第二八話 古都の底に潜む影

 ☆午後八時 京都市街 地下送電線


 暗闇の中、ワンダ隊員達の重装備がガチャガチャとぶつかり合い、台車に乗せられた機器類がキュルキュルとコンクリートの床を進む。


 軍用電灯がジメジメとした壁を照らし、驚いたゴキブリやらヤモリやらがコソコソと逃げ出す。その後ろ姿を、社長は緊張した面持ちで見送った。


「……九瀬さん。原因は、ここにあるのか?」


 こくりと頷き、視線をタブレットに戻す。表示された地図の上には、沢山のピンが刺さっていた。


「不具合はある筈なのに、外から壊された形跡がない。だから考えてみました」


 ネイルで打ち込めば、ピン同士が次々と線を結ぶ。果たして、マップ上に幾重にも重なったリングが描かれた。


「この数日、電力が止まったタイミングをポイント毎に纏めてみたんです。多分、最初に止まった所に原因はあるって」


 一回目、二回目、そして、それ以降。色分けされたピン達は、不思議な事にある一箇所に集中していた。各々の発生時刻に限りなく近い数字を携え、下京の一角に身を寄せ合っていた。


「それが、ここという事か」

「ええ」


 データを見ても尚、社長の顔は半信半疑そのものである。


「この辺りは、我々も調べた。監視カメラに犯人らしき奴は映っていなかったが、ここで間違いないのか」


 信じられないのも仕方ない。コンクリート張りの廊下は、不気味な程の静けさを保っていたのだから。


「用意」


 あたしの号令に、隊員達が一斉に動き出す。台車の機器類をプロらしい手付きでセットし、機械仕掛けの第六感があたしに開花する。その手際の良さに、社長は驚いた表情を見せた。


「汎用不可視エリア探知レーダー、フィリップ・リブリア。こいつがあれば、見えない所も漫画を読むが如しって感じです」


 軽く自慢し、あたしはコピー機大の機械に向き合う。


「探知レベルをマックスに設定。出来る限り広範囲の地中を調べてみて」


 あたしの言葉に、フィリップは起動する。果たして、奇妙な音響がコンクリートに反響し、社長は感嘆の声を上げた。


「いくらで買えるかね?」

「まぁまぁ張りますよ。音声認識もできる人工知能搭載なんですから」


 冗談を交わしながらも、あたし達の心は張り詰めていた。結論を出せない、いや、出したくないという私情をその場の誰もが持っていただろう。それでも、あたしは祈っていた。

 

 その予想が、とんだ見当違いであることを。


「……ビンゴ」


 あたしは『正解』に嘆息した。真意を悟り、表情を歪める隊員達を前にして、社長は困惑のままフィリップを覗き見る。果たして、その瞳は予想していながらも堪えきれぬ衝撃にハッと見開いた。


 画面に展開された立体マップ。入り組んだ地下送電網の下には、巨大な影。


〈強力な生命反応を確認〉 


 あたしは足元に視線を落とす。静けさの真下に潜む『それ』に、誰もが鳥肌を立たせて息を呑んだ。


「怪獣です。ロズベオンが狙っていたのも、停電の原因も、多分こいつです」


 あたしの報告に、社長は何とか踏み止まっている。恐怖との格闘が、足の震えからも見て取れた。


「ここから、どうすればいい?」

「取り敢えず、あたしは上に連絡して引き継いでもらいます。ここからは、実戦部隊の仕事です」


 戦いが、すぐ目の前まで迫っている。その事実に、社長の表情はさらに青褪める。だが、その奥からは、絶対に投げ出さないという強い意志が垣間見えた。


「分かった。私は、市内の送電設備の全点検を行おう。ここが犠牲になる以上、私は代わりの送電ルートを探すべきだ」


 恐怖を振り払い、社長は携帯を手に取る。


〈市内の全送電設備の点検を開始せよ。この街の光が懸かっているんだ、全速力で行うぞ!!〉


 流石大富豪になるだけある指揮だった。ビシバシと指示を出し、声を上げる社長に、あたしは笑い掛ける。いつの間にか、右手はサムズアップの形をとっていた。

 

(しかし、何で……)


 そんな中、あたしの脳裏には一つの疑問が浮かび上がっていた。


(どうやってコイツは、電気を止めた?)



 

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