第四三話 覚悟

 ☆正午五八分 パレス・ベース 第一地下壕 


〈警告、警告!! これより爆風と衝撃の恐れあり!! 基地内の全職員は至急、基地内の各地下壕に退避せよ!! 繰り返す……!!〉


 緊急放送を、閉じられた分厚い防爆ドアが遮る。あたし達が逃げ込んだ地下壕内は、密度と緊迫で酷く暑く感じられた。


「竜君」


 あたしは卑怯者だ。切れた通信機を片手に立ち尽くす。たった一人の家族を戦わせて、自分達は助かろうとするなんて。防爆ドア越しのサイレンは、あたしを責める罵声のように聞こえた。


「九瀬君。君は自分を責めるべきではない。この一時間、我々はやれる事はやったんだ」

「命あっての物種だ。せめて、オレ達だけでも」


 司令と木野先生の励ましもまた、激しい後悔と無念を含んでいる。誰もがあたしと同じ気持ちだった。澄子さんの目は涙で潤い、姫谷さんは俯いたまま表情を歪めていた。


 時間は、残酷に過ぎていく。時計の針が五九分を刺そうとしていた。


 ☆正午五九分 残り一分 


〈サワさん、俺です!! 竜です!!〉


 突然の通信に、地下壕中の視線があたしに集中する。飛び掛けていた意識を引き戻したのは、竜の声だった。


++++++++++++


☆正午五九分三〇秒 

 京都・滋賀県境山中 残り三〇秒


 サンダスタルの巨体が激しい紫電に包まれていく。体内で渦巻く膨大な電気エネルギーは、今まさに大爆発へと姿を変えようとしていた。


〈竜君、何で〉


 わたしの目の前で、竜は叫ぶように伝える。


「ごめんなさい。先に謝っておきたかったんです。これから、無茶しますって」


〈む、無茶?! 一体何を……!?〉

「すみません、内容はそちらから確認してください!! 今は、ただ謝っておきたかっただけです!!」


 咎めかけたサワさんの通信をプツリと切る竜。そのまま振り向き、わたしを見つめる。


「暦ちゃん」


 それは、まさしく覚悟の視線。わたしに、全力で応えようとする強い意志がそこにはあった。

 

「ありがとう」


 それ以上の言葉が、わたしには見つからなかった。いや、そもそも存在するのだろうか。答えは、まだ分からない。


 ……でも、今はそれで良い!!


 ☆正午五九分四五秒 残り一五秒


「皆さん、もう一度言います!! しっかり掴まっててください!!」 


 竜の叫びと同時に、ゼージスもまた咆哮する。果たして、爆発を前にして不動かのように思われたその巨体は、大地を蹴って前進する。


 ☆正午五九分五五秒 残り五秒


 地響きの中、限界に達した紫電は遂に爆発しようとしていた。雷撃の中、高熱と暴風を撒き散らしながら崩壊していくドロドロの巨体。死を覚悟し、断末魔と共に四人が顔を伏せる。迫りくる死線、飛び込んだゼージスは……


 サンダスタルに組み付いた。


 ☆午後一時 残り零秒

 

(ゼージス、吸収して!!)


 瞬間、凄まじいエネルギーが機体を駆け巡る。先程の比ではない火花と共に、鋼の巨体は悲鳴を上げた。警報さえ掻き消す程の破裂音と短絡音が鼓膜を殴り付ける。凄まじい衝撃に揺れるコックピットは、みるみる内に灼熱地獄へと変わっていく。


「な、何をしてるんですか……!?」


 悲鳴のように問う星野に、竜は怒鳴り返した。


「暦ちゃん、考えたんです!! 電気で爆発するなら、電気を『食い尽くせば』良いって…!!」


(ゼージスって、電気の吸収ができるの。今のところ、他の怪獣では確認されていない唯一無二よ)


 わたしが思い出したのは、いつか聞いたサワさんの自慢話。そして、その通り雷を扱うゼージスの勇姿。それが今、ここまでの『最後の切り札』になるとは開発者も想定外だったはずだ。


 激しい雷鳴と爆風の中、爆発せんとした紫電が、組み付いたゼージスに吸収されていく。当然、安全なんて言葉は何処にもない。痛い、痺れる。凄まじいエネルギーに、気を失いそうだった。それでも、わたしは下唇を噛んで踏み止まる。


 一秒、二秒、三秒。大爆発を、少しずつ遅らせる。


「で、でも、エネルギー自体が消える訳じゃ……!?」


 先輩とやらの声と共に、ゼージスもまた『爆弾』へと変わっていく。全身を駆け巡る凄まじいエネルギーに、ゼージスもまた限界だった。異常発熱した機体が溶け始め、生体ユニットがズタズタにされていく。まるで断末魔のようなゼージスの咆哮と共に、わたしの意識は薄れていく……


「もう一踏ん張りだ!!」


 竜の叱咤に、わたしは何とか持ち直す。


「策なら、あるんだろ!?」


 金と紫がぶつかり合い、灼熱の竜巻のように激しく渦巻く中、倒れそうだった鋼の巨体が力を取り戻す。力を込め、溶けゆくサンダスタルに組み付き直すや否や、ゼージスは天に吠える。


 次の瞬間、その大口から鋭く暴力的なまでの光が溢れた。紫電と金雷は螺旋を巻き、一本の極太レーザーとして天を貫く。


 雲と塵が吹き飛ばされ、周囲の木々を炎と衝撃波が薙ぎ倒した。京都全域を吹き飛ばした筈のエネルギーが、指向性のビームとして空の彼方に消えていく。


 わたし達は叫び続けた。激痛と苦しみの中、ただ只管、何も考えず、目の前の試練を乗り越えるだけが為に叫び続けた。機械が唸り、爆風が吹き荒れる。


(悩み続けても良い。わたしは、これからも悩み続ける)


 わたしは、そんな思いを胸に最期まで戦い続けた。


 


(でも、それは今じゃない!!)


 


 瞬間、近畿の大地が揺れた。驚きと困惑の中、多くの人々が外へ出たのだろう。もしかすると、一部の人には見えたかもしれない。


 空を切り裂く、黄金と紫の光の刃が……

 


 


 

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