ヤタノツカサ
苗奈えな
プロローグ お姉ちゃんが守るから
父と義母の葬儀は、低く垂れこめた灰色の空の下で行われた。読経の声が淡々と響き、焼香の列は切れ目なく静かに進んでいく。線香の匂いが冷たい空気に溶け込み、胸の奥に重く残る。
中学二年生になった相澤海斗は、体に合わない黒い喪服の中で小さく背を丸め、遺影の方を見つめたまま動けずにいた。
「誰があの子たちを引き取るのよ」
周囲に並ぶのは、義母の親戚たちだ。視線は表情を取り繕いながらも、ひそひそとした囁きとともに、針のように海斗の背中へ突き刺さってくる。
「月子ちゃんだけならともかく、海斗くんはちょっと……」
「再婚相手の子でしょ? そんな子の面倒まで見るのはねえ」
「ちょっとやめなさいよ。聞こえちゃうでしょ」
声は抑えられているはずだった。それでも海斗の耳には、一言一言がはっきりと届いてしまう。視線が絡み合い、値踏みするように、そして厄介なものを見るように向けられるたび、場の空気が冷たく固まっていく。
自分は邪魔な存在なんだ。ここにいてはいけないんだ。
胸の奥では、父と義母を失った悲しみが確かに渦巻いている。けれど、その感情に身を委ねる前に、突き放すような言葉と視線が割り込んでくる。 両親の死を悲しむことさえ、許されない気がした。
思わず俯いたその視界に、ゆっくりと近づいてくる黒い靴が映る。逃げ場を探す間もなく、次の瞬間、温もりがそっと海斗の体を包み込んだ。
高校一年の義姉――月子だった。細い腕は迷いなく回され、まるで離すまいとするかのように、海斗をしっかりと抱き寄せる。
「大丈夫だよ、かいくん。絶対に私が……お姉ちゃんがかいくんを守るから」
「……お姉ちゃん」
月子の背中に腕を回し、子どもが縋るように強くしがみつく。その瞬間、胸の奥で張りつめていた糸がぷつりと切れた。
喉の奥が詰まり、堪えていたものが一気に溢れ出す。涙は次々と頬を伝い、喪服の胸元を静かに濡らしていった。
月子はそれ以上何も言わず、揺れることなくその小さな背中を包むように抱き続けていた。
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ヤタノツカサ 苗奈えな @anioji
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