第四話 東京空中決戦
☆午前七時二十分 港区芝浦
激しく燃え上がる街。抵抗を続けるトーチカ達を、赤い熱線が切り裂く。轟音と崩壊の中、重厚な咆哮が街を揺るがす。
折れかけた鉄塔の麓、火山を背負いし竜は口から黒煙を燻らせながら進撃する。灼熱の体温にますます燃え上がる街をバッグに、黒の威容を見せ付けた。
「派手にやったな」
現場に到着した時、司令は呟いた。業火に変わり果てた街は、脅威を自らの断末魔を持って叫んでいた。
「データ照合」
俺達が恐怖する中、司令はどこまでも冷静だった。オペレーター達は我に返り、仕事に取り掛かる。
「データベースに特徴の一致する怪獣を確認、炎山怪獣ボルメラーです!!」
モニターにウィンドウが浮かび上がる。
「強力な熱線を武器とする地底怪獣の一種です。記録によりますと同種が五四年、六六年にそれぞれ銀座・竜ヶ森に出現。特に前者は史上初の怪獣災害ということもあり、甚大な被害を観測しています」
俺達の顔には、抑えきれぬ怯えが浮かんでいた。
「現在対象は北上中、予想進行ルート上に湾岸シェルターがあります!!」
俺達は戦慄した。ここからでもシェルターの丸い屋根がはっきり見える。その足元には、逃げ遅れた多くの人々の姿があった。
司令は、至極冷静に尋ねる。
「その後は?」
「両個体共に、矢口式十六番凍結弾の一斉掃射で討伐されています」
「残弾は?」
手を動かすオペレーター達。
「ビンゴです、厚木の基地にて残弾を確認!!」
報告を聞いた司令は素早い。
「厚木に出撃要請」
司令の眼差しが噴火する巨体を見据える。
「対象をボルメラーⅢと命名。作戦目標は対象の北上阻止。援軍が来るまで我々が時間を稼ぐぞ!!」
「了解!!」
各部ハッチが重厚な金属音と共に展開。ミサイル砲が飛び出し、バルカンが輝く。ビーム砲は砲身にバチバチとエネルギーを迸らせ、ボルメラーを捉えた。
「撃ち方よし!! いつでもぶっ放せます!!」
報告と共に俺は操縦桿を握り直す。
「攻撃開始!!」
号令と共に、ロックホークは火を吹く。爆煙と共に無数のミサイルが宙へ拡散し、マズルフラッシュが迸り、黄金の閃光が天を切り裂く。
次の瞬間、無数の爆発が巨体を飲み込み、弾丸の暴風雨が漆黒の鱗を穿つ。街中に響き渡る咆哮。閃光は火花と共に突き刺り、強烈な衝撃波が街中の窓達を割る。
「全弾命中!!」
「油断するな、勝負はここからだ!!」
それは、決して悲鳴などではなかった。火山が激しく噴火し、漆黒の巨躯が赤く染まる。荒ぶる怪獣の喉奥に、憤怒の業火が渦巻く。
「来るぞ!!」
次の瞬間、耳を劈く高音と共に真紅の奔流がプラズマと共に天を貫く。ロックホークを掠めた灼熱の一撃は背後のビル群を次々と薙ぎ払い、轟音と共に焼き焦げた廃墟へと変える。不協和音と共に激しく揺れる機体。悲鳴の中、操縦桿を握る手は緊迫に濡れた。
「一条君、被害状況は!?」
重力の中、司令は背後から問う。
「機体下部に中程度の損傷!! 直撃すればひとたまりもありません!!」
俺は操縦桿を動かし続ける。次々と襲い掛かる熱線の嵐を間一髪で躱し続け、攻撃を続ける。東京の空を飛び交う弾幕と熱線。
だが、撃てども撃てども、巨岩の如き巨体は傷一つつかない。熱線が掠めるたびに司令室に衝撃が走り、警報と悲鳴が司令室を支配していく。
「駄目です、進行止まりません!!」
凄まじい重力の中、俺は叫ぶ。脳裏によぎる敗北と死の二単語。最初は曖昧だったイメージは熱線が機体を掠める度に明確になっていく。
そんな中でも俺が操縦桿を握り続けられたのは強い決意故だった。シェルターに避難したであろう薫達は何を思っているだろうか。怖がっているだろうか。俺を自慢しているだろうか。だが、いずれにせよ確かな事は一つ。あいつらは俺の帰りを待っている。
絶対に、薫達と彗星を見てみせる!!
司令は決意を後押しするように叫んだ。
「作戦変更だ!!」
突然、弾幕がボルメラーの背後へと矛先を変えた。もはや反撃すらままならない。そう判断したボルメラーは愚直に撃ち続けた。プラズマ迸り、荒れる空。勝負は付いた。真っ向勝負『では』、勝利の女神はボルメラーに微笑んだのである。
金属が軋むような異音。ボルメラーは異変に気付く。
振り返った時、その目に映った紅は溶かし切るにはあまりに巨大すぎた。
衝撃が街を揺るがし、土煙が舞い上がる。完全に崩壊したメタルツリーの大質量が、堅牢無比の甲殻をバキバキと砕き、悲鳴と共に進行を止めた。
「対象、行動不能です!!」
俺の報告に司令は呟く。
「監視局、仇は討ったぞ」
その時、待ち侘びた一報が入った。
〈こちら厚木、只今到着した!!〉
ロックホークを追い抜き、戦闘機達はソニックブームと共に急降下。凍結弾が降り注ぎ、白の爆発が連鎖する。冷気が炎を飲み込み、火山は氷山へと変わっていく。怒りの咆哮もやがて悲鳴へ、真紅の巨体は元の黒へと回帰。
鉄塔ごと凍てつき、ボルメラーは白く染まった。
「対象、沈黙です!!」
歓喜の中、司令の険しい表情は安堵の笑みへと変化した。
「礼を言う。諸君らの勇気が、多くの命を守ったのだ」
素朴な感謝に感激する俺たちをよそに、司令は通信する。
「厚木部隊に通達。我々は貴殿らの勇気に最大の賛辞を送る」
感謝を伝え、号令した。
「これより我々は帰還する。今日は、皆の勇気に乾杯だ」
誰もが戦いの終わりを確信する中、氷像に目をやる者はいなかった。
高音が響き渡る。刹那、凄まじい奔流が天を貫き、一機の戦闘機を飲み込んだ。
「な、なんだ!?」
鉄塔の残骸がドロドロと溶け、灼熱の溶鉄が瓦礫達を飲み込む。白黒の煙の中、俺達は立ち上がる巨体を見た。
「ま、まさか」
それは、つい先程氷山と化したはずの火山。消えかけた炎は主の煮え滾る激情に当てられ蘇り、やがて臨界の蒼に染まる。
氷を溶かし、ボルメラーは復活した。
「馬鹿な、解凍だと!?」
唸り声と共に闊歩する巨体。地響きの中、熱気に当てられたアスファルトがボコボコと沸騰を始める。
「凍結弾だ、残弾発射せよ!!」
冷や汗と共に放たれた号令を受け、絶対零度の暴風雨が再び降り注ぐ。だが、次々と弾けた冷気達も灼熱に焼き払われ、進撃は止まらない。戦慄の中、憤怒に燃える蒼の瞳が睨む。
噴火の如き大咆哮が廃墟を激しく揺るがす。刹那、纏った炎はますます蒼みを増し、激しく燃え上がる。喉奥に渦巻く灼熱は蒼い閃光と化し、口から死の輝きが溢れた。
「よ、避けるんだ!!」
次の瞬間、逃げ遅れた戦闘機達は蒸発した。そのまま幾つものビルを貪り、ボルメラーの巨体が後退する。掠めてさえいないのに、激しい衝撃が機体を襲った。悲鳴の中、よろめくロックホークを狙い、第二射、第三射が次々と襲い掛かる。逃げることしかできなかった。巨躯の亀裂から蒼いマグマが激しく噴き上がり、ボルメラーが纏う灼熱は激情と共にさらに勢いを増していく。
「エンジン出力低下!!」
「損傷率危険ラインを突破!!」
「武装やられました、戦闘不能です!!」
飛び交う報告の中、俺の手は震え、息が荒くなる。怖い。そして、悔しい。死という物はこれほどまでに恐ろしく、これほどまでに無念なものなのか。死を前にして、俺は今さらそう思った。友達と別れたくない。父母に顔向け出来ない。ここで死ぬ訳にはいかない─
重低音の咆哮、大きく開いた口から渦巻く炎が狙いを定める……
次の瞬間、赤い閃光が視界を奪った。鼓膜を破らんとばかりの轟音。最初、俺達は自分の断末魔を聞いていると考えた。今まさに、火に焼かれ死んでいく最中だと信じて疑わなかった。
異変に気付いたのは、俺達が口を開いていなかったからだった。俺達の体は原型を保ち、心臓は尚もバクバクと鼓動している。混乱の数秒、真実に目の当たりにする。
天から降り注ぐ光の激流に呑まれていたのは、ボルメラーだった。マグマさえ跳ね返す強靭な肉体を焼かれ、悲鳴が大気を震わせる。光はますます勢いを増し、周囲を吹き飛ばしながら大地を穿つ。
ボルメラーは煮え滾る大穴を残し、視界から消えた……
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