第二九話 繰り返す言葉

〈竜君、原因分かったわ。やっぱり、怪獣っぽい〉

 

 日付が変わろうとする頃、サワさんから入った一本の電話が休暇の終わりを告げた。

 

(休暇らしくない休暇は、楽しめたか?)

 

 そう皮肉を垂れながらも、木野先生は俺に出来るだけの配慮はしてくれるらしい。怪獣災害で荒れた道でも力強く走る軍用ジープが、とても心強かった。


 ☆午後十一時五〇分 降川高校

 

 ボロボロの校舎の足元に、避難テントの艦隊が屯する。疲れ果てた人々は泥のように眠り、やってきた俺に足を見せびらかしているように思えた。

 

 意外な事に、暦がいたのはボランティア達の休憩室と化した教室だった。疲れ果て、まるで死んだように動かない彼らの側で、暦はすやすやと机に突っ伏していた。

 

「暦ちゃん」

 

 とろんとした白黒の瞳が、俺を見つめる。刹那、隊服に着替えていた俺の姿に只事ではない事に気付いたのだろう。すっと立ち上がり、あっさりと付いてきてくれた。


☆七月二三日 午前十二時 京都市街


「あの人達は、どっちなの?」

 

 夜風を浴び、ハンドルを握っていた俺は背後からいきなり問われた。バックミラーには、腑に落ちないような暦の表情。まるで、何も知らない幼児のような表情がワンダの隊服にミスマッチだった。


「あの人達? ボランティアさんの事?」


 塵に覆われた空から、僅かに漏れる月明かり。暦は、頬をほんの少し青く染まらせながら避難所での事を話してくれた。


 あまりに熱いコーヒーの事。


 助けてくれた少年二人の事。


 そして、電車の中で見かけたあの初老の夫婦と再会した事を。


「あの人達、正しくないのに、正しい事をしてたの」


 ジープの風に吹かれ、灰色の髪が靡く。あまりに綺麗なその輝きは、人というよりも『人形』だった。


「竜」


 眼前に迫るパレス・ベース。暦は、そちらへ視線を向けながら改めて問う。


「竜は、どう思う?」


 相変わらず、明確な答えなんて俺にはない。いや、正確には、俺は『答えを見つけてはいけない』のだろう。


(竜、後でピザのサイズ教えてね。約束だよ!!)


 数え切れない程の命。そして、親友とのちっぽけで、とても大切な約束。三年前、俺はどちらも守れやしなかった。そんな俺が、『正しい』の答えを決めるだなんて。傲慢だ。そんな資格なんぞ、俺にはない。


 ……だからこそ、やはりこう答えるしかなかった。


「ごめん。暦ちゃん、やっぱり俺には分からないよ。それでも答えるなら、あの時と同じだ」


 暦は、静かに返す。

「人間はそれだけじゃない、って事?」


 相変わらずの哲学者モドキな返答。暦の視線が痛かった。だが、俺に言えるのはこれだけだ。


「俺に、正しい、正しくないを断罪できる資格はない。ただ、『困ってる人がいるから、手を伸ばす』なのかな」


 正直な答えは、やはり自分でも意味の分からない言葉になって口から飛び出す。恥ずかしい。俺は、暦から逃げるように視線を逸らした。


 上空を戦闘機達が飛び回り、戦車達が街中で動き出す。ただならぬ雰囲気は、もう嗅ぎ付けられたらしい。流れていく視界に、大きなカメラとマイクを携えた取材班がチラホラと姿を現していく。


 戦いが、今まさに始まろうとしていた。

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