第5話 追放と魔王城

「こいつか、ノースキルというやつは。」

 俺は、逃げられないように縄で縛られ身動きが取れない。そこにやってきたのは、小太りのおじさんと、その横にはコネットと、鎧姿の男が立っている。

「わしは、トウゴ。この村の長だ。ギルドからノースキルの人間がきたと、連絡をもらい伺った。お主、名をなんという?」

「サウナーだ。」

「サウナー。本当にスキルがないのか?」

「ああ、特別な力は何も持っていない。」

 鎧姿の男が話し出す。

「トウゴ様。ノースキルの人間などなんの役にも立ちませぬ。早く魔王軍に弾き渡してしまいましょう。」

「ちょっと待て。お前がムサシか?」

「なんだ小汚い旅人。いかにも、私がワースの用心棒のムサシだ。」

「ムサシ、なぜ俺を魔王軍に引き渡す。」

「決まっている。この村の平和のためだ。」

「そうじゃない。昼間怪我をしたゴブリンにあった。この村は魔王軍と対等に戦えるほどの戦力があると見える。戦力があるのに、なぜ生贄など必要なんだ。」

 ムサシはふんっと鼻を鳴らし。

「いいだろう。教えてやる。この村の戦力は特別高いわけではない。対等に魔王軍と戦えば、消耗線となりいつか押し切られてしまうだろう。そこで、魔王軍に生贄を渡すことで人々の生活を担保してもらっている。」

「じゃあ、なぜ今日のような戦闘が起こる。生贄がいれば戦闘そのものをしなければいいじゃないか。」

「いいか?頭が足りないようだから教えてやろう。ここ、ワースの街のみ魔物が全く襲わなくなったら、周囲の街からはどのように見える。ワースは魔王軍に魂を売った。そう思われるようにでもなってみろ。それこそ治安があれ、今度は人と人の争いが起きる。それを防ぐためのパフォーマンスなんだよ。ここで起きる戦闘は。」

 このムサシという男、意外と頭の切れるやつなのかもしれない。

「村長はそれでいいのか?」

「以前は魔王軍と戦うことで平和を求めていたが、ムサシのいうことも一理ある。」

「そんな。おい、コネット!」

「すまない。私もこのようなことになるなんて思ってもみなかった。転生者と言っていたからてっきり、何かしらのスキルを持っていると思ってしまった。」

 確かに、コネットとの道中でノースキルだと伝えていない。俺の落ち度があったのか?

「というわけだ、縄を縛ったまま村の入り口にでも置いておけば、明け方までには魔物が迎えにくるだろう。せいぜい、村の平和のために犠牲になってくれ。」

 俺はそのまま、ムサシたちに連れられて、村の外に転がされた。最後にコネットが「すまなかった」と耳打ちしてきたことが、頭の中でリフレインした。俺が思い描いていた、大自然の中でサウナ生活をしながら、ちょっと村のために働く、スローライフ生活は始まる前に終わってしまう。転生した先で死んだ場合、一体どうなるんだ?また違う世界に飛ばされるのか?もしそうなったら、こっちの世界でも何にも成し遂げてないから、今度こそ問答無用の家畜ライフだ。

 俺はもう考えるのをやめた。もう考えたところでどうすることもできない。グッバイマイラフ。一日もいないし、なんの愛着もないけど、河原で入ったサウナは最高だったぜ。

 そんなことを考えていると、暗闇の向こうからバサバサと羽音がする。目を細めてみると、羽の生えた人間がこちらに向かってきている。

「本当にいるじゃねえか」

 男の声だ。

「さっさと運んじゃおうよにいちゃん。」

 目の前にやってきて俺に手をかける。

「お前たちは?」

「俺たちは魔王様の使い。お前を迎えにきた。このまま飛んで運んでいくから大人しくしてろよ」

 もう一匹が口を開く。

「大人しくしてろよ。お前が暴れて落っこちちまったら、魔王様からもにいちゃんからもこっぴどく怒られちまう。」

 俺は2人に担がれたかとおもと、ふわっとした浮遊感を感じた。このまま、魔王城に連れ去られてしまう。

「俺はどうなるんだ?」

 さっき、にいちゃんと呼ばれていた方が答える。

「食うに決まってるだろう。俺は男は好きじゃない。固いから。お前は肉がついてないから食い出がないな。」

 もう1人が続ける。

「俺は男好きだぞ。確かに固いけど、噛んでれば味が出てくるんだ。」

「お前の話は聞いてないんだよ。」

「ごめんよ、にいちゃん」

 二人の会話を聞いていると、やっぱり俺は食われるらしい。暴れる体力もないため、俺はそのまま、気絶するように眠りについてしまった。

 

 目が覚めたら、牢屋の中だった。石床が冷たく、太い鉄格子がかけられている。

「やっと目が覚めたか。」

 さっき、俺を運んでいた魔物が声をかける。

「ついたのか?」

「全く呑気なやつだ。自分の立場、わかってるのか?」

「どのみち俺は食われるんだ。暴れたって仕方ないだろう。」

「ものわかりのいい奴だ。こい、魔王様との面会だ。」

 牢屋の鍵が開けられ、魔物についていく。手には手錠がはめられて、手錠には鎖がついており、逃げられないように魔物がしっかりと握っていた。そんなことしなくてもにてはしないのに。

「ここだ。失礼のないようにしろよ。」

 大きな扉の前に立つと、ゴゴゴゴと扉が開く。大きなホールのような場所に、カーペットが敷かれ、その両脇に魔物が立っている。中央の大きな椅子に座っているのが魔王だろう。

「魔王様、お連れしました。」

 王座に腰掛けるすらっとした男。合成な衣装に煌びやかな宝石たち。足を組み、頬杖をついている典型的な魔王という感じだ。

「ご苦労であった。お前がワースからの生贄か。こんなに細い男一人で、村一つの安全を担保しろというのだから、ワースの村にも舐められたものだ。」

 不機嫌そうな魔王。

「お前、名をなんという。」

「サウナーだ。」

「変わった名前だな。最後に聞いておいてやる。焼かれるのと煮られるの、はたまた生で食われるの。どんな料理になりたい?」

 どうせ食っても大して上手くないだろうという気持ちが、表情から感じられる。

「俺は、食われるのか?」

 ここに連れて来られる途中で覚悟は決まったと思っていたが、魔王を目にするとやはり心が揺らぐ。

「はあ?そのために来たのであろう。」

「そうなんだが、心の整理がついていない。何か、俺を殺さな方法はないだろうか?」

「これだから下級生物は。いいか?お前たち人間は、俺たち魔族に食われるしかないんだ。どうせ、ワースの村でも役に立たなかったのだろう。逆に聞こう。お前は私に何ができる?」

 何ができるかと聞かれると、特にできることはない。何度も言うが、俺はただのサウナ好きだ。格闘技などに精通していない分、戦力になることもできない。

「黙っているところを見ると、特筆したものはやはり持ち合わせていたいのだな。そんな人間を、なぜこの城においておかなければならない?」

 悔しいが、魔王の言う通りだ。

「こうやって、弱いくせに何かを恵んで貰おうとするやつは嫌いだ。早く連れて行け」

 魔王の命令が発せられた時、後ろの扉が大きく開け放たれた。

 

「お待ちください!」

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