴らすと、彼女の手元には対の短剣が二本。

それを頬ずりしてみせる。


「それは、ネリッサ、返せ。」


「返す?あなたたちのものではないでしょ、彼女たちのものだよね~。」

「監督に逆らえる訳ないんだよ、誰も、私も。」

「ああああのね、楽しみに待ってるのは私だけじゃないの、みんなが楽しみに待ってるんだよ。」


「ネリッサ、どういうつもりだ。」


「・・・イリスちゃん。」

「う~ん、いや、ヒルくんもイリスちゃんも虐め甲斐がないなぁ。」

「でもいいね、世界が不幸に満ちてしまったら、それもまた失敗なんだろうから。」

「働いてもらわないと。」

「約束、したもんね。」



第二幕 ヒル・サンクと悪い魔女 終













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