第3話 ギムレットには早すぎる
高嶺が退席した後、私は早速情報を集めるべく、情報部の部室に向かっていた。
「情報部」と書くと、とある国の諜報機関のような響きだが、なんてことはない、情報屋を名乗るある男が、部活を立ち上げたので、そのまま「情報部」と名乗っているだけだった。
部室のドアをノックもせずに開ける。部室を留守にすることも多い男なので、いない可能性もあるかと思っていたが、そこには、ある男——
「世界紛争の表と裏」なんて本を物憂げに呼んでいる東堂は、悔しいことに、それが様になる男だった。
私の入室に気づいた東堂が、声をかけてくる。
「おや、探偵くんじゃないか、また人、いや動物探しかい?」
「人も動物の一種だろう?……今日は別件だ」
東堂は肩をすくめる素振りをして、私の次の言葉を促す。
こういう仕草が絵になり、私の気の利いた返答がいつも軽くなるのが、何ともいえず、むかつく。一応、彼は2年なので先輩なのだが、関係ない。
しかし、何かと気に食わない男ではあるが、この男の情報の精度は確かだった。
私は、高嶺から聞いた話を共有すると共に、先日の成績提示について、何か情報はないかと東堂に問いかける。
「ああ、その話か」
東堂はつまらなそうに答える。やはり、何かを知っているらしい。
だが、なぜかあまり気乗りがしない様子だった。
前回、チャボの行方を聞いた時の方が、よっぽど生き生きとしていたくらいだ。
「もったいぶらずに何か知っているなら、教えろ」
私は、クールに答える。ついで、雰囲気を出すために「シガレット」を咥えてみる。
「うーん、正直、『情報を扱う』身としては、今回の件は思うところがあってね。あまり深入りしたくないのが正直なところなんだよな」
「君の事情なんて、俺にとっては、何度も使った油取り紙みたいに意味のないものでしかない」
……ちょっと変な例えになったかな、という気持ちを隠して、私は真顔で東堂を問い詰める。
ふーっとため息を吐き、首を振る東堂。
「……わかったよ。それなら、いくつかヒントを出そう。
まずは、噂発祥と、それが“事実になった“順番を、きちんと整理すること。
二つ目に、引きこもってしまった真鍋柚香の不登校要因をきちんと確認すること。
ああ、あと、女性に対して偏った見方しかしない君だと、かなりハードルが高いと思うけど、依頼人の真意もちゃんと掴めるといいかもね。
さ、ここから先は自分で調べなよ。“探偵“だろう?」
挑発されて、少しカッとなりかけるが、抑える。
私がこの拳を使うのは、女性を守る時と決めている(ちなみに、特に格闘技を修めた経験はない)。
「ありがとうよ。解決したら、ギムレットでも奢らせてくれ」
東堂の掌で転がされるのは癪ではあったが、他の糸口もないので、私はそれに乗っかることにした。
当たり前だが、ギムレットなんてカクテルは飲んだこともなかったが、“あの人“の名言なので、奢る気がないときの私の口癖になっていた。
「はいはい」
それを知ってか知らずか、聞き流す、東堂。
そうして、私は“探偵“らしく、足で捜査を開始する——。
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