第五一話 MarkⅡ《マークツー》

 ☆正午四五分 パイレーツ・ベース 司令室


 俺達に、真の意味での休暇はない。怪獣は待ってくれないし、容赦してくれない。だからこそ、俺達は水着のまま司令室に駆け込んだのだ。いざという時は、このままゼージスで戦えるようにと。


「「出動、『しない』?」」


 だからこそ、佐神司令の判断は意外だったのだ。俺達にも、サワさんにも、そして先生や澄子さんにとっても。


「……契約上の理由とは言えすまなかった」


 司令が返した噛み合わぬ言葉。焦れたかったのか、澄子さんが赤ちゃんを抱いたまま突っかかった。


「待ってください!! ボク達に怪獣を見逃せって言うんですか!?」

「あたしも同感です、さっきの報告で神戸に上陸する可能性が高いって聞いてます!!」


 後輩を援護するような形でサワさんと木野先生が口を開いた。


「ゼージスを出しましょう。雷撃なら水中の相手でも戦えるはずです!!」

「オレも賛成です。上陸されてからでは遅いですよ!!」


 三人の追及を、司令は黙ったまま受け止める。


「「「司令!!」」」


 焦燥が最高潮に達しようとした時だった。


 


「ゼージスなら、もう出撃した」


  

 

 直後、強烈な衝撃が基地を揺るがす。地響きの中、赤く回転する回転灯。俺達は、何が起きたのか分からなかった。


「せめて、もう少しお手柔らかにやって欲しかったものだ……!!」


 苛立った司令の言葉。直後、切り替わった巨大モニターが状況の説明を始めた。


++++++++++++


 ☆正午五〇分 六甲山山中


 轟音と共に大地が砕け、爆風に木々が吹き飛ばされる。超高度から落とされた『ソレ』は、凄まじい衝撃波と破壊を撒き散らした。焼き焦げた六甲の大地にぽっかりと開いた巨大なクレーターは今後数百年は絶対に消えない。せめてもの救いは、市街地ではなかった事か。


 そんな大穴の底に、魚竜を思わせる怪獣─恐顎水獣シャードンは横たわっていた。海から連れ去られた挙句、はるか天空から叩き落とされ全身の鱗も骨も潰された瀕死の風体。


(何が、起きた?)


 暫しギョロギョロと動いた眼球は、やがて空を舞う赤き鋼の翼を見つける。シャードンは鮫の脳みそなりに悟った。奴が、あの怪獣が自分を叩き落としたのだと。


(排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除、排除……!!)


 まるで最初からそうプログラミングでもされたかのように、横たわるシャードンの脳裏を激情が焦がしていく。瀕死のか細い声は怒りの唸声へと姿を変え、全身の細胞が脈動していく─


++++++++++++


 ☆正午五五分 パイレーツ・ベース 滑走路


 その怪獣は、さも当然のように俺達の前に舞い降りた。それは、靭やかにして強力な筋肉を優美な羽毛で覆い、さらにその上から赤き鋼の鎧を纏った翼竜、あるいは怪鳥。背中の巨翼にワンダのエンブレムを輝かせ、鋭い牙の生え揃った嘴が銀髪の少年に跪く。


「あんな高い所から落としたのに、復活したってマジ? 報酬なしじゃ、あいつはもう割に合わないな」

〈まぁ、へそを曲げるな。アークブレイン社CEOとして、追加報酬も出そう〉


 俺達は、電話から聞こえるその声をニュースで知っている。リオンだった。


「じゃあ、二億でどう?」

〈何だ、意外と安いではないか。『MarkⅡ《マークツー》』君〉


 笑い掛ける携帯に、少年は不敵に返した。


「機体名で呼ばないで。ぼくは、笛木哲也。あくまで、ゼージスMarkⅡ《マークツー》のパイロットだよ」

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