四作目 一歩前へ(ショートショート)

あー今日も疲れた。


憧れて入った会社は憧れには程遠く、

先輩も上司も敵に見える。

光のないトンネルを歩いているようだ。


始発で会社へ行き、終電で帰る。

休日という日を忘れてしまった。


年に数回だけ会う友達との飲み会だけが生きがいだった。


電車では座りたいと思って、

ホームの最前列を死守しながら、

つい先日の飲み会——いや、生きがいを思い出す。


先日の事すら随分前に感じる。


「無理して頑張る必要はないよ」


寄り添ってくれた友達の言葉に涙が出た。

恥ずかしさと嬉しさが混ざった涙。


その言葉を思い出すと、今も少し涙がこぼれる。


気持ちというのは複雑で、

幸せそうな友達の顔が、

なんだか嬉しくも切なくもあった。


そうか、俺はもう限界なんだ。


明日から同じ生活が続くことにも

ウンザリしていたのかもしれない。


無理して頑張る必要はない。

その言葉に“すくわれた”気がした。


心が軽くなり、僕は一歩踏み出した。


まもなく急行列車が通過した。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る