第2話 突撃ピーちゃん
翌日、この日も彼女は就業開始時間ギリギリでやってきた。
荒い息は整わず、瓶底眼鏡が少しずれ、いつもより着ているセットアップに皺が目立った。
(今日はどうしたのかな。)
と思いながらも、相手は女性であること、プライバシーの侵害にあたる可能性があるため質問することは踏みとどまった。
いつも通りの挨拶のみだけかわし、仕事を始めた。
ランチを終え、睡魔が襲ってくるころ、孤児院に行っていたマークとレント、ピーちゃんが戻ってきた。
「ただいまー!!今日も疲れたよ・・ぴーちゃんもレントもすごくお利巧さんでしたぁー!」
「おう、おかえり。それは偉いな~ぴーちゃん!レント!」
「ピ」
「ワン!」
俺が褒めるとピーちゃんはそっぽを向く。これは俺にしかしないことだが、妹曰く照れ隠しだと言っていたので悪い気はしない。レントは尻尾をちぎらんばかりに振りこちらに駆け寄ってきた。
「おお~偉かったなあ!よしよし!今日の仕事は2人ともおしまいだぞ~あとはゆっくりしておいてくれ~!」
声をかけると1羽と1匹はそれぞれの定位置に行き、各々リラックスし始めた。それを見ながら俺は仕事を再開した。
閑職とはいうものの、孤児院の中で経営難なところがあると一緒に経営について考えたり、子供の精神発達に合った対応をすることを周知したり、大人になったら路頭に迷わず働けるよう手に職をつけさせることなど、地味ではあるが少しずつ広めていっている。人数は少ないなりに忙しくはあるのだ。
特に今日は動物セラピーデイということで、親からの愛を受けるべき時期に虐待を受け、人間を信じられなくなった、寄せ付けなくなった子供がいるところに動物を連れていくという、週に1回の特別な仕事の日だった。
夕暮れも近づき、定時の時刻が近づいてくる。
彼女はできうる限りの仕事を恐ろしい勢いで終わらせていく。俺も負けじと仕事を終わらせていた。
「アレックス様、この資料なんですけど・・」
彼女が立ち上がり、俺の方に近づいてくる。その時彼女の瓶底眼鏡が夕日に照らされキラっと光った。
毛づくろいをしていたインコのピーちゃんが、その光に反応し勢いよく彼女に向かって突進していった。
「ピィーーーー!!!」
「えっ」
「!」
ピーちゃんは眼鏡にぶつかり、眼鏡が少しずれた。その時少しだけ彼女の目元が見えた。光に照らされキラキラ光る青空のような瞳、特徴的なほくろ。
(あれ、この青い瞳と特徴的なほくろは・・)
本当に一瞬だったが少し見えた。彼女はずれた眼鏡を急いで直し、何事もなかったかのように俺に質問をしてきた。
「・・ピーちゃんが悪かった。大丈夫か?けがはしていないか?」
「はい、大丈夫です。眼鏡が光って気になったのかもしれませんね。それよりこの資料なんですけど・・・」
俺に自分の目元が見えたということを、気づいていないふりをしているのか少し声は動揺していた。俺もそんなに気にしないようにしていたが頭の中には彼女の、少しだけ見えた目元がグルグルと回っていた。
(え・・あの目元って・・違う?そんなまさか・・でもあの目元は彼女の特徴でもあるし・・まさか・・)
そんなこんなでスピードの落ちた仕事をしていると定時の鐘が鳴る。彼女は
「お先に失礼します。お疲れ様でした!」
といい駆けだして行った。
俺はその姿を見送った後頭を抱えた。彼女は・・あの時の彼女なのだろうか・・。そんな悩ましい俺の姿を見てマークが近寄ってきた。
「ちょっとー、どうしたのアレックス。頭を抱えちゃってさ。」
「いや・・その、確定したわけではないし、なんとも言えないんだけど・・。あのさ、彼女のこと何か知ってる?」
「え!やっぱり気になってんじゃん!どういう風の吹き回し?」
マークが俺をからかってくる。からかわれるのは分かっていたけど、どうしても彼女のことを誰かに聞きたかった。
「いや!いいから!そんな感じじゃないから!でも気になるから教えて!」
「なんなんだよ~!彼女は寮に住んでいるわけじゃないから・・どこかに住んでいるとは思うけど。」
基本的に独身独居の勤め人はここから近い寮に住んでいることが多い。
「なんで寮じゃないんだろうか・・もしかして・・既婚?」
「そんなわけないよ。それは僕、最初に聞いたもん。独身だって。家族と住んでるんだって。」
「家族?地元はどこなんだ?」
「遠いって言ってた。どこだったかな・・あ!確かサンドルって言ってた!」
「・・サンドル・・」
(俺があの子に会ったのもサンドルだった・・まさか・・)
もしかしたら彼女があの子なのかもしれない、そう思うといてもたってもいられなかった。加えて自分の同僚くらいもう少し知るべきだったと後悔もした。
(クソッもうちょっと他人に興味を持つべきだった!!)
さらに頭を抱えた俺を見てマークは笑った。
「こんなアレックス初めて見た~!面白い!気になっちゃったんだね、ユリアナちゃんを。今度話しをしてみなよ。」
「・・・できない・・・・。」
情けない返事をした俺を見てさらに大きな声でマークは笑った。
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