第五七話 始まる戦い
☆午前十一時五五分 パイレーツ・ベース 訓練場
風が森に吹き抜け、戦車達が掲げるワンダの戦旗がバサバサと靡く。いつもは騒がしき海鳥のねぐらも今日はいつになく静かだった。
軒を連ねたテント達から、たくさんの双眼鏡が覗く。アメリカ、ロシア、中国。世界各国のワンダ関係者の全ての視線は、訓練場に佇む二体のゼージスに集中していた。
全身を頑丈な筋肉で武装した一号機。
鋼の翼を誇るMarkⅡ。
蒼と紅。二つの巨体が睨み合う中、我々ワンダJAPANもまた、見守るだけだった。
「……リオン殿、考えたな」
人類を怪獣から守る。そして、その為の研鑽には妥協しない。そんなお題目の裏に隠れているのは、奴の狡猾な謀略だった。
自社の製品が純粋なワンダ製のゼージスを超えた、その事実の下、奴は日本への影響力をさらに強める。そして、ゆくゆくは津上君も狙う。十中八九そんな所だろう。
「こんな時でも、平常運転な貴殿が羨ましいよ」
愚痴を漏らし、私は一号機に繋げる。
☆午前十一時五八分 ゼージスコックピット
「こちら、竜です」
〈私だ。今回の演習のルールをもう一度伝えておこう〉
いよいよ迫る戦いに、背後の暦は深呼吸。気を引き締めれば、暦に繋がれたコードにエネルギーが迸る。
〈現在、両機には『パワーゲージ』という特殊な機器が装備されている。一定以上の衝撃で、破壊判定となるものだ〉
モニターに表示されるゼージスの全身には、丸い形のセンサーが貼り付けられていた。
〈胸、腹、背中、そして喉元。先にこの四つのゲージを破壊した方の勝ちだ〉
「要するに、殴り合いって事ですか」
司令の肯定するような相槌が、通信越しに見えた気がした。
〈まぁ、繰り返し説明する必要もなかった。君の言う通り、奴は我々を叩きのめす事で優位に立とうとしている訳だ〉
シンプルながら、実に効果的な作戦だと俺は感じた。事実、対峙するあの紅の怪鳥はそれを十分に遂行出来る高い戦闘力を誇っていた。
不意に、別の通信が俺達の会話に乱入した。
〈竜先輩、そろそろ始まるぜ? そんなにダラダラしてていいのか?〉
勝ち誇りながらも、一欠片の慢心のない生意気な声。MarkⅡが強いのは素の性能だけではない。哲也の力量と油断の無さもまた、その強さに貢献していた。
〈……これは、失礼した。一条君、津上君。健闘を祈るよ〉
司令の通信を切り、俺は一言。
「分かってる。哲也君、君は強い。だからこそ、全力を出させてもらう」
〈その言葉、そっくりそのまま返すよ〉
二体のゼージスの装甲が唸りを上げ、噴き出した蒸気が辺りを白く染める。両者の全身にパイロットのエネルギーが満ち溢れ、コックピットに駆動音が響き渡った。
バチバチと迸り、大気を焦がす黄金の雷。
溢れる出る熱気に、視界を揺らめかせる陽炎。
訓練場にサイレンが鳴り響き、テントで待機する司令やサワさん達はゴクリと息を呑んだ。
〈正午になりました。これより、ゼージス模擬戦演習を開始します〉
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