第二四話 コーヒー

☆午後五時 降川高校臨時避難所

 

「うげっ、まずっ」 


 避難民達でごった返す降川高校。先輩こと佐藤立弥サトウタツヤは不満げに乾いたパンを見つめる。最も、その手はパンをしっかり掴んで離さない。今のご時世、選り好み出来る訳が無かった。


「何すか、焼肉か牛丼でも出ると思ってたとでも?」

「『素敵な賄い付き』って学校でも言ってたじゃん。タダ飯ってワクワクしてたらこれだぞ、星野」

「食えるだけマシっすよ」


 そうは言いながらも、僕も同意している節があった。先輩の安オープンカーに乗って、遥々大阪から京都。そして、過酷な労働の果てがこれだと言うのか。


「まぁ、来たからにはやり切るけども」


 金髪にピアスという格好に似合わず、片手にはビッシリと書き込まれたメモ帳。


「次は炊き出し。その後はちょっと休んで救援物資の仕分けに見回り。星野は無理すんなよ」

「先輩が心配っすよ。炊き出し奪うんじゃって」

「ハイエナか俺は」


 ☆午後五時半 降川高校校庭

 

 壊れかけた校舎の前で、僕達は声を張り上げる。


「並んでください。順番守って」

「十分な量がありますのでどうか」


 熱々のコーヒーに、基地中の避難民が吸い込まれる。


 そして、異常なまでの苦さに思わず嘆息した。


「流石、『ブラックホール』だよ」


 寸胴鍋に恨めしげ視線を送る先輩。


「何が、『空壁ソラカベ喫茶店の味をご家庭でも!!』だ。腐ったコブラか火星の砂みたいな味しやがって」


 先輩の横で僕は嘆息した。今のご時世、これでもあるだけマシだろう。例え、缶に一ヶ月前の賞味期限が躍っていたとしても……


「お願い」


 物思いに耽りながら紙コップにコーヒーを注ぐ。苦渋の人気の果ての最後の一杯だった。


 オッドアイの少女は、何処か不思議な様子だ。興味深く見つめ、クンクンと嗅ぐ。


 次の瞬間、彼女は冷ますことなく一気に飲み干し、激しく咳き込んだ。


「「!?」」


++++++++++++


 午後六時 降川高校校庭

  

 男の子…星野はペットボトルを片手に慌てて戻ってきた。口に含めば、心地よい冷温が火傷を癒やす。そんなわたしに、『先輩』とやらは怪訝な様子だ。


「それ今日の夜お前が飲むって冷やしてた奴だろ? わざわざクーラーボックスまで用意して……」

「あと三本持ってますよ。それに、今夜はカレーだそうですよ。それに比べりゃ茶一本くらい惜しくないです」

「だからって、茶なんて高級品……」


 軽く言い合う二人。そこからわたしが感じたのは、根っからの善意とはかけ離れた利己的な感情。


(何でだろう)


 なのに、二人はあの糸目ほど邪悪なようには見えない。


 『正しい』と『正しくない』。


 ……矛盾しているのに。 

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