第8話 ジャスミンと魔王の不調
怒涛の昼食と、夕食の支度を終え、夕食調理の真っ只中。火加減はいいにしても、単純に大鍋を振るうのが辛くなってきた。
「サウナー様?大丈夫ですか?」
手元あたりから声が聞こえる。
「その声は、ユーランか?」
「はい!サウナー様が心配で、火を通してお話をしにきました。」
「悪いが、まだ余裕はない!」
「大変ですのね。でも、今日のご飯もすごくおいしかったです。サウナー様の頑張りを感じられました。」
「それはどうも。ところでなんの用だ?」
忙しいから、できるだけ手短に頼みたいが、せっかく気にかけてくれる相手を、追っ払うのも申し訳ない。
「サウナー様が、何か役割を見つけるお手伝いがしたいと思いまして。」
お、これは思っても見なかったありがたい話だ。
「そうだな。今のところは特にないが、さっきからチラチラ食堂を覗いている。たくさんの魔物がきているのはわかるんだが、誰に話を聞けば、俺の役割とやらが見つかるのかさっぱりだ。」
組織の中のキーマンを把握しておく事は重要だ。
「そうですね。サウナー様。少し鍋をあげていただけますか?」
「こうか?」
鍋を持ち上げると、火は大きな火柱となり燃え始める。
「何やってんだい!!!」
「す、すみません・・・」
鍋を戻し作業に戻る。
「お前のせいで、怒られちまったじゃないか。」
「申し訳ありません。しかし、重要人物を見つけることができました。厨房から見えるあの角の席。あそこに座っている方は、魔王様の側近で、幻術使いであるジャスミン様です。」
昨日、魔王様の横にいたあの小さい人か。鍋を振りながら目をやると、小さい人影が座っているのが見える。後ろから見ると、どう見ても子供だ。
「あの人が重要人物なのか?」
「そうです。あの人が一番魔王様と過ごす時間が多いんです。その方から、魔王様が抱えている不安や悩みを聞き出し、それを解決できれば、それは立派なサウナーさまの功績であり、役割といえます。」
「なるほど。」
確かに、会社でも社長に気に入られれば、仕事をやりやすくなるだろう。
「ありがとう。行ってみるよ。」
「お役に立てて嬉しいです。では、残りのお仕事も頑張ってください。」
そう言ってから、火は喋らなくなった。さっさと仕事の切りをつけて、ジャスミンとやらのところに行かないと。
俺は、鍋をひたすら奮った。息が切れても休まずに奮った。
「マーサさん!切ってもらった材料全部調理しました!休憩いただいてもいいですか?」
「お疲れ様。いいよ。そろそろ山も越えた頃だから、あんたも夕飯にしな。」
マーサさんは親指をぐっと立てて、労ってくれた。
「サウナーの賄いは、カヤオに作ってもらいな。」
「悪いな。適当で構わないぞ。」
カヤオの方に目をやると、こっちももう少しで終わりそうだ。
「任せてくれ。サウナーに初めて俺の料理を振る舞える。気合い入れて作るから待っててくれよ。」
俺は、「ありがとう。」と伝えると、ジャスミンの横の席に歩いて行った。
「横いいか?」とジャスミンに声をかけ、顔を見ると驚いた。本当に五歳ほどの女の子にしか見えない。
「おお、お前。昨日のサウナーじゃないか。」
「ああ。昨日は世話になった。」
子供が随分と年寄りくさい喋り方をしている。脳みその処理が追いつかない。
「どうだ。炊事場の仕事は。」
「ああ、思ったよりこなせている。」
「そうか。」
会話が続かない。頭を一度整理するんだ。ジャスミンから聞き出したいのは、魔王軍の需要だ。どこから切り出したらいいんだ?
「その、魔王軍ってのは、この世界を支配したいのか?」
「何を当たり前のことを言っている。そうだ。この世界を魔王様の手中に収めることこそ、我々魔物の使命である。そのためには、いかなる犠牲が出ても仕方がない。」
「たとえば、人間側にこちらに有利な情報や、協力的な姿勢を持ってる奴がいたら?」
ジャスミンの顔が少し歪む。
「勘違いするなよ。お前は特例だ。本来人間と、和気あいあいと肩を並べるなど、反吐が出る。いいか、人間とは我々魔物に跪くべき種族なのだ。さっさと三日経って、お前なんて食われて仕舞えばいい。」
なるほど。俺に対してどの魔物も友好的ではあるが、中にはこうして良くない印象を抱いている魔物もいるのか。
「そういうなよ。人間と深く話したことないだろ?まあ、略奪するから側からしてみれば、ゴミ同然の存在と話す価値なんてないだろうけど。」
「ふん、その通りだ。人間と交わす価値観など持ち合わせていない。」
思ったより頑固だ。ここは角度を変えて聞いてみるか。
「俺だって、助けてもらった恩がある。三日で役割を見つけられなくても、魔王軍には何かしらの礼をしたいと思っている。」
「礼?だと?カヤオを助けた礼として、この城においてやっているのに、それをまた礼で返すのか?」
礼ならばもらっておけばいいのに。という気持ちがジャスミンの顔から伝わってくる。
「俺がいた世界では、何よりも相手のことを尊重し、失礼の内容に振る舞うおもてなしというものがある。何か、嬉しいことをしてもらったら、同等に返すのが礼義だ。」
「礼儀か。」
ジャスミンは「礼儀」という言葉に何か引っ掛かりがあるようだ。
「魔王様も、普段は厳しく我らを統率してくださるが、何よりも仲間の恩義を大切にしてくださるお方。子供が似顔絵を描いて渡せば、同じ目線まで腰をかがめ、頭を撫でてやる。厳しさの反面、誰よりも仲間思いの優しいお方なのだ。」
確かに、昨日カヤオが飛び込んできてから、随分と対応が柔らかくなった。
「頼む。何か、魔王様にしてやりたいんだ。魔物たちの中でも、魔王様個人でも、何か困っていることとか、心当たりはないか?」
「そうだな」とジャスミンは考え始める。頼む何か出てくれ。
「そういえば。」
「なんだ!?」
「いや、最近魔王様が歩いている時に、急に胸を押さえ、顔を歪めるのだ。」
「何かの病気か?」
もし、何かの病気なら俺はお手上げだ。仮に知識があったとしても、薬がない。ウィルス性のものだったら太刀打ちできない。
「わからぬ。そして、それは王座からお部屋にお戻りになられるときに、多い気がする。」
「普段はなんともないのか?」
「ああ、そのタイミングだけだ。」
普段は無症状で、王座から部屋に戻るタイミングにだけ、体調が悪いくなる?そんなものがあるのか?
「私からはこれくらいしか。」
申し訳なさそうに謝るジャスミン。
「いや、解決できるかわからないができることを探してみるよ。」
「サウナーが生きるか死ぬかはどちらでもいいが、魔王様が快適に暮らせるならいくらでも協力しよう。」
ついさっきまで、頑固だと思ったジャスミンが魔王様が絡んだ途端に協力的になる。魔王の人脈は利用していく方がいいだろう。
問題は、魔王の体調の悪さの原因だ。
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