第5話 逆さまの真実
次の日の放課後、探偵部の部室には、依頼人である高嶺澪と、私が呼んだ情報部の東堂蒼士が集まっていた。
東堂を高嶺に紹介するのもほどほどに、私は本題を切り出す。
探偵として、これ以上ない見せ場なので、昨晩、2時間以上みっちり練習してきた。抜かりは、ない。
「高嶺さん。驚かずに聞いてください。
成績提示の件、そして真鍋さんの件、真相を掴みました」
「えっ!」
手を口に寄せながら、教科書通りに驚いてくれる高嶺。
私は、思わずにんまりしてしまいそうになるのを、何とか耐えながら続ける。
「……悲しいことに、人は基本的には『理由』が欲しい生きものです。
だから、『因果』なんて言葉を用いて、都合よく『物語』を作るのです」
突然、それっぽく語り出した私に、高嶺が“キョトン“とした顔をする。
私は、慌てて軌道修正をした。
「……えっと、つまり、今回の事件は、因果が繋がっているように見えて、別々だったということなんです」
「それはつまり、どういうことなんでしょう?」
「今回の事件、大きくは、①成績提示→②不正の噂→③不正の疑惑をかけられた真鍋柚香さんが不登校になった、この順番が1番因果がスッキリするように見えます。
ただ、実際は、①と②の順番が逆だったのです!」
もっと「!?」みたいなリアクションを期待していたのだが、思った以上にあっさりと高嶺が答える。
「……ああ、不正の噂が先にあった後で、成績が提示された。つまり不正の噂は、最初から間違った情報だったということですか?」
「そういうことになります。実際、教師にも確認して、不正自体はなかったことが確認できています」
私はそこで、図書室で入手した、新聞部の記事を見せる。
「この日付を見てください。5月21日。実際に成績表が開示されたのは5月22日です。しかも、この記事は、あくまで『不正があったかもしれない』というだけの内容です。
ところが、1日という絶妙なタイムラグが、常に『物語』を求めている生徒達の伝聞の中で、いつの間にか不正があった→新聞部が記事にした、という順番にすり替わっていったのです!」
私はそこで、これ以上ないドヤ顔を決めて見せる。
東堂がブッと吹き出す音が聞こえる。本当に腹の立つやつだ。
しかも、残念ながら高嶺は少し俯いて思案しており、私のことを全く見ていなかった……。
「なるほど。だとしたら、真鍋さ……、柚香は何で学校に来なくなってしまったんでしょう? 不正が事実でないのであれば、何も恥じる必要なんてないのに……」
「そこが、二つ目の『見せかけの因果』になります。
昨日、私は真鍋さんとお話ししました。
結局のところ、彼女は、最初から成績の不正など気にしていませんでした。
ただ、もともと推薦入試を狙って定期試験の勉強に励んでいた彼女でしたが、今回の不正の噂が立てられる中で、それ自体がバカバカしくなった、そう言ってました」
不正の噂を聞いた、真鍋柚香は、最初はそんな噂が立つことに腹を立てていたが、それをきっかけに、はたと冷静になったそうだ。
自分の成績からすると、学校の成績を上げて推薦を取りに行くよりも、純粋に大学受験勉強に専念した方が、合格確率が高いのではないか、と。
そう思った真鍋は、受験までの間、家や予備校での学習に専念することを決意し、当面の間は学校に行かないことにした。
昨日訪れた際、どことなくスッキリとした顔で、真鍋は話してくれたのだった。
「なので、彼女の不登校も一時的なもので、重要な授業などはこれまで通り登校する、ということでしたよ」
私はそう言って高嶺の顔を見る。
さぞかし喜んでくれるだろうと思っていたのだが、高嶺は微妙な笑みを浮かべるだけだった。
「そっか。真鍋のやつ、別に落ち込んでるわけじゃなかったんだ。ざーんねん」
「そういえば、藍沢!」
高嶺が小さな声で何か呟いていたようだったが、東堂の突然の大声が被り、上手く聞き取れない。
「なんだよ、東堂」
とりあえず、聞くことが出来た東堂の声に反応する。
「真相の解明は良かったと思うんだが、そんなことより、すっかり忘れていたんだが、さっき先生がお前のことを呼んでいたぞ。
今回、妙に首を突っ込んでいるお前が、逆に何か不正を目論んでいるんじゃないかって、疑ってたぞ」
!? なんたることだ。まさか、私自身が疑われるハメになるとは。
「た、た、高嶺さん! 急用が出来たので、今日はここまでとさせて下さい!
今後については、是非二人きりで、じっくりとお話ししましょう!」
私は慌てて部室を後にし、バタバタと職員室に向けて駆け出した——。
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