第五六話 月末
戦艦達が肩を並べ、空を戦闘機達が飛び回る。大砲が火を噴き、空から爆弾が投下される度に次々と洋上に水柱が天高く伸び、その度に大波が喫水線に砕けていく。
潮風に吹かれ、堂々と靡くワンダの戦旗。一つのシンボルの下、本来なら争う筈の国々が連合艦隊を組んでいるのは、皮肉というべきだろうか。
☆八月三一日 午前十一時
パイレーツ・ベース 格納庫
「いよいよね」
窓から外の様子を伺いながら、サワさんは俺達に言い聞かせるように呟く。休暇終わりのその表情は緊張と対抗心で引き締まり、いつもとは違った美しさを湛えていた。
「先輩、メンテどうでしたか?」
イヤホンで音楽を聞きながらタブレットを弄る澄子さん。高速で押し寄せる情報を片手間で処理していく様は、まさに天才科学者としか言いようがなかった。
「生体ユニットの方は問題なし。バイタル良好でパワー全開って感じね」
「ボクの方もです。全武装、最高のパフォーマンスで稼働できそうです」
整備用のブリッジ達に抱かれ、聳え立つ蒼の巨体。強靭な脚に触れてみれば、装甲越しに野性的な息遣いと力強い鼓動が聞こえてくる。怪獣らしい野蛮なまでの戦意が、機械によるコントロールを乗り越えて伝わってきた。
「竜君、暦ちゃん」
数日ぶりに着たワンダの白い隊服。何処か安心させてくれるいつもの重みが、俺達の肩にのしかかる。
「バッチリです」
サワさんはニコリと微笑み、視線をゼージスの正面に移した。
「……さて、やる事はやったわね」
一号機と向かい合うように、MarkⅡもまた戦いの準備を進めていた……
++++++++++++
旧式なのに、それを忘れる程に強者らしい威圧感がある。格納庫に佇む一号機を見た時に、ぼくはそんな第一印象を抱いた。
〈当たり前だよ。事実、あの二人はかなりの怪獣を倒してるのだからね〉
リオンの見透かしたかのような言葉がスマホの奥から聞こえてくる。
〈意外だね。自信過剰な君も、そんな事を思うなんて。怖じ気付く君は、意外と年相応の可愛い顔をしているのかもな〉
ぼくは、ため息をつき反論する。
「怖気づいたんじゃない。警戒してるだけ。勘違いしてるかもしれないけど、ぼくは見下しはすれど慢心はしないタイプなんだ」
やたらと目が乾く。昨日、遅くまで先輩の戦闘記録をチェックしていたせいだろうか。ぼくは、そんな事を思いながら目薬をさす。
「そんな事より、今回は何円出すの?」
〈では、二十億出そう。シャードンの十倍だ〉
少し割に合わない数字に内心ムスッとし、それでも自分を納得させる。
〈これは、私にとって譲れないモノだ。それを『絶対に負けない』君に任せられる事をとても光栄に思うよ〉
譲れない。電話を切ったぼくは、少しばかりその言葉に物思いに耽っていたらしい。
(絶対に、幸せになって)
〈マスター〉
今度は、シスの声がスマホから聞こえてきた。
〈まだ少し時間があります。最後の一服をとるべきです〉
ぼくは、MarkⅡに背を向け歩き出す。
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