第5話:愛してくれてありがとうございました
ライブは成功し、その高揚感でわたしもメンバーもしばらく夢の中にいるかのようにふわふわとした日々を過ごしていたある日、事務所の社長に呼ばれ、プロデューサー、マネージャー、スタッフ、メンバーなど、関係者全員が一堂に集められた。
プロデューサーからは事前に「覚悟しておいて」という一言を聞いていたので、いい話ではないんだろうな、という予想はついていた。誰かが辞めるのか、体制が大きく変わるのか……いろいろ考えて臨んだ場ではあったが、予想もしていなかった一言が発せられた。
「PRIZMICは解散することになった。これは決定事項なので、それに向けて各自粛々と準備してください」
あまりにもいきなりのことで、「どうして」「これからなのに」「彼らはどうなるの」そんな疑問をぶつけることもできなかった。
メンバーは、ただ黙って聞いていた。
大人の決定——特に事務所の社長の決定となると受け入れるしかないことを過去の経験から分かっていたからだ。
そして、わたしもいち業務委託者の立場として、受け入れるしかなかった。
わたしがどうしたって、この決定を覆すことは出来ないと分かっていたからだ。
あれだけ一緒に走っていたメンバーを前に、わたしは大人の立場でいることを選んでしまった。
後にプロデューサーから聞いた話によれば、さらにグループとして強くするためのメンバー構成を変化させようとする案が出るなかでの一部のメンバーからの不満や、そこから派生するメンバーや、グループ、事務所間で均衡の崩れがあり、すでに積み上がっていた活動歴を鑑み、その立て直しに時間をかけるより別のところに投資をした方が良いという経営判断によるものだったらしい。
「解散することになった」そのたった一言で、彼らの夢はそこで潰えてしまった。
わたしたち大人たちは別の仕事はいくらでもある。わたしは本業があるし、他の大人たちも事務所には別の所属グループもあるからその仕事が出来るだろうし、同業他社へ転職もすぐにできるだろう。
でも、10代20代の人生で一番楽しい時間をPRIZMICだけに賭けてくれていた彼らの人生は、夢は、ここで終わるのだ。
そして、わたしも終わらせることに加担してしまった大人だった。
アイドルとしてしか生きてこなかった、生きてこさせなかった彼らの今後は、どうなってしまうんだろう。
「アイドルで居続けさせてあげられなくて、ごめんなさい」暗い雰囲気のまま終わった会議のあと、メンバーに対してわたしは謝ることしかできなかった。しかも、涙声で。
一番悲しいのは他でもないメンバーで、一番泣きたいのは、メンバーであるはずなのに、自分の感情を押し殺すことはできなかった。仕事で泣いたのは、このときがはじめてだった。
その日は、なんのやる気も起きず、ずっと横になっていた。頭の中が、今までの思い出と後悔がごちゃごちゃになっていた。自分の無力さが嫌になった。
何時になったか分からない真っ暗なベッドの上で、スマホの画面に灯りがともった。阿久津からだった。
「お疲れ様です!解散が決まってしまってとても残念ではありますが、菜奈さんのおかげで、PRIZMICがどんどん有名になっていってとても心強かったです。いつもメンバーをゴリ押ししてくれてありがとうございました!僕自身はこの先も一緒にお仕事出来たらいいなって思ってます!仲間だと思ってます!菜奈さん、僕たちのことを愛してくれてありがとうございました」
最初のMCで「あなたの生きる理由にしてください」と言った阿久津は、その言葉通りわたしの生きる——これからも生きられる理由になってくれようとこのメッセージを送ってくれたのだろう。
最後の最後まで、アイドルでいてくれようとしてくれている阿久津の想いに涙があふれた。
*****
怒涛のスケジュールで迎えた解散ライブは、思ったよりも湿っぽくならずに終わった。メンバーたちが最後は笑顔で終わろうと、過剰な演出はせずに終えたからだ。
あの解散ライブから何年も経ったが、わたしは相変わらず広報の仕事をしている。
そして、PRIZMICのメンバーはそれぞれ、一般人に戻ったり、別のグループに転生したり、役者の道を歩んだりしている。
別々の道を歩いている彼らの活躍や生活はSNSなどでチェックしているし、メンバーにもよるが、いまでも連絡を取り合っていて、出演作品に招待してくれたり、自分の仕事で彼らをキャスティングして出演してもらったりすることもある。
そういう関係性でいまもい続けることはもちろんうれしいが、彼らと接する時、あるいは、仕事で大きな夢を持つ誰かと出会う時。 ふとした瞬間に、あの日無力だった自分を思い出し、暗い気持ちになる。
しかし、わたしを再び歩き出させてくれるのは、あの夜に届いた言葉だ。 迷い、揺れる私を導いてくれる、消えないコンパス。
「僕たちのことを愛してくれてありがとうございました」
あの日々を全力で駆け抜けたわたしたちは、今日もそれぞれの人生を精一杯生きている。
メンズアイドルと広報女子が駆け抜けた解散までの400日 @nanaishihara
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