第五四話 暦と哲也
☆八月二八日 午前零時半 ???
満月の下、燃え上がる大阪。瓦礫の海と化した街。逃げ惑う人々に、大破した一号機。
そして、激しく争うMarkⅡと怪獣二体。
金属音と共に、ヴェルセクトの鎌鼬が街を切り裂く。大地を蹴って飛び上がり、轟音と飛び散る破片を背に強烈な飛び蹴りを大角に浴びせる。悲鳴と共に角ごと首を圧し折られ、ヴェルセクトは火達磨で大地を転がった。
〈マスター、油断しないで!!〉
「分かってるよ!!」
直後、MarkⅡの背後から何本もの茨が締め上げる。強引に引き寄せられ、スレンダーな体にロズベオンの大顎が食らいつく。全身を雁字搦めにする蛮力が装甲を軋ませ、計器類がけたたましい警報と共に火花を散らした。
〈二分半経過!! 急いでください!!〉
シスターのその言葉に、ぼくは不敵な笑みを浮かべる。
「なんだ、まだ三〇秒もあるじゃん」
直後、駆動音と炎と共にMarkⅡの背中から翼部分……イカロスが分離する。強烈なGと共に天高く飛び上がった鋼の猛禽は翼を白熱させ、風を切らせながらロズベオンに急降下。翼が体表を切り裂き、悲鳴と共に拘束が弱まった。
「トドメだ」
茨を引き千切り、右掌から飛び出した鉤爪でロズベオンの腹を貫く。断末魔と共に緑の体液を噴き出す風穴。そこへ、口からの熱線を高音と共に撃ち込む。果たして、緑の巨体は暴風に吹かれた塵のように消えていった。
「タイムは?」
〈二分五五秒、やはりギリギリです〉
再合体と同時に、街が闇に消えていく。ぼくはひと息つき、目元に手を伸ばした。
〈シミュレーション、お疲れ様でした。今日はもうお休みください〉
スマホからシスターが労う。安全ベルトを取り外し、シミュレーション用コックピットから立ち上がる。無機質なシミュレーションルームにゴクゴクという音を響かせれば、水の冷たい心地良さが喉に広がった。
「ありがとうシス。明日は午前五時に起こしてくれない?」
〈お体に毒ですよ。人間、七、八時間は寝るべきだと言いますから〉
「そうも言ってられないよ。演習近いんだから」
スマホをポケットにしまい、ぼくはシミュレーションルームを出る。
「それに、『先輩』も見てたみたい」
シミュレーションルーム入口前。ベンチから、灰色の髪の女の子が不思議そうにこちらを見つめていた。
++++++++++++
津上暦。リオン曰く、ぼくと同じ超能力者。ぼくと同じ記憶喪失。そして、ぼくと同じゼージスのパイロット。プールで遠目から見たより、彼女は美少女だった。ミステリアスな容姿に、ぼくより年上であるだろうに何処か幼気で純粋な雰囲気。リオンも狙う訳だ。ただ兵器として見ているのか、気持ちの悪い邪推が出て来てしまうくらいには。
……最も、ぼくは違ったが。
「なんで超能力を使えるの? なんであんなに強いのか? なんで……」
暦の質問は、驚く程尽きない。幾ら答えようと次々と新たな質問が押し寄せてくる。ぼくは、目の前の少し年上の女の子程、厄介な怪獣を相手にした事が無かった。
「言ってるでしょ。ぼくも記憶喪失だから分からないって」
辟易しながら、ぼくは嘆息する。
「じゃあ、どうして記憶喪失に」
「分からないから記憶喪失なんだよ」
見かねたのか、シスが口を挟む。
〈暦様、マスターが困っています。人は、根掘り葉掘り聞かれるとどうすれば良いか分からなくなってしまうのです〉
きょとんとした様子の暦に、シスは続けた。
〈竜様は、こんな事望んでいませんから〉
不意に、納得した様子を見せる暦。
「竜が悲しむの? ……ごめん」
こっそり超能力で暦の心を探ってみる。『正しさ』、『竜』、『好奇心』。たった三単語しかないその光景に、ぼくは思わず戦慄してしまった。この質問拷問は、偵察でも嫌がらせではなく、ただの興味関心の帰結としてそこにあったのである。
「キミといると、ぼくの調子が狂うよ」
ぼくは、ベンチから立ち上がる。どっちにしろ、この子達とぼくは演習で戦うのだ。調子を狂わされたツケはその時に払わせれば良い。これは、負けではない。これは、敗走ではないのだ……
「ごめん、最後に一つだけ聞いていい?」
背後からの問いに、ぼくは思わず振り返ってしまった。
「哲也さんは、なんで戦うの?」
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