第四一話 決死の七分間
☆正午五一分 京都・滋賀県境山中 残り九分
咆哮同士がぶつかり合い、激しく震える大気。星野達は思わず顔を伏せた。森を揺るがし、結晶の巨体は大地を蹴って突進する。
「暦ちゃん、行くよ!!」
「分かってる!!」
果たして、凄まじい衝撃と共に両者は激突した。装甲が軋み、結晶が砕ける。攻める蛮力を怪力が受け止め、機械達が一斉に唸りを上げた。
☆正午五二分 残り八分
歯を食い縛り、俺は操縦桿を力一杯押し倒し続ける。汗に濡れた顔は、きっと鬼の形相になっているに違いない。何せ、暦すら歯を食い縛って頑張っているんだから。
〈少しだけじっとしていてくれますか!! 絶対に助けますから!!〉
見守る彼らにマイクで指示を飛ばす。幸い、力比べは俺達が押しているらしかった。装甲の下で人工筋肉がビシビシと張り詰め、結晶の巨体がジリジリと後退していく。
「気張って!!」
俺達とゼージス。三者の咆哮が重なる。限界を超えた怪力が、蛮力を勢い良く跳ね返した。軽く吹っ飛び、山麓に叩き付けられるサンダスタル。岩と砂と土が降り注き轟音が響き渡る中、体内で暴れるエネルギーはますます制御を失っていく。
☆正午五三分 残り七分
正面からでは勝てない。サンダスタルはそう判断したのだろう。立ち上がった結晶の背鰭は、連続した閃光を放った。
直後、ゼージスの装甲達が火を噴く。徴収された電気が弾け、一斉にショートという形でサンダスタルに寝返ったのだ。
コックピットもまた例外ではない。衝撃と共に次々と火花が飛び散り、けたたましい警報が耳を劈く。
〈警告!! 各部構造でショートを確認〉
〈総エネルギー量急速低下中〉
下僕達の反乱に、ゼージスは巨体を揺らしながら悲鳴を上げる。予想はしていたが、やはり相性が悪い。電気を吸収するサンダスタルは、天敵そのものだった。
☆正午五四分 残り六分
「大丈夫!!」
苦境の中、暦は叫んだ。
「そんなに吸収したいなら……!!」
搾取の中、体勢を立て直したゼージスが激しく咆哮する。直後、サンダスタルは体内に凄まじい衝撃を覚えた。まるで、巨岩を強引に胃袋に押し込められたような激痛。それは無理矢理人間で例えるならば、一年掛けて飲む酒を一晩で飲まされるようなモノだった。
ゼージスが選んだのは、『吸収され続ける事』。但し、ただ吸収させるのではない。只管ボルテージを上げ、許容量を超えた電力をぶつけるのだ。黄金の輝きの中、暦は呼吸も忘れて力を送り続ける。
☆正午五五分 残り五分
次の瞬間、限界を超えた背鰭達が一斉に弾けた。凄まじい衝撃に、サンダスタルは大地に崩れる。それでも、その巨体は立ち上がろうと藻掻いたが、力及ばず。痙攣と共に、サンダスタルは沈黙した。
……だが、俺達に笑顔はなかった。
「もう、あんな色に……!!」
暦の言う通り、黒かった筈の結晶は今や純白に染まっている。漏れ出る紫電と共に結晶がドロドロと溶け出し、飲み込んだ木々を発火させていく様子は、臨界そのものだった。
☆正午五六分 残り四分
〈二人共、そろそろ引き上げて!!〉
サワさんの通信が俺達を怒鳴り付ける。
〈仕方なかったとは言え、殴り合ったせいでますます臨界が進んでる!! これ以上戦ったら直ぐに爆発するかもしれないわ!!〉
ギリギリの戦いだったらしい。あと少し遅ければ、タイムリミットを待たずして俺達は吹き飛ばされていただろう。その前に沈黙させられたのは、不幸中の幸いと言うべきか。
「分かりました。今引き上げます」
☆正午五七分 残り三分
ゼージスの巨大な右掌が、小さな勇者達を掬い上げる。果たして、ハッチが開くと共に見覚えのある顔触れが狭いコックピットに放り込まれた。
「あっ、あんたは!?」
四人の内、特に夫婦の衝撃は大きかっただろう。装置に繋がれた暦の姿……ワンダの白い隊服姿は、驚愕と気まずさを滲み出させるのに十分過ぎた。
「ごめんなさい。今は、何も言わないでください」
暦らしくない、何処か人間味のある声だった。四人は何も言わない。百の困惑の中、一の冷静さの為黙ってくれた。
「こちらゼージス。四人を無事回収しました」
〈でかしたぞ!! 一条君、今すぐ撤退するんだ〉
司令の許可を得て、ゼージスは背中のスラスターを燻ぶらせる。俺達は小さな勇者達に助けられ、何とか京都を守り抜く事が出来た。
次の瞬間、激しい衝撃と共に紫の光が背後から襲い掛かった。
轟音と悲鳴と共に、四人が悲鳴を上げる。ゼージスが振り向けば、こちらを睨み付ける凄まじい死相が瞳に飛び込んだ。
「アイツ、まだ生きていたの!?」
妻が叫んだ直後、大きく開いた大口から紫の輝きが溢れる。
(マズイ!!)
咄嗟にしゃがんだ巨体の頭上を、紫のレーザーが突き抜ける。電撃を収束させたであろう第二射は俺達の背後の山を貫通し、森を揺るがす。先程までとは次元の違う凄まじい威力だった。
……だが、俺達にはそんな事はどうでも良かった。いや、正確に言うと『相対的』にどうでも良かったのだろう。俺達の視線は、モニターに浮かぶたった一つのウィンドウに集中していたのだから。
〈警告!! スラスター破損〉
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます