第五五話 ぼくの為
☆午前零時四〇分 シミュレーションルーム前
「暦ちゃん!!」
不意に、わたしの両肩を靭やかにして力強い力が掴んだ。
「暦ちゃん、良かった!! 俺、暦ちゃんがてっきり連れ去られたのかと……」
竜の顔は心配と焦燥、そして安堵で濡れている。ここでわたしは気付いた。わたしは、知らぬ間に二度も竜に嫌な思いをさせてしまったらしい。
「ごめん」
竜は、わたしの事を責めなかった。いや、正確に言うとそんな余裕はなかったのかもしれない。
その視線は、哲也の方を向いていたのだから。
「あんたが、竜先輩? なるほど、『結構』やりそうだね。リオン、珍しく嘘付いてなかったんだ」
挑発的な態度を見せる哲也。美少年の小さな顔に、不敵な笑みが浮かぶ。
「話は聞いてるよ。怪獣にトラックで突貫とか、片目が潰れたままゼージスを乗り回したとか。先輩、いわゆる『ヒーロー』って人でしょ?」
竜は何も答えない。ただわたしを庇うように目の前に立っている。効果が無いと思ったのだろうか、哲也の視線がわたしを向いた気がした。
「これはぼくの持論なんだけどね、人が出せる一番の力は『自分が助かる為の行動』、つまりぼく自身の為の行動だと思うんだ」
「ぼく、自身?」
戸惑うわたしに哲也は続けた。
「何か美味いものを食べたい、面白い漫画を読みたい。人間、生きようと思えば思うほど未来を切り開けるんだ」
哲也は踵を返し、廊下の闇へと歩き出す。
「ぼくは、自分の為に生きている。─竜先輩、あなたはどっち?」
その声色に、油断はない。ただ『確信』のみがあった。
(ぼくは、君よりずっと強い)
竜の拳が僅かに震える。だが、それだけだった。
「数日後の演習は、よろしく」
たった一言。わたしの手を引く竜の足取りには、確固たるただ一つの思いだけがあった。
「必ず勝つよ、暦ちゃん」
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