第四五話 金閣寺
☆七月二六日 午後二時 京都市北区
〈サンダスタル事件 ワンダが謝罪会見を開く〉
〈電気を吸収する希少種 事前に『気付けた』のか?〉
ネット記事と睨み合う望さん。そんな夫のスマホは、桜さんの手によりひったくられた。
「何サラッと歩きスマホしてるの? ここでやるだなんて」
「いや、ちょっとワンダに同情してたんだ。あんなモン、殆ど結果論だってのに」
「言い訳にさえなってないよ」
夫婦の諍いを横目に、俺はほっと息をつく。一応、ただの一兵卒たる俺達は良い意味で『蚊帳の外』だった。不謹慎だが、俺は何処か安心していたのである。
(サワさんの説教、結構先になるのかな)
そんな俺達と四人の右手には、金の手帳が輝いていた。
〈ワンダ・鴻樹・京都市合同発行 京都永久観光パス〉
「竜、あれがお寺なの?」
暦に手を引かれてみれば、聳え立つ楼閣の黄金の輝きが俺の目を眩ませた。
「あれが金閣寺。あんなに綺麗なモンなんだ」
「土産屋さんにフィギュアあれば買おうかな」
見惚れる星野と先輩……もとい佐藤。アルガ事件、そして激動の三年間を乗り越えたその煌めきが、鏡のような水面に反射していた。
「竜。なんで一階は金じゃないの?」
そんな暦の視線は金ピカの二階・三階ではなく、一階を向いていた。豪華絢爛を誇る上層とは違った、質素で洗練された美しさは暦の心を掴み、疑問を浮かばせるのに十分だっただろう。
「何でだろ」
困った。俺はあまり歴史が得意ではない。いや、正確に言うと一九五四年以前の歴史は殆ど習ったことがないのである。スマホで調べるか? いや、でもそれでは何やら負けた気がしてたまらない。かといって、知ったかぶりで間違った知識を教えるのも……
「なんか、人間みたい」
暦の素っ頓狂な言葉に、俺は少し困惑した。
「『金』なのに、『金じゃない』。『間違っている』のに、『正しい』事もする。違うはずのモノが混ざってる。『分からない』って意味では、似てる」
暦の視線は、お土産で揉める四人の方を向いている。だが、そこにあるのは金属的な冷たさとは違った、何処か興味深げな温かさだった。
「だから竜は悲しんだの? 人間、それだけじゃないって」
一人、早合点する暦。だが、俺は否定しなかった。
「あぁ」
まずはそれで良いんだ。俺は、少しだけ見栄を張ったように笑い掛けたのだった。
双電爆雷編 完
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