6頁 パ ン
苦しかった頃の話。
あの頃は物みな上がって、切り詰めながらの生活だった。
僕は、何か合理的な食生活が出来ないものかと悩んでいた。
この様な時に頼りに成るのは気の置けない友人だ。
彼は生活環境や経済的立場も僕と同じレベルだ。
その彼を呼んで一晩、安心の食生活に関して議論した。
そして僕達はこの結論に達した。
近くのパン工場で夜八時から翌朝八時までパン製造のアルバイトをする事だ。
これで食事の心配は完全に消え去った。
廃棄のパンがどっさりと目の前のコンテナに落ちて来る。
深夜のパン製造作業は僕達のようなアルバイトばかりだ。
ベルトコンベアーが作動し始めるとパン生地(キジ)がコンベアーの上に乗せられ目の前に流れて行くる。
それは川の流れの様に、際限なく流れて来る。
僕達アルバイトも必死にパン生地を丸め、息着く暇もなく並べて行く。
休憩は有るが、コンベアーは回り続ける。
深夜は眠気と、パン生地丸めと、コンベアーのスピードとの戦いだ。
クルクルとパン生地を丸め、コンベアーの上に置き、またクルクルと丸め、ポン、クル、ポン、クルポン・・・。
朝日が昇って契約の時間が来るまでクルポン、クルポン・・・。
不出来なパン(廃棄物)は好きなだけ持ち帰って良い。
家に戻って、持ち帰ったパンを牛乳で流し込みながらの朝食を摂る。
しかし、眠ろうとしても眠れない。
頭の中で、パン生地がコンベアーに乗って僕を追いかけて来る。
手はクルクル、ポン、クルクル、ポン、クルクル、ポンと機械の様に動いて止まらない。
まるで、チャプリンのモダンタイムズの『あの人』の様だ。
翌朝、友達に何時に行こうかと電話をした。
友達は何も喋らない。
「どうした?」
と聞くと、
「パンが怖い」
と言う。
スーパーに行って『アンパン』を見ると、あの時のトラウマが蘇って来ると言う。
クルクルポン、クルクルポン、クルクルポン、クルクルポン・・・。
パン生地が僕を追いかけて来ると言う。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます