吉沢君への手紙

中里朔

告白

吉沢よしざわ君へ

とうとう何も言えないまま、卒業の日を迎えてしまいました。

進学のため町を出てしまうと聞いたので、それまでに伝えておこうと思いつつ、結局は勇気がなくて手紙を書いています。


吉沢君とは、高校生活の三年間を偶然にも同じクラスで過ごしましたね。あの頃は毎日が楽しくて、こんな日がいつまでも続くのだと思っていました。でも、過ぎ去った日々を思い返す時期になってみると、あっという間の出来事だったのだと寂しく感じます。


吉沢君とも楽しい思い出を作りたかったけれど、球技大会や文化祭、修学旅行でさえも同じグループになれなくて、どうやら運命の神様には見放されてしまったようです。親しく接する機会がなかったのは残念でなりません。


私が仲の良い女子たちと楽しく過ごせたように、吉沢君も思い出深い学生生活を送れたことでしょう。バスケ部で頑張るあなたを、友達と一緒に陰ながら応援していました。

見られていること、気付いていましたよね? 無頓着だったあなたが、髪形を短髪に整えて、身だしなみにも気を遣うようになったのはこの頃からだった気がします。少しくらいは意識してくれているのかな、なんて思っていたんですよ。


それなのに、今度はあなたからの視線を感じるようになって、うっかり目を合わせてしまいそうになると、不自然とは思いながらも顔を背けてしまいました。

「嫌われた」なんて勘違いしていないと良いのですが……。あれは、ただの照れ隠しみたいなものですから。


そういえば、卒業アルバムの撮影で、私の横にあなたが並んだのは偶然ですか? 急な出来事で驚いてしまいました。隣を意識するだけで息が苦しくなるというか、あなたとの距離が近すぎて、心臓の鼓動まで聞こえてしまうのではないかと気が気ではありませんでした。

隣にいた友達が、私の体調を心配して声をかけてくれたほど冷汗をかきました。


こんな恥ずかしがりの私には、吉沢君を目の前にして話すなんて大胆なことはできません。もう会うことはないと思うので、言い出せなかったいくつかのことを文章にして伝えたいと思います。




この手紙で、あるいは以前から勘付いていたかもしれませんが、私はあなたが好きでした。三年も想い続けたのに何も言えなかったのは後悔に値すべきことで、報われない想いを残したままお別れするのは寂し過ぎるけど、これは今更どうしようもないことだと諦めることにしました。高校生活での思い出のひとつとして、胸の奥に大切に仕舞っておきます。


吉沢君も、告白する勇気すらない女のことなんて、きれいさっぱり忘れてもらって構いません。あなたにはこれから新天地が待っています。そこで素敵な出会いもあるでしょう。私は遠くから吉沢君の幸せを願っています。


二つ目に伝えたいのは、私が気付いたことです。

吉沢君。あなたには、私とは別に心を寄せていた人がいたのではありませんか?

先ほど、あなたが急に身綺麗になったり、視線が合いそうになると書きました。私にとって吉沢君が白馬の王子様なのだと勝手に思い込んでいたのですが、どうやら見当違いだったようです。

あなたの視線の先にいたのは、常に私と行動を共にしている親友の佑香ゆうかですよね。

ある休日に、あなたたち二人が会っているのを見てしまいました。大型ショッピングモールで待ち合わせ、映画を観てから楽しそうに買い物をしている姿を。驚きました。カフェであんなににこやかに話す吉沢君を、学校では見たこともなかったのですから。

だけど、これも仕方のないことです。佑香は私と違って可愛くて愛想もよく、男子から人気がある子です。あなたが好きになる気持ちもわかります。あなたの選択ですから私が御託ごたくを並べることではありません。


佑香は私にとって大切な存在で、不思議なくらい心の通じ合う親友なのです。それだけに、あなたが心を寄せていたのが佑香だったとは気付けず、驚きました。

ああ、私のことは気にしなくてもいいですよ。妬んだり恨んだりなんてことはしないので、どうぞご心配なく。

それよりも最後に伝えたいことがあります。

私は吉沢君に謝らなくてはなりません。

あれは確か、吉沢君が佑香とデートをする二日前のこと。佑香の家でトランプをして遊んでいたのです。負けた方がをする約束で。

ええ。負けたのは佑香です。この意味、お分かりですよね。

吉沢君。佑香には素敵な彼氏がいますから、諦めてくださいね。それではお元気で。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

吉沢君への手紙 中里朔 @nakazato339

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ