1年前から気になっていた君 ~君の正体は初恋の人でした~
モハチ
第1話 君はどんな人
俺はアレックス・ダスティン。ダスティン公爵家の次男で現在帝国の機関にある子供庁に勤めている。
そんな俺には1年前から気になる人がいる。
それが目の前に座っている女性、ユリアナ・サンドルだ。
彼女は機関の中でも一番閑職であり、人気の少ないここ、子供庁にやってきた。俺と従弟のマーク、そしてインコのピーちゃんとゴールデンレトリーバーのレントの2人と2匹で今までやってきた、教育機関の中でも一番人気の少ない子供庁に。
(ピーちゃんとレントは特別出勤のため週に1回の勤務だから、ほぼマークと2人体制でやっていってはいたんだけどね・・。)
1年前にやってきた彼女は今まで見たことがないほど・・・外見に無頓着だった。
櫛で髪をといていないのではないかと男の俺が疑うほど、ゴワゴワしている黒い髪の毛に目が全く見えない瓶底眼鏡。入職当初から変わらない茶色の地味なセットアップワンピース。
(あの服は3セットを毎日着まわしているよな・・俺でもわかる・・)
毎日そうだから、ついつい俺も観察するようになってしまった。なんとなくだけど、彼女のことが気になってしまう。
今までもそうだったが、彼女は定時になるとすぐ帰る。特に最近は何かに追われているようにダッシュで帰宅をするので、何かあったのではないかと心配に・・・気になってしまう。
「お先に失礼します。」
バタン・・タッタッタ
ドアを閉め、駆けていく音が聞こえ遠くなっていった。
彼女は経も定時になると、俺とマークに一礼してから走っていった。
「最近いつも急いで帰るな。どうしたんだろう、彼女は」
俺はそんな姿を見送りながらボソっと呟いた。目ざとく、その声を聞いていた従弟がすぐに反応した。
「え、アレックス、彼女のことを気にしてるの?女性を気にするなんて珍しいじゃん。」
マークがニヤニヤとしながら俺に近寄ってくる。元々女性自体に興味がない自分が女性を気にしていることが楽しくてしょうがないらしい。
「だって、最近見るからに急いで帰るじゃないか。別にこの仕事が嫌なわけでもなさそうだし・・。これは!上司として!気になっているだけだ。」
「・・ふーん。そうなんだ。まあそういうことにしておくよ。」
そう言って従弟は帰り準備をはじめ、そそくさと帰っていった。
「じゃあねアレックス!また明日!」
「おう。」
俺はマークを送り出し、自分も仕事の片づけを始める。片付けながらなぜ、この閑職に自ら就こうと思ったのかをぼんやりと思い出していた。
あの時俺は12歳だった。学校が長期休みに入ったため、身分を隠して領地から遠い、田舎の方に遊びに来ていた。1本の大木がある、広い草原で図鑑を見ながら草の種類を調べていると、勢いよく女の子が草原から飛び出してきた。
「うわあ!」
「きゃあ!」
それが彼女との出会いだった。彼女はきれいな金髪にスカイブルーの瞳をし、右目の下に涙ぼくろ2 つ並んでいるのが特徴的な綺麗な女の子で、僕は一目ぼれをしてしまった。・・天使が草原から出てきたと思ってしまったのだ。
一目ぼれで動けない間、彼女は急いだ様子で俺に謝罪をしてサッと走って行ってしまった。
次の日、同じ時間であれば彼女が近くを通らないか期待していたら通った。
「こんにちは!昨日はごめんね、碌に謝りもしないで・・。」
「い!いや!全然大丈夫だよ!・・それより何で昨日急いでいたの?」
「・・・ちょっと色々あって・・・あ!もうこんな夕暮れの時間!また今度!」
言葉少なめに彼女は走り出した。俺はその後ろ姿に向かって叫んだ。
「明日も!僕はここにいるから!!もっと早い時間からいるから!君さえ良ければ話をしよう!!」
彼女は後ろを振り向かず走り去っていったので、聞こえているかは分からなかった。
次の日、また図鑑を片手に彼女を待っていると、彼女は昨日より早い時間にやってきた。
「本当にいた。」
「・・そりゃいるよ。」
そうして長期休暇中、彼女とたくさんのことを話した。彼女は兄と弟の兄弟がおり、両親が兄につきっきりで弟の面倒をみようとしないから自分が面倒を見ているのだと話していた。
「乳母はいないの?」
「いたんだけど、兄が追い出しちゃって・・」
当時、弟は5歳。まだ手のかかる子らしい。一昨日弟が風邪をひいたため薬を買いに行ったり看病したりと色々大変だったようだ。
その時は本当にたくさんのことを話した。正直、領地に戻りたくなかったくらいだ。でも、自分の父が自ら俺を迎えに来たから、滞在の最後の日に自分の名前を書いた紙を渡し、お別れをした。いつか、俺に手紙でもなんでも送ってほしい。自分も送るし、会いに行きたい。と伝えたら、彼女は嬉しそうにしていた。
でもその後彼女からは連絡は無かった。
自分が領地に帰った後、弟の面倒を見ていた彼女がとても偉く思えた。自分にも6歳の妹がいる。彼女に倣ってじゃないけど、自分も面倒を見てやるか・・と思い、妹の部屋を訪ねた。
その時初めて知った。乳母から毎日虐待行為を受けて、妹は上手く言葉を発せないほど脆弱に、精神的に弱っていることを。
それからは必死だった。まず乳母のことを父に報告し、怒り狂った父が乳母に対して罰を下した。
俺はその時から子供の成長について調べ始めた。言葉を発せなくなるほどの虐待を、精神的苦痛をうけてしまった妹をどうやって救えばいいのか・・と。毎日毎日、家の中の本を漁ったり、学校が始まると図書館へ通い勉強を始めた。その時にうまくいった一例があることを知った。動物セラピーというものを。
毎日話しかけることで、妹は俺には心を開くようになったがそれでも言葉数が少ない。人間に対して恐怖心を持っているようだった。でも、人間はだめなら動物は?動物であれば言葉が出てくる可能性がある。そう信じて父に頼み込み賢いと言われているゴールデンレトリーバーと、インコを飼った。・・正直手なずけるのは大変だったけど。
俺に懐くのに時間かかったのに、妹にはすぐ1匹と1羽は懐いた。驚くほどに。そしてその温かさに心を開いたのか、妹も少しずつであるが笑うようになった。
子供の成長には、精神的な苦痛を受けた子にはこういったことが必要なんだ!その当時の俺には言葉に表せないほど衝撃だった。
涙が出そうだった。嬉しかった。
そういう経験があったから閑職ではあるけれども、何か妹のような子たちを助けたい思いで子ども庁に入ったのだが・・・・
(周囲の理解がないと全く動くことができないんだよなあ・・・)
閑職である理由が分かった。周りがまずそういった精神的苦痛を受けた子たちを見たことがない。・・もしかするとそういった苦痛を与えている側である可能性もあるということだ。貴族だから、と一概にくくってはいけないだろうけど、そういう考えの人が多いのだ。
難しいよな・・・そう思っていた。
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