三作目 escape(ラブ&スリル)
小さい頃からの幼馴染が彼氏になった。
小さい頃は身体も小さく可愛かった。
成長期をむかえ、いつのまにか私を遥かに超え、
彼は男の子から男性に変わっていた。
私の中で幼馴染の枠を超えたのはいつだろう。
気づけば好きになっている気がする。
昔から心優しい彼だったけど、
付き合ってから輪をかけて優しくなった。
いつも微笑んでいる彼。
いつ私が彼を見ても、
彼はいつもこちらを見て微笑んでいた。
なんで?と聞いても
「可愛いから」「好きだから」
としか言わない彼。
こんなに愛されて、私も幸せだと思う。
友達とランチに行ったりしても、
帰りには迎えにきてくれる。
それを見るたびに友達は
「羨ましい」「素敵」と言ってくれるので、
照れくさいけどすごく嬉しい。
車道側を歩くのは当たり前。
ご飯屋さんでも必ず取り分けてくれる。
何かを半分こする時や奇数の時は、必ず私の方が多い。
太っちゃうよなんて言っても、
「太っても大好きだ」と言ってくれる。
そう、私は幸せだ。
私はどうしても会社の飲み会に
参加しなければならなかった。
久しぶりに彼以外とお酒を飲む。
それが新鮮に感じてとても楽しかった。
お酒が入ってくると席も乱れ始めて、
同期の男性と隣になった。
悩みは一緒で仕事の事と恋愛の事だ。
同期の彼女は束縛が激しく、連絡がやまないそうだ。
「どこにいるの?」「何をしてるの?」と。
それはなかなか大変だ。
ウチはどうだろう?
私の彼は連絡をあまりしてこない。
いつからだろう。
そもそもチャットアプリも開くことが減った。
気を遣ってなのか、
私に連絡をくれる人も減った気がする。
大変な彼女を持つ同期に比べたら、
私は幸せなのだろう。
一次会があっという間に終わった。
二次会に行く人を店前で声かけている先輩。
私も行きたいと思った。
同期の子も「行こうよ」と私の肩を叩いた。
彼氏に連絡しとかなければ。
そう言った私に、
「その必要はないよ。」
と慣れた声がする。
携帯から目を離すと、彼がいた。
ゾッとした。
「帰ろう。」と言う彼氏。
ここまで来ていたら帰るほかない。
たまたま遅くまで仕事をしていたとのこと。
仕事終わりに来てくれるなんて、優しい。
そこから程なくして同期の子は別の支社へ異動となった。
私は毎日幸せだよね?
私は誰かと話がしたくて、
チャットアプリを開く。
友達に連絡を取るも既読はつかない。
何故そう思ったのか?
恐る恐るプライバシー設定を見る。
仲の良い友達も家族もブロックしてあった。
いつから?
私はなんで気づかなかったのだろう。
携帯を持つ指が震える。
彼と住むこの家を見渡す。
私の好きなもので埋め尽くされてた部屋。
まるで子供部屋のよう。
彼が仕事から帰ってきた。
いつものように微笑んでいる。
怖い。
目の奥が笑ってないように見える。
私は彼を直視できなくなった。
いつからなのか分からない。
でも私は彼に全てを委ねていたのだ。
彼という鳥籠にとらわれていたのだ。
私が人間であるために逃げよう。
出来るだけ早く、彼に見つからないように。
私は職場に退職願を出した。
上司も驚いていたが、実家の事でと適当に理由をつけた。
彼には内緒にして、出来るだけ早く。
新しい家は縁もゆかりもないところを探した。
携帯も今持っているモノと別に契約し隠しておく。
私の好きなものばかりの部屋だけど、
私の持ち物はほとんどなかった。
その中でも最小限のものだけを持っていこう。
会社からの荷物は実家に送ってもらうようにした。
家族も久しぶりの私からの連絡に喜んでくれていた。
「事情はまた話すよ」と伝え、
連絡するのを控えて欲しいと言った。
彼氏が早く会社に行く日。
私は用意した最小限の荷物だけを持って家の外に出た。
一歩出ただけなのに晴れやかな気持ちになり、
心が軽くなった。
私の知らない私の生きる街に辿り着く。
ここから私の人生がまた始まる。
私は幸せだ。
少しずつこの街に慣れてきた。
ある日、荷物が送られてきた。
送り主が雨か何かで滲んで見えなかった。
荷物を開けるとドライフラワーだった。
薔薇のドライフラワー。
それも赤色ではなく、
心に巣食う闇のような黒いバラ。
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