第四二話 すまなかった

☆正午五七分 残り三分


 呆然の中、わたし達を正気に呼び戻す衝撃音。それは、最後の悪あがきとでも言うにはあまりに強力過ぎる攻撃だった。


「皆さん、しっかり掴まってください!!」


 衝撃と警報の中、竜は叫ぶ。次々と襲い掛かる紫のレーザーに怯み、体勢を崩すゼージス。それでも、竜は操縦桿を握る手を止めない。


 火花が散る中、振り抜かれた靭尾が光の刃…ヴェルバッサーとしてレーザーを切り裂く。弾け、切り裂かれ、防がれるレーザー達。ブロックされたレーザーは紫電へと戻り、大気を焦がしていった。


 ☆正午五八分 残り二分


 苦しげな咆哮と共に、サンダスタルは再び大地へと崩れる。悶絶し、只管藻掻く巨体は今や、危険な輝きを湛えていた。


〈一条君、スラスターが壊れたのか!?〉

〈竜君、今すぐ走って!!〉

〈何をしている、死んでも葬式には出んぞ!!〉


 基地からの悲鳴のような通信に、竜は顔を歪める。


「駄目です、スラスターなしではどう頑張っても間に合いそうにないです……!!」


 コックピットに絶望の静寂が訪れ、機械音のみが響き渡る。森を燃やしながら臨界していくドロドロの巨体は、逃れようのない『死』を淡々と宣告していた。


(わたし、死ぬのかな)


 死ぬ事自体は怖くない。そして、先程のような混乱もなかった。けれど、あの疑問は死を前にして再び湧き上がってくる。


 あの日の感情も。


 人の正しさも。


 わたしは、死を前にして未だにその答えを見つけられないじまいだ。


 


「暦さんと竜さん、だったよな」


 突然、静寂が破られた。望さんの声だった。


「おれ達の娘は、あのデカ草野郎に殺された。だからこそ、おれはあんたらワンダを内心恨んでたんだ。お前らがしっかりしてなかったせいで、娘は死んだんだって」


 三人の視線が望さんを向く。だが、俯いたその表情までは伺えない。彼の右腕は、あの空き缶を相変わらず抱えていた。


「言い訳にならないよな。だって、最初から分かってたんだから。本当は誰のせいでもない、みんな頑張った結果としての悲劇だとな」


「あんた、何を」


 開いた口から紡がれたその言葉は、妻ではなく確実にわたし達を向いていた。


「許してもらおうとは思わないさ。ここまで来ても、恨みも残っているんだから。もし、『それでも』なら聞いてくれないか」


 真剣な眼差しが、わたし達を貫いた。


「本当に、すまなかった」


 そこにあるのは、紛れも無い『正しさ』。だが、わたし達への黒い感情……『間違い』もまた、その真剣な言葉には残っている。


 『正しさ』と『間違い』。


 相反する二つが、望からは渦巻いていた。分からなかった。やはり、まだ分からなかった。


 ……でも。


 竜は口を開かない。諦めの言葉を口にしながらも、その手は操縦桿を握り続けているし、その視線は打開策を見つけようとモニター上を走り回っていた。


 だからこそ、わたしが言うべき言葉は決まっていたのだろう。


「竜」


 血走った目で振り返る竜に、わたしは口を開く。


「今は、わたしに力を貸して」


 ☆正午五九分 残り一分


 わたしは、竜をただ悲しませたくなかった。

 

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