第三話 ロックホーク出撃せよ

☆午前七時五分 バード・ベース 食堂


〈緊急放送、緊急放送!! 緊急怪獣警報発令!!〉


 突然、基地中が殺気立つ。紅の回転灯の中、職員達は一斉に顔を上げた。


〈港区にて怪獣の出現を確認、全職員は持ち場へ急げ!! 非戦闘員は食堂に集合、迅速に避難せよ!!〉


「竜」

 不安気な表情を浮かべる薫。俺は、サムズアップを送る。強がってみても、冷や汗が完全に止まることはない。それでも、薫には薫の、俺には俺の出来ることをやるだけだ。


「ソーセージだ」

「え?」

「ソーセージピザで頼む」


 呑気な台詞に笑う薫。


「捕らぬ狸の皮算用?」

「捕った狸さ」

 俺は笑い返し、走り出す。


「竜、後でピザのサイズ教えてね。約束だよ!!」

 背に声援を受け、先を急いだ……


++++++++++++

  

 ☆午前七時五分 港区 東京メタルツリー


 巨大な紅の鉄塔の頂上に勤めて二十年、あたし、鈴木スズキエミはここからの街並みが大好きだった。


〈こちら怪獣監視局。報告を開始します〉

 背後がやけに騒がしい。いや、『やけ』ではないか。本当にやけなのは、これでも冷静なあたしなのか?


「エミさん、さっさと逃げますよ!!」

「話聞けっていつも言ってるでしょ!! あたしは足手まといだってば!!」


 煩い後輩たちに義足を見せ付け、半ば強引に追い出す。だが、それでも去りゆく背中には迷いと後悔があった。全く、少し考えたら分かるはずだ。眼下に広がる炎の海を、あたしを背負って逃げられるはずない。

 

 黒煙が立ち昇り、街に熱風と火の粉が吹き荒れる。燃え盛る真紅の業火は逃げ惑う人々を次々と飲み込み、ビル群は轟音と共に崩壊していく。

 

 そんな灼熱地獄を巨大な火山が街を我が物顔で闊歩していた。トーチカ達の激しい砲撃を物ともせず、熱線を放つその巨体にゴクリと息を飲む。


〈監視局、至急退避せよ!!〉

〈逃げられない私以外は全員避難済みです〉


 刹那、轟音が鳴り響く。熱線が命中し、鉄骨が崩壊を始めた。激しく揺れの中、オフィスが耳を劈く金属音と共に傾き始める。カップコーヒーが溢れ、コンピューターが倒れる。全ては窓へ突進し、ガラスの飛沫と共に落ちる。熱風を浴びながら、あたしは通信席に必死にしがみつく。


〈怪獣は五分前に芝浦地中より出現!! 現在監視局周辺を闊歩しています!!〉 


 次々とコードが千切れ、火花が激しく飛び散る。まるで、手向けの様だった。


〈かなり強力な怪獣と思われます!! 至急、出動命令を!!〉


 次の瞬間、あたしは宙へと投げ出された─

 

 ☆午前七時十分 バード・ベース司令室


 砂嵐。モニターが切り替わり、再び燃え盛る街が映し出される。


「遂に、来てしまったか」


 司令は呟く。同じ気持ちだった。いずれ来るとは分かっていたのに、いざとなると恐ろしい。俺達の顔に冷や汗が浮かぶ。だが、逃げ出す訳にはいかない。俺達が逃げ出して、一体誰が愛する人々を守るのか?


 捨て身の強がりに、司令は応える。


「関東全域の各基地へ通達。人々の避難誘導を開始せよ」

 強い決意と覚悟を浮かべ、号令した。

「ワンダ!! テイクオフ!!」




〈出撃準備!! これより本機は出撃する!! 各班は武装及びエンジンの最終点検を急げ!! 繰り返す……!!〉


 大声と足音が飛び交う中、司令室に大量の通信が押し寄せる。


〈報告、メインエンジン問題ありません!!〉

〈武装、異常なし!!〉

〈非戦闘員全員の下船を確認!!〉


 出撃準備が進む中、駆動音と共に床から操縦席が迫り上がる。


「若き天才の力、見せてくれ」

 司令の激励を背に受け、深呼吸。目を閉じれば、薫達の笑顔が浮かび上がる。凄まじいプレッシャーと緊張を押し殺し、俺は操縦桿を握った。 


「絶対に、守り切る」


「報告、全出撃シークエンスの完了を確認!!」

 その報告に、俺達は覚悟を決めた。


「ロックホーク、変形!!」


 司令の号令と同時に、要塞は駆動する。重厚な金属音と共に折り畳まれた翼が展開。盾と地球を象ったワンダのエンブレムが輝く。後部のシャッターが重々しく開き、巨大なジェットエンジンが顔を出す。銀の要塞は空中戦艦ロックホークへと変形していく。


「変形完了、離陸します!!」

 土煙と爆風が吹き荒れる。銀の巨体はゆっくりと離陸し、徐々に高度を上げていく。

「オールグリーン、準備万端です!!」

「ロックホーク、出撃!!」


 操縦桿を倒す。瞬間、エンジンの爆炎と共に銀の翼が風を切り裂く。巨体は加速し、戦場へと飛翔した。

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