機械聖都の夜 -悲劇の記録と癒しの旅-

@kouyou8989

第一幕  悲劇の記憶




「クソババア!」


「クソババアか、とても心地よい響きだな。」


少女は後ろ手に拘束され、男に髪を掴まれている。

クソババアと呼ばれた女性は、少女に顔を向けることなく自分の手を見つめていた。


「可哀そうに、怖いだろう辛いだろう、痛かろう、不快であろう。」

「だから、忘れてしまえばいい。」


「おいっ、ババア!あいつらと同じように私まで使うつもりか!」


「あの男と同じなら、努力次第で救う神も現れるだろ。」

「だから、足掻いて見せるんだな。」


「ババア!」


少女の髪を掴む男の腕が力を込めると、世界は歪んだ。

そして、視界も、記憶も、少女の人生も、そこで捩じ切れた。




______




ヒル・サンクは33歳で結婚した。

一般の騎士として、聖都の近辺の警護を行い、稀に現れる小さな魔物を退治する日々だったが、結婚を前に引退。

妻のアルファと何もない日常を送っていたが、妻の勘とは凄いものだ。


「なにか、決めたことがあるんじゃない?」


ヒルは目を丸くしたが、言葉を紡ぐことなく、しばらくの後、意を決したように語りはじめる。


「フォルと、フォリアーを知る旅に出たいんだ。」


そういうと、一本の剣を机の上に置いた。


フォルとは何か。

人が、耐えがたい悲劇などによって自殺、自壊、自暴自棄に見舞われそうになった際に、それらの悲劇をまとう多くの記憶を削ぎ落として顕現する武器のこと。

そこには、起こってしまった悲劇の記録が内包されているとされるが、解析する術は現状ない。


フォルを生み出した当人のことをフォリアーと呼び、

彼らは大小様々な記憶を失くしてしまっているため、扱いには繊細さを要する。


ヒルもフォリアーの一人だ。

目の前にあるのは彼のフォル・・・落とした悲劇の記憶だ。


「俺はフォルのことを直感で少しわかる。」

「俺のフォルは、まさにみじめだ。不幸というより、自分の弱さ、愚かさが生んだものなのだから。世の中への逆恨みもいいところだ。」

「役所に勤めながら、外で魔物と戦う騎士を恨めしいと思っていた。」

「自分では何も出来やしない、役所の仕事もミスばかりで役に立たない。」

「小さく愚かで醜悪な自分が、社会とうまく繋がれない事への逆恨み。」

「そんな感情で、こんなものを仰々しく生成してしまった自分に腹が立つ。」

「この剣を手にして、躍起になって騎士になったが、俺という人間には歴史も、人としての重さもない。」


「ヒル・・・。」


「でも、やらなきゃならないことを見つけたんだ。」

「フォルを生み出した人間の心を穏やかにしたい。忘れるべきことを忘れたことで、快活に生きている奴もいるが、夜には悪夢を見ることが多いというし。」

「俺と違って、立派だった人間たちの、記憶を辿ってみたい、できればそれを癒してやりたい。」


「あなたがそう思ったのなら、そうすればいいよ。」


「君を連れていけない旅に、なりそうなんだが。」


「大丈夫だから、私は。」


「俺なりに頑張ってくるから。」


「うん。」


妻アルファの手には、大事に、小さな記憶メモリが握りしめられていた。



-----私も頑張るよ、あなたが忘れてしまった、とても愛しいあなたのために-----







ヒルは、知り合いだった一人の女性を訪ねた。


「あのときは、家族が世話になった。」

「いやぁ、本当に、ただの仕事ですから。」


イリアという女性は以前、開拓騎士と呼ばれる騎士だった。

聖都から遠くにある、未開の土地、【禁域】を解放することを目的とした騎士の組織だ。


「つまり、フォルを巡る旅に一緒に来ないかという誘いだな。」


「あっ、まぁ・・・それはあわよくばって奴です。」


「もう開拓騎士も辞めたわけだからな、私も余生をどうするか考えていたところだが。」


「そういえば、どうして開拓騎士をお辞めになったんですか。」


「かいつまんでザックリと話すが・・・。」

「開拓で訪れた禁域内の城でのことだ。」

「城の次男は、神への捧げものとして、時期に殺される運命だった。」

「長男は、その歌声を評価され若くに去勢されて、カストラートとして生きていた。」

「重宝された長男が役を逃れ次男が生贄になっているわけだな。」

「でも、その次男は、幸せそうだった。」

「その死を待ち、面倒を見ている侍女もまた、幸せそうだった。」

「そして、開拓騎士による解放を望まず、訴えかけてきた。」

「要約すると、お前たちのいう【自由】に幸福はない とね。」

「彼らにとって幸福というのは、冷や水が喉を通るのを感じられる様に【確かなもの】なんだろう。」

「縛りから逃れ、開いた自由で生を終えることが幸福であるというのは、一つの価値観に過ぎないはずだ、と。」

「実際、打ち震えるような幸福感を感じたことなど、私はない、聖都で生きる多くの人間がそうであろう。」

「私は、開拓騎士として、揺れた。」

「自分の驕りを感じた。」


「驕り・・・そうだろうか。」

「運命や縁に縛られている状況が、人を不幸に落としやすい環境なのは確かです。」

「それこそ、件のフォルを落としかねない。」

「・・・・」

「いや、そうか、考えないといけないのかもな。」

「フォリアーをどうにかしたいなんていう、俺のこの気持ちも驕りなんだろうか。」

「はは、つくづく気持ち悪いよ、自分が。」


「おい待て、その辺にしとけ。」

「お前がまたフォルを落とすことになったらどうする、更に愚かなお前が誕生してしまうだろうが。」

「それに、記憶を失う様を見せられる側の気にもなれ、だからこそ、お前はなんとかしたいと思ったんだろう。」


「・・・そうですね。」


「初めにすることは決めているのか?」


「まずは【機械神】に会いに行きます、フォルの仕組みについて、隠していることがあるんじゃないかと思って。」


「それはまたひどく望み薄だが、とりあえず同行させてもらうとするか。」


「予約はもう取ってあるので、この時間で。」


機械神、聖都の人々が崇める存在。

太古に、人々の願いと、未だ解析不能な【未知質】と呼ばれるものによって作られた人工の神で、あらゆる知識を持って人を導くとされている存在。

人は一つの機械神を作ったが、自発的に分裂を行い、無数の機械神が存在することになった。


ヒルが「予約した」と言ったのは、機械神の長である【機械神イマ・ジール】との謁見だ。


「失礼します。」


二人が巨大な空間へ足を踏み入れると、目の前には巨大な機械が鎮座している。


【ヒル、か】


「えっ・・・。」

機械神は名指しでヒルの名を発した。


【ヒル・サンク、よく参ったな】


同席しているイリアは驚愕していた、機械神が個人を認識することは通常無いことであるからだ。


「イマ・ジール様、私のことはどうでもいいのです、フォルとフォリアーの存在、仕組みの存在意義とはなんなのでしょうか。」


【知れたこと、人が不幸に堕ち、壊れないために悲劇の記憶を乖離させることだ】

【人は、不幸を嫌うだろう】


「それは、おっしゃる通りです。」


【これだけでは納得いかないか、そうであろうな】

【不幸は、この世界を構成する要素の一つだ】

【世は、不幸を必要とする】


「不幸が・・・必要・・・?」


【お前たちは知覚できないであろうが、我々が作り出した存在、〈隷神〉というのがいる】

【隷神は、個々のフォルと繋がって不幸を一身に背負い、歯車のように世で回っている】

【世に不幸は必要だが、お前たちの負担を限りなく低減している】

【フォルを生むことで人は壊れることから逃れ、乖離したフォルと繋がる隷神がその不幸と共に時を歩む】

【我々の働きで、お前たちの不幸は最小化されている、お前たちが望むようにだ】

【であるからして、恐れることはない】


「教えていただき、ありがとうございます。」


【お前たちに幸福が訪れることを願っている、ではな】



機械神の元を離れ、都の居住地に向かって二人は歩く。



「ヒル、お前は一体何者なんだ。」

「どうして機械神が、あんなにお前を・・・。」


「知らないよ、気まぐれじゃないか。」


「隷神なんて今まで知らなかった単語まで出てきた。」


「隷神・・・言ってみれば、フォル・・・悲劇の記憶を浄化をしてくれる存在ってことなのかな。」


「そういうことだろうな。」


「まだ知らない事、ばかりだ。」


「だがイマ・ジールは私たちに、すべきことなどないと訴えていたように思う。」

「人の望みの通りに、機械神がすべてを解決していると。」


「だなぁ・・・でも、俺の意志は違う。」

「他人の落としたフォルを見て、感じたんだ。」

「そこにある苦難と愛憎、不幸たらしめる何かの存在を。」

「俺たちが、さっき教えられた隷神とやらを認知できないように、なにか人を不幸に導く波が存在しているように思う。」

「そう、悲劇を描く劇作家が、簡単に不幸を振りかざすように。」


「・・・。」


「どう、思う。」


「いや、どう思う・・・というか。」

「その想像通りなら、お前が危ない、と思ってね。」


「へ?」


「結婚したばかりで、機械神の意志に背を向けて、フォルを巡る旅に出て・・・。」

「いかにも不幸に落とされそうだろ。」


「いやいや、俺に不幸って、旅に出てる間にアルファが誰かに取られるとか?」


「何度も言わせるな、そういうことじゃないからこそ、今のお前の意志があるんだろ。」

「とにかく、気をつけろ。」


「そう、だった。」


「次は、何処へ行く?」


「そうだな、旅というには小さい門出になるけど、ちょっと古巣の役所でフォリアーの情報を貰って会いに行こう。」


この頃イリアは、ヒルという人間の真実について深い何かがあることを直感していた。

ヒルがフォリアーになった理由やきっかけが、本人が言うような自身の醜悪さに端を発するものではないこと、機械神に特別な個体として認識される何らかの理由があること。

ヒルから目を離すことは、とても出来なくなっていた。



昼間の酒屋。

二人は手始めにと、役所で得た情報から、一人のフォリアーに会いに来た。

酔いつぶれた男性が一人。

話によれば、今は生活支援金を充てに、遊び呆けているようだ。


「あなたが、イタクさんですか?」


「そうだけど?」


「その、良ければなんですが、お話をお聞かせ願えませんか。」


「俺がフォリアーだから?」


「そうです。」


「悪いけど、自分のことをまったく知る気はないし、きっかけになるようなものも見つけてないんでね。」

「調べたければ勝手に調べればいいんじゃないかな、職歴くらいは出てくるだろ?」


「あぁ、そうですか、お邪魔して申し訳ありませんでした、では。」



酒場を後にし、ため息交じりに背を伸ばす。


「あっさりと、断られたな。」


「これは予想が付くことだからさ、こっからが本番だよ。」



二人は、イタクというフォリアーの情報を改めて収集した。

それから、彼の最後の職場であろうマーケットを訪ねた。



「あぁ、イタク?出来のいい人だったよ。」


「出来のいいひと?」


「とにかく柔らかくて、クレーム対応なんかも積極的に任されてたね。」

「まだここでは若い方だったんだけど。」


「そうなんですか。」


「あぁ、もっと親しかった奴がいるから、呼んでくるよ。」


「お願いします。」


しばらくすると、もう一人の男性がやって、

間髪入れずに口を開いてくれた。


「イタクはね、筋の通った一生を思い描いてた。」

「主に人付き合いにおいての、向上心っていうのかなぁ。」

「人と会話をするたびに、一言一言が正しかったのかを自問自答してたし・・・。」

「後悔しない人生のために、意志の堅くて強い、そして優しい奴だった。」

「でも・・・折れたんだろ、イタクは。」


「その・・・、はい、そのようです。」


「自分に厳しくて優しくて、強くて、本当に尊敬できる人だった。」

「でもだから、折れてしまった後で、自分を認められなくなってしまったんだろうと想像ができる。」

「具体的に何があったかは分からないけど、頭をでっかい斧で振りぬかれるような、避けられない衝撃を受けたんだろうなぁ・・・。」


「・・・・・そして、フォリアーに。」


「あぁ、フォリアーになってたのか。」

「タイミング的に考えても、きっかけになった出来事で直接フォリアーになった訳じゃなさそうだ。」

「後に自分の中で折り合いがつかなくなって、フォルを生むに至ったんだろうね。」


「彼は、酒に酔っていました。」


「当時は酒を飲まない奴だったね・・・いい子だった自分と、お別れをしないと生きていけなくったんじゃないかな。」


「なるほど、確かにそうかもしれません。」

「他に、イタクさんのことを知っている方をご存じないですか、もちろん、フォリアーになる前の。」


「あぁ・・・なんか、ちょっとしたボランティア団体みたいなのに所属してた気がするよ   

 今はもう無くなってると思うけど。」


「そちらの、どなたかの連絡先が分かったりしませんか。」


「今すぐはちょっと・・・、後日であれば。」


「お願いします。」



その後連絡がついたのは、レイという名の女性だった。


「レイさんですか。」


「はい、でもイタクさんのことをあまり話すつもりはありません。」


「えっと・・・。」


「彼に起きたことも、話すことはありません。」

「まぁ、最後はおかしくなってましたね。」

「彼はいつも機嫌よく振舞ってました、それも彼の努力の一貫でしょう。」

「でも、彼、最後は言ってました、それまでになかった、人を恨めしいと思う気持ちが自分の中に在ると気づいたと。」

「変わってしまった自分を受け入れることが出来なかったと。」


「そうですか。」


レイさんは、静かに涙を流したが、それを感じさせない声で言葉を紡いだ。


「彼、良い人だったんです、本当に、私は覚えています。」

「ただ、覚えている、それだけ・・・あなたたちも、彼がひたすらに良い人だったこと、それだけは知って欲しい。」


「えぇ、もちろんです。」


「それなら、少しは浮かばれるかも、昔の彼が。」

「ごめんなさい、これ以上は、言うことはないんです。」


「いえ、わざわざありがとうございました。」


彼女は背を向けて、街の中へ消えていった。



「ヒル、結局イタクに降りかかった事件については分からなかったな。」


「でも、いろんなパターンがあるってことが分かった。」


「確かに、人に歴史あり。」

「重要な事とそうでないこと、立ち入らなくてもいい領域もあること、これから多くのフォリアーと向き合うにあたって、いい経験になったな。」


「墓参りじゃないけど、彼のフォルは役所が安置している場所にあるから、ちょっと見に行って終わりにしよう。」

「彼はすぐに自分のそばからフォルを遠ざけたかったようです。」


「墓参り、ね。」

「あながち間違っていないかもしれないな、彼は昔の自分は死んだと割り切りたがっているように思う。」


二人は、役所が安置するフォルが眠る場所へ。

その中から、イタクのフォルを見つける。


「これ・・・か。」


「この刀ですね、綺麗です。」


「あぁ、決して折れない力強さを感じるよ。」


目を瞑り、祈る。


「昔のイタクさん、お疲れ様です。」

「あなたはきっと、一生分を優に超える努力を若くからしていたんですね。」

「俺なんかが何回人生をやり直しても届かないくらい、いっぱい優しさを人に振りまいてくれたんでしょう。」

「ただただ、尊敬を抱きます。」


すると、そのフォルは、一瞬、僅かに光を放って、すぐに眠った。


ヒルとレイは顔を見合わせた。


「ありがとう、だったと思う。」


「あぁ、私もそう感じた。」

「ヒル、この旅はきっと必要な旅だ、誘ってくれてありがとう。」


「それはよかった、これからも、よろしく頼むよ。」







_____






「ヒル、フォルに関して、一つ思い出したことがあってな。」


「お、何ですか?」


「ちょっと待ってくれ、これを・・・。」


イリアは機械端末を取り出し地図を表示した。


「これだ、禁域B22、ここに回収できなかった武器が二つあった。」


「回収できなかった?」


「あぁ、謎の力に阻まれて手に取れなかったんだ、理由は分からん。」


「フォルかもしれないね。」


「まったく確証はないんだが・・・。」


「何かが引っかかった、だから今 思い出したんでしょ?行ってみよう。」


「あぁ、頼む。」



二人は対象地区に向かって、歩みを進めた。


後にした聖都は機械に彩られ、文明が栄えている。

しかし、機械の駆動に必要なエネルギーは人類の知るところではない。

機械神が散布する、まとめられた一つのエネルギー、その加護の範囲で駆動を可能としているにすぎない。

そのため、移動用の機械というものは、存在こそしているものの日常的に使うことはできないのだ。



「禁域B22って、聖都からも近い方だけどここだけ禁域として隔離されてますけど。」


「あぁ、ちょっと訳アリな場所でな。」


「訳アリ?」


「着けば分かるさ。」



_____



「なんだこれ、結界?」


村というには広そうな土地が、端から端まで見事に立ち入れない結界に守られていた。


「あぁ、廃村の様だが中に入れそうになかった。」

「確か結界の外のどこかに・・・。」


二人は村の外周を結界に沿って捜索する。


「あった、これだ。」


「短剣・・・二つで対になってる。」


「どうだ?」


ヒルが手にしようとすると、二つの短剣は同じ水色に光を放った。


「間違いない、フォルだね。」


ヒルは優しく二つの短剣を腕に抱いた。


「回収・・・できたな。」

「お前の力、なのか?」


「分からない。」


「一度、近くの町に行ってみるか。」


「そうしよう、宿で向き合ってみようか。」



結界の張られた廃村からほど近くにある町。

聖都以外の町としては、かなり栄えている方だ。

外れには、機械神も存在する。



「さてと?」


二つの短剣を机に置くと、片方が強い光を放つ。


------あ~、ほんと、裏切られてばっかり------


「しゃべった!?」


短剣は女の声で軽快に話し始めた


------好きになった女に、こんなにってくらい裏切られた-----

-----でも、エヴァはそうじゃないって思いたかったーー

私が変な人間なのは認める、言葉がない世界を欲して、ただただ沼りたい。

エヴァは私の感覚を唯一分かってくれそうだった。

エヴァは天気が悪いと上機嫌な女だった、嵐が来るといつも家に招待してくれる。

それで、風と雷の音に耳を傾けて、外を眺めるエヴァはとっても美しかった。

それと、エヴァのアクセの金属音ね、本人は全部カッコよさだと思ってるけど、どうみてもかわいさが滲み出てるのがあまりにも愛おしかった。

凄く・・・私と合ってると、思ったんだけどな。

最後は、あなたも裏切るのね。



そこで、短剣は光を失った。


「ずいぶん、おしゃべりだったな・・・。」


「そうだね、びっくり。」


「二つのフォルがセットのように見えるから、今しゃべっていた方と、もう一つはエヴァという女のフォルだろうか。」


「可能性は高いね、でもそうすると、そのエヴァって女の人の方もフォリアーになっているってのが・・・。」


「裏切る・・・というのが、どういう意味の裏切りだったかは分からないが、なにか事情があった可能性が高そうだ。」

「そして何より・・・。」


「あの廃村の結界だね、結局開拓騎士の調査では何も分からなかったんでしょ。」


「そう、何も手がかりがないんだ、一番近いこの街にもこれといった情報はなかったと記録されてる。」


「さっきの勢いで全部話してくれれば早いんだけど・・・。」


「そうでないと、この問題を解くのには長い時間が必要だな。」

「一気に紐解くのは無理な案件かもしれない、ほど近い所で別のフォルの捜査と並行した方が良いかもしれない。」


「ま、こういうパターンもあるか。」


「・・・・・。」


「イリスさん?」


「開拓騎士・・・か。」


「うん?」


「開拓騎士の歴史は長い、未開拓の禁域が未だ多いとはいえ、あの廃村・・・。」

「嫌な予感がするんだ、私が開拓騎士を辞めた理由にもあるように、開拓騎士には特有のエゴがある、まして過去の話となれば、野蛮さすら感じる組織だったかもしれない。」

「私は別に、今の彼女のような同性愛にどうこうと感情はないが、なんらか水を差すような事件を開拓騎士が起こしたんじゃないかって危惧してるんだ。」

「結界は村一つ、全てを覆っている、規模からして強大な魔物が問題を起こしたか、でなければ何らかの大きな組織が関わった可能性があるだろう。」


「なるほど、確かに。」


開拓騎士という、世界を広げる戦士達。

その正義の中身には、疑うべきことがたくさんあると、再度二人は感じた。


イリスはふと思い出した。


「・・・っと、そうだ、この街に名うての術者がいるという話を聞いたんだ。」


「名うての術者ぁ?」


「あぁ、ただの元一兵卒くんと、開拓騎士をやめた女の二人じゃ旅も心もとないだろう。」

「用心棒として仲間に誘ってみるのも一興じゃないかと思う。」


「う~ん。」


「禁域の近くをうろついてきたが、正直ハラハラしたぞ、これからの旅は私の力だけでは切り開けない。」


「まぁ、イリアさんがそういうなら・・・。」



その術師がよく訪れるという仕事の斡旋施設を訪れて聞き込みをすると、やはり有名な存在のせいか、担当者がすぐ本人と会えるように手配をしてくれた。








「ばばーーん!」

「私の力を求めてきたというのは、あなたたち?」


お目当ての術師、大迫力で現れたのは齢にして15,6の女の子だ。


「えっと、はい・・・その・・・ヒルといいます、こちらはイリア。」


「イリアと言う、突然のことで申し訳ない。」


「私はネリッサ・フローズっていうの、ネッちゃんって呼んでね。」


「は・・・・はい。」


「ネッちゃんとやら、その得物は・・・。」


「これは私の相棒、【機杖ネリプロ】ちゃん!私の落としたフォルの杖を改造したものだよ。」


「ふぉっ・・フォル!?それに私のってことは、あなたはフォリアー・・・。」


「そうだけど?なんか問題ある?大事なのは今!そして未来!こんな魔力変換率の良い杖が目の前にあったら、それを使って人助け!当然だよね。」


「あ・・・はは、ここまでたくましいフォリアーさんは初めて見ましたよ。」


「で、あなたたちはなんのために私が必要なのかなぁ?」


ヒルとイリアは、目を輝かせるネリッサを相手に、丁寧にいきさつを説明する。


「フォルと不幸、機械神と隷神・・・ねぇ・・・。」


「ど、どうでしょうか。」


「面白そうじゃん!知らないことを知れそうだし。」


「よかった。」


「ただああああし!」


「は、はい。」


「条件、わたし、今は昔の自分の事知るつもりがない、だから私の調査はしないこと。」

「それだけ、どう?」


「もちろん、意志は尊重します。」


「ならいいよ、あと・・・さっき話を聞いてて思ったことがあるんだけどさ。」


「はい。」


「私たちでフォリアーとかフォルを少しでも幸福にできたとするじゃん。」

「そうするとさ、不幸って減るのかな、減ったとしたらどうなるんだろうね。」

「機械神が言うには、世界に不幸が必要なわけでしょ?不足したらどうなる?」


「それは、機械神からは聞けてません。」


「不幸がまた増えると思う?、それって自然と増えるものなのかな。」

「誰かが、【不幸を創る】のかな。」


「その可能性がどこかにあるとは感じてます、そこも、解き明かしたい謎の一つです。」


「ヒル君もフォリアーなんだよね?」


「一応そうです、本当に言葉にするのも恥ずかしいくらい、くだらないタイプのフォリアーですけど。」


「うううううううううううん。」

「そもそも不幸が必要ってなんなん?なんでそんな仕組みになってるわけよ。」


「さぁ・・・それは全く。」

「機械神の目からすると、フォルを産み落とし、隷神に不幸を着せることで人間を守ってるって話なんだけど。」


「な~んかおかしくな~い?」


「ヒルは前に、悲劇を描く劇作家のように、意図した不幸の波を創る存在について触れていたな。」


「そんなことも言った気がする・・・あ・・・・。」


「どうした。」


「機械神は、人の望みと未知質で作られている。」

「人の望み・・・。」

「不幸に見舞われないこと、いや、不幸を感じないことが人の望む事だと疑わずに捉えていたけど。」

「もしかして、悲劇は望まれてたりするのか?」


「流石にそれはないだろう、そういう輩が紛れていることはあるだろうが、人類という括りの望みがそこまでねじ曲がっているとは考えにくい。」


「でもでも~、そこにエビデンスあるんですか~、機械神が多くの人の望みを拾って客観的な情報から人のために動いてるという確証あるんですかぁ。」


「・・・。」


ネリッサは、初めての真剣な面持ちで二人を見やった。


「悪い魔女が一人いれば、世界は簡単に不幸の劇場に変わるんだよ。」

「神といっても、機械神は機械だよ、マシーンだ、とっても便利な端末の一種なんだよ。」


「・・・言い切るんだね。」


「私は強い魔女だからね、分かることは、分かるんだよ。」



時を同じく、聖都某所。


「回収、回収っと。」


赤い髪の男は、刀を取り上げる。

先日祈りをささげた、イタクの落としたフォルだ。

安置のためにあったはずの強固な保護装置は、開け放たれている。


「こういうのは、趣味じゃない、とさ。」


男は周囲の土を蹴って土煙を上げた。


「だから武器は武器として、これは修羅の者に持たせてこそ映えるってもんだね。」


男の手からイタクのフォルは霧散しどこかへと消えていった。


「彼らにとっては快楽こそが幸福なんだ。」

「そして幸福のために奉仕するのって素晴らしいことだから・・・仕方ないね。」


-----ぶつぶつとうるさい-----


「あぁ、見てたの?」

「あのカップルの短剣は回収しなくていいのかい?今までなら回収しない意図が勝っていたけど」

「あのヒルって男が絡むと、せっかくのものが台無しになる可能性があるんじゃないかな。」

「彼女たちは結構、受けが良かったんじゃない?いいおかずになっていたはずだけど。」


~~~~~判断が下りれば、その通りにしてもらうだけだ-----


「悠長だね、人一人舐めたが故に、萎え萎えな結果になっても知らないよ。」


-----あの女どもの事なら、既に幸福を手にしているのだから、今更ではないか-----


「よく言うよ、散々遊んだ挙句に、まだキープしてるだけじゃないか。」

「本当に、趣味の悪いこと。」





第一幕  悲劇の記憶 終















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