第4話 👄【語り部 悠真】呪いを行った者の末路】

 みんなは、呪いって信じるか?

 夜中に藁人形に釘を刺す、丑の刻参りなんかが有名だけど、人を呪う方法ってのは実はたくさんある。

 わざわざ夜中に出かけなくても、もっとお手軽に呪うことだってできるんだ。


 人を呪うのに、手軽さを求めるなって思うか?

 少なくとも俺は思ってる。


 もしも簡単に人を呪うことができて、不幸にすることができたらどうなるか。

 きっとそのお手軽な呪いに手を出すやつは、たくさん出てくるだろうな。

 けど、もしもそんな方法を見つけたとしても、軽い気持ちで手を出さない方がいい。

 うまい話には裏があるのが常、どんなしっぺ返しを食らうかわからないからな。


 今回話すのは、誰かを呪うことにとりつかれたやつの話だ。


 そいつの名前は、オサムとしておく。

 オサムは中学通う男子生徒で、陰キャっていうのかな。

 誰ともつるまずに、教室で1人でいるようなやつだったんだ。

 けど、そんなオサムにも友達ができた。

 信二っていう名前の、同級生の男子でな。信二は明るい性格で友達も多く、オサムとは正反対のやつだったんだけど、同じクラスになったのをきっかけに、オサムによく声をかけるようになったんだ。


「ようオサム、昨日のサッカーの試合見たか?」

「信二くん……ううん、昨日は僕、ゲームやってたから」

「へー。あ、そうだ。コーヒー買いたいんだけど、サイフ忘れたんだ。悪いけど、貸してくれねーか」

「うん、いいよ」


 こんな感じでな。

 人見知りなオサムは、話しかけてくる信二に最初は戸惑っていたけど、なんだかんだで嬉しかったんだろうな。

 そのうち、声をかけられるのが楽しくなってきたんだ。


 けどそのうち、不満を持つようになった。

 オサムと違って友達の多い信二は、いつもオサムとつるんでいるわけじゃない。


 どちらかと言えば他の男子と一緒にいることの方が多くて、オサムはそれが寂しかったんだ。

 信二にとってオサムは数いる友達の一人に過ぎないけど、オサムにとっては唯一無二だからな。


 それでオサムは、こんな風に考えた。

 もっと信二と一緒にいたいのに、みんながそれを邪魔してるって。

 実際はそういうわけじゃなかっただろうけど、オサムは被害妄想にとりつかれた。

 かといってさすがに他の奴らに、「信二くんに近づくなー」っては言わなかったぜ。

 そんなことをしても変なやつ扱いされるのは、目に見えてたからな。

 被害妄想にとりつかれていても、さすがにそれくらいの判断はできたわけだ。


 だけど信二の周りにいるやつらが、邪魔なのは確か。

 それで、どうにかして排除できないかって考えた信二が手を出したのが、呪いだったんだ。


 人を呪う方法なんて、簡単に調べられる。

 試しに、オカルトサイトを覗いてみろよ。消しゴムに好きなやつの名前を書いておけば両想いになれるおまじないみたいなノリで、嫌なやつに病気やケガをさせる呪いの方法が、いくらでも載ってるからな。

 といっても、ほとんどは眉唾物。

 当たり前だよな。そんな簡単に呪いなんてできたら、世の中死人や怪我人だらけだ。


 オサムだって最初は、本気で信じてたわけじゃなかったかもしれない。

 だけど興味本位か好奇心か、ネットで見つけたある呪いの方法を、試したんだ。


 その呪いの方法ってのは、案外簡単でな。

 用意するのは、1枚の紙とガチャガチャのカプセル。それに、ボロボロに錆びた10円玉だ。


 知ってるか? 実は10円玉に使われている銅は、富の象徴とされているんだってさ。

 だから10円玉を使ってやる、幸運を招くおまじないなんてものもある。


 けどオサムがやろうとしているのは、おまじないじゃなくて呪い。

 銅は富の象徴だけど、逆に酸化してボロボロになると、幸運を遠ざけるとも言われているんだってよ。

 だから呪いに使う10円玉は、ボロボロのやつなんだ。


 で、呪いの方法なんだが、ガチャのカプセル中に10円玉と、呪いたい相手の名前を書いた紙を埋めるんだ。

 そして相手がこうなってほしいっていう怨み言を言いながら、それを地面に埋める。

 それだけだ。


 そんな簡単なやり方で本当に大丈夫かって、最初はオサムも半信半疑だったよ。


「こんなんで本当に呪えるのかなあ? まあ、難しくないしいいか」


 なんて軽い気持ちで、呪いに手を出した。

 ネットで見た通り、信二と仲のいいやつの名前を紙に書いて、10円玉といっしょにカプセルに入れると、オサムは家の近くの川にそれを埋めた。


 するとどうだろう。

 それからしばらくして、信二と仲の良かったやつの一人が、急に転校することになったんだ。


「じゃあなみんな。新しい学校に行っても頑張るから、みんなも元気でな」


 お別れ会で挨拶をするそいつを見て、オサムはなんとも言えない気持ちだった。

 オサムはカプセルを埋めるとき、そいつが転校してしまえばいいって言いながら埋めたんだ。


 呪いなんだからもっとシンプルに、死んでしまえって言うこともできたんだけど、その辺は良心の呵責があったのかもな。

 いくら自分勝手な理由で呪ってもさすがに死んでほしいとまでは思わなかったみたいだ。


「本当に呪いが成功したの? これできっと信二くんは、もっと僕といっしょにいてくれる!」


 オサムは喜んだ。

 けど、実際はそう上手くはいかなかったんだよな。

 信二は友達が多いからな。一人減ったところで、状況はあまり変わらなかったんだよ。


 だからオサムは、また呪いをやった。

 といっても今度は、転校させるんじゃなくて、もろもろの理由で信二とつるむのを難しくさせるようなものだったけど。

 いくらなんでも、立て続けに転校させるのは無理があるんじゃないかって、冷静に考えちまったんだろうな。

 呪いなんて非科学的なものを使ってる割には、変なところで常識でものを考えたんだ。


 その結果、塾が忙しいから遊べないだの、彼女ができたからそっちを優先するだので、信二の周りからは少しずつ人が減っていった。

 彼女を作ってやったのは呪いと言えるのか疑問だけど、とにかくオサムの計画は上手くいってたよ。

 けどそんな時、ある出来事が起きた。


 ある日オサムは、信二がツレと一緒にいるのを、遠巻きに見ていたんだ。

 さすが信二、さんざん人払いをしたってのに、まだまだ友達はいてな。

 オサムは、また呪いでそいつをどっかにやろうと考えてたんだけど、その時2人がこんな会話をしたんだ。


「なんか最近、みんな付き合い悪いよなー。放課後遊ぶ相手もいやしねー」

「だったら、オサムでも誘ってみたらどうだ? アイツ、お前になついてるじゃないか」


 自分の名前が出てきて、オサムは喜んだ。

 言ったのは排除しようと考えていたやつけど、いいとこあるじゃないかって、勝手なこと思ったよ。

 けど、その後信二が言ったんだ。


「バーカ、アイツは都合がいいから、相手してるだけだって。知ってるか? オサムのやつ金貸してくれって言ったら、すぐ貸してくれるんだぜ。俺のこと本気で友達とか思ってて、マジでウケるわ」


 ──っ!?


 オサムは耳を疑ったよ。

 ショックだったろうな。友達だと思っていたのに向こうはそうじゃないどころか、お金を引き出すキャッシュカードみたいに思ってたんだから。

 オサムも自分勝手だけど、信二も相当だよ。


 2人の話を聞いたオサムは呆然としてたけど、だんだんと怒りが込み上げてきたんだ。


「僕は友達だって思っていたのに……許せない!」


 オサムは家に帰ると、紙に信二の名前を書いて、ボロい10円玉と一緒にガチャガチャのカプセルに入れたよ。

 オサムが何をしようとしているか、もうわかるよな。

 いつもやってる方法で、今度は信二を呪うことにしたんだ。


 あんなに好きだったのに。いや、好きだったから余計にか。

 可愛さ余って憎さ百倍って言うけど、オサムにとってもはや信二は、怨むべき相手。

 しかも今までやってきたような、どっかにやるなんて生ぬるい呪いじゃない。

 あんなやつ死んでしまえって、本気で呪うことにしたんだ。


 オサムはいつもの川原に行くと、紙と10円玉の入ったカプセルを埋めながら、願ったよ。


「信二くんなんて、死んでしまえ……死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ死んでしまえ」


 今までにない怨みをこめた、とびきりの呪いだ。

 もしも本当に願った通りになったら、オサムはいよいよ一線を越えちまうわけだけど、構わなかった。

 もしかしたら明日学校に行ったら、先生から信二の訃報が聞けるかもしれない。

 オサムはゾッとするくらい気味の悪い笑みを浮かべて、家に帰っていった。


 そして次の日だ。

 オサムは意気揚々と、学校に行ったよ。

 信二に裏切られたってのに、なぜか今は気分がいい。

 人間って残酷だよな。友達と仲良くするよりも、憎い相手に復讐するときの方が、楽しくなるやつもいるんだから。

 いつ死んでくれるだろう? どんな風に死ぬだろうって、オサムはグシャグシャに潰れる信二を想像しながら、通学路を歩いていったんだ。


 だけど……もうすぐ学校につくという時、それは起きた。

 角を曲がったその瞬間、強い衝撃と共にオサムの体は宙を舞ったんだ。


「えっ……」


 何がどうなったのか、オサムはわからなかった。

 浮いた体はそのまま地面に叩きつけられて、周囲にいた生徒の悲鳴が上がった。

 オサムのすぐ横には、前がへこんだ車が止まっていて、なんとか目だけ動かせたオサムはそれを見て、自分がはねられたって理解したよ。


「ど、どうして、僕が……?」


 呪いをかけた相手は、信二なのに。

 信二に死んでほしいって思っていたのに、どうして自分が車にはねられたのか、まるでわからなかった。

 全身を激痛に襲われながら、オサムは何かにすがるように言った。


「違う、僕じゃないよ……死ぬのは、信二くん……」


 だんだんと視界がぼやけて、意識が薄れていく。

 結局、何がどうなったのかわからないまま、オサムは息を引き取ったんだ……。



 ……てなわけで、オサム死んじまったんだけど。

 どうして信二じゃなく、オサムが死んだのか疑問だよな?

 実はこれには、隠された真相があったんだ。


 事故に遭う前の日、オサムは川原に呪いを込めたカプセルを埋めて、家に帰った。

 けど、その後が問題だったんだ。


 実はオサムがカプセルを埋めていたのを、見ていたやつがいたんだよ。

 オサムも普段はカプセルを埋めるのを誰かに見られないよう注意してたけど、その日は怒りでよく見ていなかったんだろうな。


 見ていたのは近所に住んでる小学生で、なにか埋めていたのを見て気になったんだ。

 それで、オサムが去った後、カプセルを掘り返したんだよ。

 といっても、その小学生は呪いの方法なんて知らない。

 出てきた紙と古い10円玉が入ったカプセルを見ても、何だこれって感じで、そのまま捨てて帰ったんだ。 


 掘り返した小学生にとっては、何でもない出来事。

 けどこれがオサムの、それと実は信二の運命も変えていたんだ。


 知ってるか? 呪いって途中で手順を間違えると、呪った本人に災いが返ってくるんだぜ。

 呪い返しって言ってな。相手を不幸にするつもりが、逆に自分が不幸になっちまう。

 だから誰かを呪うときは、絶対に失敗しないようにしなきゃいけねーんだけど、土に埋めてなきゃいけないカプセルは掘り返された。

 つまり呪いは失敗。信二に行くはずだった死の呪いが、オサム本人に返ってきたってわけだ。


 その結果が、交通事故。

 可哀想だけど、今までも軽いものとはいえ、自分勝手に呪いをばら蒔いていたんだ。

 因果応報というか、いつかはこうなる運命だったのかもな。


 やっぱ呪いなんて、やるもんじゃねーな。

 相手だけでなく、自分まで不幸にしかねない。


 この動画を見てるやつも、もしも憎い相手がいたとしても、呪うのやめておけ。

 でないと、身を滅ぼすかもしれねーからな。

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