Aパート
奥沓村に着くと、早速、山本の家に向かった。呼び鈴を押すと男が出てきた。
「どちら様で?」
40過ぎのしょぼくれた男だった。調子のいい詐欺師・・・そんな風には見えない、田舎の村にいるごく普通の村人だ。私は警察手帳を見せた。
「警察です。山本三治さんですね?」
「ええ、そうですが・・・」
彼の目は泳いでいた。後ろめたいことがあるように見える。そこで逮捕状を見せた。
「20年前の大山泰三さん殺害および強盗の容疑であなたを逮捕します」
「お、俺じゃない! 俺はやっていない!」
山本はそう訴えたが、すぐに横から毛利巡査長と上野巡査が抱えるようにして抑え込んだ。
「詳しくは署の方で事情聴取します」
2人はそう言って山本の両手に手錠をかけると、引っ張って行ってパトカーに乗せようとした。彼は観念したのか、暴れることもなくおとなしくそれに従おうとした。だがふと山の方を見上げた時だった。彼の顔色が変わった。
「あっ! ダメだ! 吹雪が来る! 今行けば危ない!」
山本は騒ぎ出した。それを毛利巡査長と上野巡査が抑え込んだ。
「嘘を言ってもダメだ。署に行きたくないからそんな嘘を言っているのだろう」
「おまえはこの村じゃ、嘘つきで通っているんだ。でたらめを言うな!」
だが山本はなおも訴えていた。
「嘘じゃない。本当だ! 本当に危ないんだ!」
「まあ、いいから乗れ!」
上野巡査が無理に山本を後部座席に押し込めてその横に座った。私は反対側から後部座席に乗り込んだ。
「刑事さん。信じてください。これから吹雪が来ます。このままじゃ・・・」
山本は私にまでそう訴えかけた。だが運転席におさまった毛利巡査長は一喝した。
「いい加減にしろ! 天気予報は晴れだったんだ! 嘘を言うな!」
それで山本はおとなしくなった。それでこのまま私たちはパトカーで山の峠を越えて署に戻ることにした。
山本はじっとうつむいていた。今の様子からして彼が強盗殺人の罪を犯しているようには見えなかった。年月が人を変えてしまうというのか・・・。
20年前の早朝、貸金業の社長である大山泰三が自宅で殺されているのが、彼の長男である雄一によって発見された。首をネクタイで絞められていたのだ。部屋も荒らされ、金品も奪われていた。
現場からは犯人と思われる指紋が出た。だが前歴もなく、捜査線上にこの指紋を持つ者が挙がらなかった。それでお蔵入りしていた。
だがその指紋が出てきたのだ。山本が村の人とトラブルになり軽いけがをさせた。それで傷害事件として指紋が取られた。それが20年前に事件の指紋と一致したのだ。そこで再捜査が始まり、強盗殺人事件の容疑者として逮捕することになった。
(嘘をついて村の人にケガをさせたくらいだからやはり犯人なのかも・・・。とにかく事情聴取すればはっきりする)
そのこと以外に私が気になっていることがあった。山本が吹雪が来るのを必死に訴えていることだ。
(もしかしたら吹雪が来るのかも・・・)
パトカーの窓から何度も外を見た。だが天気が崩れる様子はなかった。それで私は少しほっとしていた。
だが山の天気は変わりやすい。しばらくすると空に黒い雲が見えてきた。もう山の峠にかかる頃だ。そして雪が降り出した。
「戻りましょうよ。大雪になりますよ」
山本はまた訴える。だが毛利巡査長は頑として受け付けない。
「峠を越えたら大丈夫だ。すぐに抜けられる!」
だが次第に雪は激しくなり、どんどん道に降り積もっていった。このパトカーは雪道用タイヤを履いた四輪駆動だが、こうなるとさすがに前に進めなくなった。
「こりゃ、だめだ・・・」
毛利巡査長がそうつぶやいて外に出た。すでにパトカーはスタックしている。全員が降りてパトカーを押したりしたが、そこから脱出することはできない。さらに雪に埋まっていく・・・。
「こりゃ、引き返すしかないな」
雪は小降りになってきていた。だが通りかかる車はないだろう。村までなら何とか歩いて戻れる・・・毛利巡査長はそう考えたようだった。
そこで私たちは奥沓村に戻ることにした。雪の中を凍えながらなんとか歩き続けた。この道を進めば1時間もあればたどり着けるはずだった。
だが急に上の方で大きな音がした。それに地響きもしていた。
「雪崩だ!」
山本が叫んだ。上を見上げる真っ白な大きな塊が滑って落ちてくる。私たちはあっという間にそれに飲み込まれてしまったのだ。
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