第3話:売れていないタレントの言葉なんて、誰も聞いてくれないよ
大阪でのライブが終わり、東京に帰ってきて二週間が経ち、次のライブに向けてそろそろ準備を進めていこうとなっていたある日、わたしはメンバー全員が集まるタイミングで打ち合わせの時間を作ってもらった。
この日までに、スタジオでの練習や舞台やインタビュー、生配信番組のゲストなどの外仕事の合間にメンバー全員とそれぞれ個別で話す時間を作ったことで、それぞれのキャラクターや、考え方、目指す方向などが少しではあるが分かってきたタイミングだった。
「改めてなんだけど、この前の大阪でのライブがわたしのはじめてみんなを見たタイミングだったんだけど、そこでみんなファンからの目というか、評価をあまり気にしてないのかなって思ったんだよね。急に大阪名物に例え出して、めちゃくちゃ困惑しちゃって……わたし同様に、まわりのファンの子たちも困っていたし……」
関係性もそう強くないなかでここまで言うのも嫌だろうな……と思いながらも、正直な気持ちを伝える。
「そうですね……でも、俺たち、パフォーマンスで勝負したいんです。かっこいいと思ってついてきてくれる人がいればいいっていうか……アイドルだからって、愛想振りまくのは違うかなって……MCもパフォーマンスのおまけみたいなものだから、何やってもいいかなって……」
そう答える阿久津は、別の事務所にいたが、その社長の売り出し方に納得ができずに辞めたところをこの事務所に拾われたらしい。
「別に媚びる必要はないけど、アイドルなんだから愛される必要はあるんじゃないかな?もともと力のある事務所にいてその看板だけでファンがついてくれるようなアイドルならそういう考え方でもいいと思うけど、着実にファンをつけて、応援されて、愛されてっていうのが必要ないまのPRIZMICには、そういう考え方だとついてきてくれるファンもついてきてくれなくなっちゃうよ。それに……」
一気に言って伝わるかな……?と思いつつ、そのまま続けた。
「今回のライブでお試しチケットっていう施策もやっていたそうだけど……それってPRIZMICのことをちょっと気になるなって思って来てくれた、まだファンじゃない人へのアピールの場所で、MCってそれぞれのキャラクターを知ってもらうせっかくの機会なのに、女の子に刺さらない内容のMCをやってもどうなのかなって」
「……確かに、僕たちって顔”は”かっこいいグループだよね、ってよく言われることがあって、新規の人は結構入ってきてくれるんだけど、そのままファンになってくれたり、長くファンでいてくれる人は少ないかもです……」と見るからに大人しそうな、でも実は芯がある鳳が率先して答えてくれる。
「でも、俺たちって、別にアイドルになりたいやつの集まりじゃないんです」と松岡がはっきりと話しはじめた。「みんなアイドルがやりたいってよりは、俳優になりたいとか、ダンスで評価されて有名になりたいとか、そういうメンバーが集まっているから、ファンに対して媚びないようにしようみたいな意識はどうしてもあるのかもしれないですね……」
きっといろんな想いがあるんだと思う。最初は夢と希望に満ち溢れ、意識せずとも輝きをまとい、その輝きに恋をされることも多かっただろう彼ら。しかし、活動歴がそれなりに積み上がったことにより、その経験の長さからくる自信だけが肥大化し、それを信じてしまうことでまわりを置いてけぼりにしてしまっている状態なのだろう。
「うん、気持ちは分かるよ。でも、売れていないタレントの言葉なんて、誰も聞いてくれないよ」 わたしの言葉に、部屋の空気が一瞬で変わったのが分かる。
「でも、みんなとはまだちょっとの時間しか過ごしていないけど、深い話をすればするほどみんなが魅力的なのは分かるよ。だから、それぞれのその魅力を、ちゃんとそれを分かってもらえるように伝えるようにしようよ。俳優になりたいなら、ダンスで有名になりたいなら、まずは一人でも多くの女の子たちを長く応援してくれる、本当の意味でのファンにしよう。それで売れたら絶対に世界は変わるし、やりたいことができるようになるから。そのために……」全員の顔をゆっくりと見回してから「わたしはいままでの人脈も全部使うし、できることはなんでもやるから!」と少し大きめの声で伝えた。きっとその方が、伝わると思ったからだ。
「正直、いまから突然アイドル売りしたり、媚びたりするってことは難しいとは思うんですが……デビュー当時と比べて勢いがなくなってしまっているのは事実だし、さっき鳳が言ったように、ファンがどんどん入れ替わってしまっている実感はメンバー全員が持っているので……石原さんが言うように、ファンになってもらって、僕たちと一緒に歩んでくれるファンを作ることを目指したいと思います」
阿久津がまっすぐな目で見つめながら、答えてくれた。
阿久津は続けて「もしかしたら他の意見はあるかもしれないが、リーダーの自分としてはそう考えているから。みんなも同じ考えで頑張ってほしい」と一人一人メンバーとしっかり目を合わせながら話していく。
「そうだね」「頑張ってみますか〜」「改めて、目指せ、武道館!だね!」「みんなで頑張ろうね!」「石原さん、よろしくお願いします!」全員がキラキラとした笑顔で答えてくれる。
わたしの一言でそれに向けて頑張ってくれようとする彼らを見て、素直だな、と思うと同時に、事務所の我々大人たちは、容易に彼らをコントロールしようとしてはいけないな、とも思った。
彼らにとって大人たちは絶対的な存在であり、道を指し示してくれるコンパスだと信じているからだ。
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