第五三話 第二のパイロット

☆午後七時 パイレーツ・ベース 宿泊室


「……サワさん、俺のベッド占領しないで」


 夕食を終え、俺達が部屋に帰ってみれば、四肢を大の字に広げたまま魂を抜かれたように固まるサワさんの姿。何故か彼女は、微睡むタマ達三匹を腹に乗せて俺のベッドの上で力尽きていた。


「……サワさん、竜が困ってる」


 暦の二度目の呼びかけで、彼女は漸く正気に戻る。何処かてるてる坊主のように見えたサワさんの表情に、科学者らしい知性が再び宿った。


「あっ、ゴメン!! 正直、ショックだったのよ」


 一九三センチもの長身をベッドから起き上がらせ、嘆息。その視線は、窓の外…滑走路の隣に併設されたゼージス『達』の格納庫を向いていた。


「あたしと澄子が、血反吐を吐きながら開発したゼージスなのよ。知らない間に二号機が出来ていたなんて信じられないのよ」


 俺達の脳裏に、MarkⅡが見せた鮮烈な戦いの記憶が浮かぶ。凄まじいまでの機動力に、俺達にも劣らないパワー、そして、分離からの二方面攻撃。


「悔しいけど、流石新型機よ。良い意味でも悪い意味でも、傑作としか言えないわ」


 それは、人としてのプライドと嫉妬の言葉。そして、それ以上の『憂い』を湛えた懸念のようにも聞こえた。


「あんな超兵器が知らぬ間に武器商人の手に渡っていた。はっきり言って、かなり危険よ。一応、ワンダとアークブレインの共同管理だから『今すぐヤバい』って訳では無いけど」


 彼女の視線が、暦の方を向く。


「アークブレインが俺達に干渉出来る口実が出来てしまいしたね。しかも、今回の演習相手があの子となると」

「そうね。奴が暦ちゃんに変な気を起こさなきゃいいけど」


 当の暦はあまり意味が分かっていないのか、きょとんとした様子だった。俺は思った。ある意味、暦の才能は呪いなのではないかと。こんな力が無ければ、戦いに巻き込む事など無かったのではないかと。


「あのパイロット、誰なの?」


 暦が口を開く。俺達とは対照的に、思惑など何もないただの『関心』としての言葉だった。


「一応、さっき司令から情報は貰ったわ。最も、司令も詳しい事は聞いてないようだけど」


 俺達の会話に三匹は目覚める。疑問符を浮かべる『母』が心配になったのか、彼等はベッドに腰掛けた暦の膝に飛び込んだ。


「笛木哲也、推定十二歳。暦ちゃんと同じくゼージスを扱える超能力持ちで記憶喪失。一年前、訪日中のリオンに拾われて今に至る……これじゃあ、何にも分からないわね」


 一瞬、暦の表情に僅かな不満が浮かんだような気がした。まぁ実際、俺達も同じ気持ちではあった。これから演習で実際に戦う相手の事が、こんなにも分からないなんて…


「結局、最後はいつも根性論ですね」


 苦笑いを浮かべ、俺は暦を宥めた。


「取り敢えず、残りの休暇はトレーニングに費やそう。万が一の事があっても、俺達が強くなれば問題ないし」

「えっー? 竜君、木野先生に今ドクターストップかけられてるのに?」

「流石に緊急事態の時は許してくれますよ、サワさん」


 ……俺達は、この時暦が下した決断に気付く事が出来なかった。

  

 

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